10Q 2
その日の昼、誠凛高校男子バスケ部の部員は、リコによって廊下に召集された。
何も、2年から1年に用があるということらしい。
リコを先頭に集合した2年を前に、火神、白美、黒子をはじめとした1年たちが向きあう。
「何スか、用って」
「ちょっとパン買って来て!」
尋ねた火神に、リコが朗らかに答えた。
「は?」
「パン?」
「――パンですか」
白美はリコの表情が妙に明るい事を疑問に思いつつ、他の1年同様首をかしげる。
「実は誠凛高校の売店で、毎月27日だけ、数量限定で特別なパンが売られるんだ!」
「……はぁ」
「それを食べれば恋愛でも部活でも必勝を約束される、という噂の幻のパン。イベリコ豚カツサンドパン三大珍味のせ、キャビア、フォアグラ、トリュフのせ、税込2800円!」
「高っけぇ……」
「それに、やりすぎて逆に品が無いというか」
白美はあからさまにキラキラしいそのパンについて聞いて、眉を寄せた。
だが、あくまでも先輩たちは気にしていなさそうだ。
「海常にも勝ったし、練習も順調、ついでに幻のパンもゲットして、はずみをつけるぞ、ってわけだ」
日向が説明する。
「けど、狙ってるのは私たちだけじゃないわ。んー。いつもよりちょっとだけ混むのよ」
リコはさりげなくそう言った。
が、その途端日向が視線をどこかに逸らしたのを見て、白美はリコの言うちょっと、が”ちょっと”であることを悟った。
「ッハ、パン買ってくるだけだろ。ちょろいじゃん――ですよ」
火神は笑ってそういうが、間違いない、これはフラグであると確信する。
そこで日向は火神に茶色い封筒を差し出した。
「ホイ」
「あっ?」
「金はもちろん俺らが出すついでにー、皆の昼飯も買って来てー。ただし失敗したら……」
日向は、にこっと笑って言葉を続ける。
「釣りはいらねぇよ……? 今後筋トレとフットワークが三倍になるだけだ……」
(あ、俺関係ねぇ)
なんだよかった、と白美は無表情の中微かに口角を上げた。
けれど、他の一年からしたらそれどころではない。
「こえぇ! お昼の買いだし! クラッチタイム!!」
「あぁ、早く行かないとなくなっちゃうぞ〜?」
「伊月、先輩……」
「大丈夫! 去年俺らも買えたし。パン買うだけ……――パン!?」
クールに先輩っぽくしていた伊月だったが、途端スイッチが入ったのか、メモとペンを取り出した。
「パンダのえさは、パン……だ」
「いってきまーす」
寒いダジャレを背後に、一年はころっとその場を去っていく。
一方彼等の姿を心配そうに見送る水戸部に対して、小金井は「いつも心配しすぎだよ水戸部〜、おかんか〜」と笑いかけた。
「ったく、何がちょっとだけだよ」
「え〜?」
とはいえ、見送る2年生の表情は、なんだか生き生きしていた。
「これから毎年、一年生の恒例行事にするわよっ!」
「マジか……」
(go on errands)
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