01Q 2
 ゴォオオオオと唸るような音を響かせて、滑らかなフォルムの白い巨体が空に飛びだす。
 やがてそれは立ち並ぶ数々のビルの上、翼を傾けて大きく旋回すると、真っ青にどこまでも広がる天へ、高く、高く昇って行く。

 雲一つない快晴の空で輝く太陽が、白い身体に反射してキラッと光った。





 飛行機の中でも上級のサービスが施される特別な空間――、ビジネスクラス。
 その空間の最前列左側の席に、長い足を優雅に伸ばしてゆったりと腰掛けている、若い男がいた。

 彼は滑らかな光沢を放つ煙った白のスーツを着こなし、ビジネスクラスの雰囲気にに何ら遜色のない洗練された気品を放っている。

 それどころか、人工的な眩しさは感じさせない純白の長髪をサラサラと肩に流し、端正なその顔を物憂げとも取れる無表情にとどめ、頬杖をついて手元の雑誌に目を落す姿は、周辺の女性客や行き交うCA達の視線を集めて余りあった。

――ところで、一体彼は何の雑誌を読んでいるのだろう。綺麗な手でそのページを捲る事、1時間は過ぎていないだろうか。

 本日何回目か知れない、彼ご所望のオレンジジュースを持っていった時、CAの一人はふと思った。
 あまり勧められるべきことではないのだが、一瞬チラッと目線をやる。

 鮮やかな表紙や記事が目に映った。

――『月バス』。
 バスケ界に関する最新情報を毎月読者に提供する、日本の月間バスケ雑誌だ。

 この月バスといえば、毎月色々と異なった特集を組んで、話題性のある情報を読者に届けている。

 彼女は見過ごしたが、彼が持っている雑誌の表紙に書かれている特集の内容は、『中学男子バスケ 全中連覇の超強豪 帝光中学校』について、特にそれを牽引する天才5人他――、『キセキの世代』について。

 彼女は終始知る事はなかったが、非常にゆっくりとしたペースで繰られるページに印刷されているのは、赤司征十郎、紫原敦、青峰大輝、緑間真太郎、黄瀬涼太、とバスケ界で名の知れた期待の天才5人。そして、それを支えるマネージャー、桃井さつき。生憎忘れられたメンバーが一人。そして、名前と説明のみ記載された、5人が特別視する試合に出ない『トリックスター』。

 他ならぬ、彼らのことだった。


 ところで、表紙に記載された月名に対し、現在は3月――、過去の物だ。

 どうやら彼は丁寧にページを勧めたり戻したりしているようだったが、それは相当読み込まれているようで、ところどころに折れ線や破れた部分が見受けられた。

――なるほど、彼は背も高いようだし、まだ未成年だろう。彼は細身の外装に反して、バスケをやるのかもしれない。意外ではあるけれど。雑誌が無かったら、誰もそんなこと考えないだろう。人は見かけによらない。

 彼女は思った。

 そして、いい加減飲み過ぎじゃないかと思われる(余計なお世話だろうが)オレンジジュースをそっと渡し、一礼して彼の元を去った。



 やがて、飛行機は長時間のフライトを経て、日本の東京近辺の空港に着陸した。





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