04Q 2
 深更――、相田スポーツジム兼相田家自宅の一室の窓から、時間にも関わらず淡い蛍光灯の光が漏れ出していた。
 照明が落とされデスクライトのみの頼りに、眼鏡をかけて相田リコはノートにペンを走らせる。
 その背後には、父親である相田景虎が腕組みをして扉に寄りかかっていた。

「今年もやる?」

「衆人監視の中で、最大限の力を発揮するには、あれぐらいの度胸は見せてもらわないと……」

「それは、お前の乗せる方便だったんじゃないのか」

 呆れたような父の問いに、リコはペンを止めると頬杖をつき、フッと微笑んだ。

「今年も乗せて欲しいの」

 景虎は「乱暴だなァ」と呟くと部屋の扉を開く。
 ギィという木の軋む音に、リコが「ん」と振り返れば、扉の隙間から顔をだした景虎が口を開いた。

「熱心なのはいいが、お肌に悪いぞ。もう休め」

「もーちょっと! 二年の個別プログラムを詰めとかないと」

「大概にしろよ」

 景虎はそう言って扉を閉じたが、その声や表情からは優しさが溢れていた。
 リコは、静かになった部屋で一人、再びノートに眼を落すと、「育てるっていいわぁ」と呟いた。

 その時、今しがた去って行った足音が、再び近づいてくる音が聞こえた。
 ノック音と共に、扉の向こうから「リコ」と父の声がする。

「ん、なぁに?」

 リコが尋ねると、小さく扉が開いて廊下の光が部屋に差し込んだ。
 景虎は、扉の枠に凭れ掛かるようにして、リコの部屋に入る。

「少し、お前に言っておくことがあった」

 そう言う父の声は、微かにではあるが普段より更に低くて、リコは真顔で振り返る。

「何?」

 そうすれば、真面目な顔をした父と眼があった。
 一拍を置いて、父が口を開く。


「           」

 景虎の言葉に、リコはハッと息を呑んで瞠目した。

 しかし景虎はそれっきり彼女から眼を逸らすと、静かに部屋から出て行った。




 



(――――)

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