淹れたてのコーヒーにたっぷりミルクを入れて、ティースプーンでくるくると混ぜる。
甘い香りが漂う室内で、彼は私の手元をじっと見つめていた。

「どうしたんですか、コーヒー冷めちゃいますよ」
私が声を掛けても返事が返ってくる事はなく、心なしか眉間に皺がよった感じがした。
具合が悪いわけでもなく、機嫌が悪いわけでもないのだろう。
この人はいつだってこの調子だ。
それにしても人を部屋に呼びつけておいて黙り込んでいるなんて。
まあいいや、一人でこの穏やかな時間を楽しむとしよう。

会話の無い、静かな時間が過ぎる。
気がつくと彼はコーヒーカップに手を着けていた。
私と同じサイズのカップなはずなのに、彼が持つと私のより小さいモノに見える。
どこか上品さを感じさせるしなやかな指は、よく見ると骨ばっていて男性らしい。
しばらくそうやって観察していると彼がそれに気づいたらしく、フン、と鼻で笑った。

「何か興味を引くモノでもありましたか」
彼の視線が、私の瞳へと移される。
気味の悪いほど整った顔立ちに見つめられ、息が詰まる。
「あ、いや、綺麗な手をしてるなー、と」
素直に言ってしまうとだんだんと気恥ずかしくなり、自分の周りだけ気温が上昇したように感じた。
「私の手、乾燥しちゃったりであんまり綺麗じゃなくて。羨ましいなって」

するとテーブルの向かい側に居る彼がすっと腕を伸ばし、私の手に触れようとする。
しかしあと少しの距離で、私の元には届かなかった。
「いやいや、見せませんからね?」
私はその意味に気がつくと慌てて身を後ろに引いた。
「俺は×××の手、凄く綺麗だと思いますがね」
そう言うと彼はソファから立ち上がり、私の背後に回ってきた。
「あの、そこまでして見たいんですか」
「はい」
何を言っているのだこの人は。
逃げるほどの事でもないだろう、と観念した私は、大人しくされるがままにする事にした。
手に持っていたほとんど空のコーヒーカップが私の手から奪われ、テーブルに置かれる。
「あんまりじろじろ見ないで下さいよ?」
彼の手が私の手首を軽く掴む。
至近距離で注がれる視線がくすぐったい。
するすると指の間を撫でられ、心臓がどくん、と大きく脈打つのを感じた。

「…あの、そろそろやめませんか。恥ずかしいんですけど」
沈黙のまましばらく続いたその行為に耐えられなくなり、声を絞り出す。
飽きる事なくわたしの手を眺め続けるその姿からは若干の狂気すら覚えた。
握られている手から、とくん、とくん、と彼の脈を感じる。
「嫌ですか」
「嫌じゃないんですけど、やっぱり異性に触れられてるというのは…」
なんだかドキドキしちゃって。
「そうですか」
そう答えた彼の声は、普段見せない優しい色を含んでいて、心地よく耳に入ってきた。

「いつまでやってるつもりですか」
「貴女が良ければいつまでもやっていたいですね」
「……まあ、いいですけど」

(峯さんなら。)


午後の時間は優しく二人を包む




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