「風邪ェ?」

真島さんの無駄に大きな声が部屋に響く。

「うるさいなあ…病人なんだから静かにしてよ」

わかっとるわかっとる、とわかってなさそうな態度で真島さんは私が横になっているベッドの傍に片膝を立てる格好で座った。

「ほんで、熱はあるんか?」

「そうなんだよね…風邪はひいても、熱なんて滅多に出ないのに」

重い頭を真島さんの方に向けて答える。
微かに霞む視界に、ニヤニヤと唇を歪ませている真島さんがいた。

「顔真っ赤にしおって。布団に包まってるとほんまガキみたいやのぉ」

何がおかしいのかわからないが、ケラケラと楽しそうに笑っている。

「弱ってるんだからしょうがないでしょうが。こんなときに大人の色気出してどうする」

そう言って、ああ、でも大人の女性が弱ってたらそれだけでエロいかも、とくらくらする頭で考えた。

「まあゆっくり寝とくんやな」

真島さんが革手袋を外した手で額を撫でる。
指先が少し冷んやりしていて気持ちいい。

なんだか、優しいなあ。
身体が弱っているせいか余計にそう感じる。
連絡したらすぐ来てくれたし。
なんてぼけっと思ってみた。

「薬は飲んだんか?」

「うん」

「ほな後は効くん待つだけやな」

よっこらせ、と真島さんが立ち上がる。

「帰るの?」

「寝てなアカンやつの部屋におってもしゃあないやろ」

私に背を向けた真島さんが振り向きもせずに言う。

「そうだけど…」

「なんや、俺に側におってほしいんか?」

廊下の曲がり角から真島さんがニヤニヤ顔でこちらを見てくる。
壁から顔だけ出ていてなんだか気持ち悪い光景だ。

私は答えられずに口元まで布団に潜る。

「ほな、帰るで」

扉がきぃ、と開く音がする。

「真島さん」

姿が見えない真島さんに、聞こえるか聞こえないかの声で呟いた声。
それをかき消すようにドアが閉まる音がした。




「しゃあないなあ、×××ちゃんがそこまで言うならここにおったるわ」

出ていったと思われた真島さんが戻ってきて再びベッドの横に腰をおろした。

「帰るんじゃなかったの、それにそこまで言ってないし」

そう言いながらも口元が緩むのが抑えきれずに更に布団で顔を隠した。

「…ありがとう」

「なんや、なんか言うたか?」

「何も」

「にやついて気持ち悪いやつやのぉ」

そう言って、今日見た中で一番優しげに笑った真島さんに涙が出そうになった。

「はよ治るとええな」

「うん」

布団の中で右手がきゅっと握られる。

「ここにおったるから、安心して眠り」

すでに幸福感でうとうとしていた私は、その真島さんの声を聞いて眠りに落ちた。


ウイルス




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