泣くなて、×××。


優しく耳元で囁かれた言葉に、余計に涙が溢れてくる。

冴島さんに、しばらく東京を離れると告げられたのは先程の事で。
それからずっと、抱き合ったまま離れられずにいる。

いつもなら幸せを感じられる冴島さんの腕の中も、今はただ悲しみしか感じられない。


「ほんまに、俺は我儘やな。×××が泣くの分かっとっても、決めたのは自分やのに」

すまん。
そう言って冴島さんは私の髪を撫でる。
そして、唇が額に触れる感覚がした。

「謝らないでください」

声が震える。
私の言葉には静寂に吸い込まれていくようだった。




どちらも声を発さないまま時間が過ぎる。

時折、私を抱き締める冴島さんの腕の力が強くなり、その度に耳元に感じていた冴島さんの心臓の音が大きくなった。


「一人で平気か?」

「…大丈夫です。心配しないでください」

「ほんなら安心や。こっちには真島もおるし、何かあったら遠慮せんで頼り」


本当は、大丈夫じゃない。
頼りたいのはあなただけなのに。
と、心の奥に本音を隠す。

あなたがいないだけで、私の世界は生きる価値がほとんど無くなってしまったようなもので。

それなのに、行かないで、という言葉が、どう頑張っても声にならない。


「ちゃんと、帰ってきてくれるんですよね?」

「俺は×××のとこに帰ってくる。絶対や」


そう言った冴島さんの声は、嘘じゃないと信じられる大きな力を持っていて。

その言葉に、はい、と返事をしたはずが声にならずに私は頷く事しか出来なかった。


「愛してる。×××」


全部、嘘ならいいのに。

そう、思った。


嘘と愛情


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