promise-1




「お前、火拳のエースだな」
「……おお、見つかったか」


なんて、結構かっこよく食堂で話してたのに、この様は一体なんだ。


「……なんで助けた」
「なんで、ってそりゃ、成り行きだ」
「成り行きで敵を助けるのか」
「ま、そんなこともある」


にかっと楽しそうに笑って、帽子に着いた埃を払う。
私服だった俺も悪いが、食堂で賞金稼ぎに襲われ、火拳と会話していたせいもあって、仲間だと思われたようだった。
そして一緒に追われ、襲われ、不意を突かれたところを火拳に助けられた、というわけだ。


「追わないでくれると助かるんだけど」
「……借りを返すだけだ」
「お、話分かるなあ」
「さっさと行け」
「なあ、名前教えろよ」
「一海兵だ。覚えなくていい」
「いいだろ、別に。教えろよ」


言い募るエースに根負けしてため息をつく。

「……アベルだ」
「へえ、アベルっていうのか! じゃあな、アベル!サンキュー!」

手を振りながら走り去る火拳の背中を、見えなくなるまでずっと見送ってしまった。






それからというもの、俺と火拳の遭遇率は異常なほど高くなった。
なにがしかの縁とやらで結ばれてしまったのだろうか。

「よお、アベル!」
「……馴れ馴れしく名を呼ぶな。お前、俺から追われる側だってこと分かってるか?」
「いいだろ、そんな細かい事」
「細かくないだろ……」


「言っておくが、借りはもう返してるんだからな」そういうとエースは、「んーと、」と考えるそぶりを見せたあと、またにかっと楽しそうに笑った。

「んじゃ、鬼ごっこでもするか?」
「するか。お前俺を馬鹿にしてるのか?」
「他のやつみたいに、問答無用で追いかけてきてもいいんだぜ?海兵さん」
「……」

ため息を吐いて、追い払うように手を振った。

「もういい。早く行け」
「そう言うと思った」

まるで当たり前みたいに言いやがったこいつに、沸々と怒りが沸き起こって剣に手を掛けると、あいつは楽しそうに笑いながら手を振って走って行った。


こんなことの繰り返しだった。
どこかの街や海で逢っては、さっさと行けと言って海賊を逃がす。
バレたら相当重い処分が下るということを分かっていながら俺は、それでもあいつを捕まえる気にはならなかった。そういえば、ガープ中将もゴールド・ロジャーの事は最後まで嫌いになれなかったと言っていたが、似たようなものなのだろうか。
考えすぎると深みに嵌りそうで、俺は頭を振ってそのことを思考から追い出した。







「アベル」
「……」

今度は飲み屋だった。
グラスを傾けながら、なぜか俺はあいつと酒なんかを飲んでいた。さすがにガープ中将だってここまでじゃなかったはずだと思ったが、何故か後戻りもできなくて、湧き上がる焦燥感を酒で飲み下す。

「おいこっち見ろって」
「!」

顎を掴まれて無理やり顔を向けさせられる。
驚いてあいつの顔を見た後で、顔を歪ませて乱暴にあいつの手を払った。

「なんだよ」
「これやるよ」
「?」

小さな包みを渡された。一体何が入っているのかと訝りながら、恐る恐る包みを開ける。

「……どういう事だ」
「アベルに似合うと思って」
「なぜネックレスなんだ」
「露店でたまたま見かけて、アベルに似合うと思ったからな」

見たようなことをもう一度言う火拳に、ネックレスを手のひらに乗せて凝視しながら頭を悩ませた。
火拳よ、お前は俺の恋人か。
一瞬感じた高揚感に自嘲する。ありえない。なんで喜んだんだ。
再び包みにしまいこんで、元通り綺麗に包みなおす。

「こういうのは、好きな女にでもするんだな」
「は?」
「敵の、男にネックレス贈るって……俺はお前の行く末が本気で心配になった」
「おいおい、なんでそうなるんだよ」
「なんでって……」

やけに真面目な顔で、包みを渡そうとする俺の手をガッと掴むので驚いてその手を見た後火拳に目をやった。
好きな女に、と言った後で、その姿を想像して仲睦まじそうにしている様子を思浮かべた。そっちの方が似合ってる。
想像しなければ良かったと苦汁を飲んで、自分の感情には目を瞑った。
しどろもどろになりながら、何て言葉を返そうか考えながら包みをその手に押し付ける。

「返すなよ!」
「いや……だって、お前コレ、」
「……じゃあこうすればいいのか?」
「な、……!」

火拳は俺の後頭部を掴んで引き寄せながら無理やり口を塞いだ。
呆然としている間に、2度3度と角度を変え、深みを増しながら何度も繰り返される。
何が起きているのか分からない、と言えるほど残念ながら頭の回転は遅くなかった。
最初は、借りを返しただけだった。
何度も会ううちに、あいつを捕まえる気になれなかった時点で、そうだ、俺はもうとっくに気づいていた。
プレゼントはカウンターにいつの間にか落ちて、空を切る指先は縋るようにあいつの手を求め、火拳は察したように甘ったるく俺の指に絡んできた。

無理やり、のはずだった。

どれくらい続けたのか、息も軽く上がりながらようやく離れた俺と火拳は、至近距離でお互いを見つめながら、どちらからともなく笑った。

「素直じゃねぇな」
「うるさい」
「それ」
「は?」
「アベルの笑顔、好きだ」
「……っ」

俺の好きな笑顔を浮かべながら、俺の笑顔が好きだという火拳に、柄にもなく狼狽えてしまって顔を伏せた。

「赤くなった」
「見るな、よ」
「冷たそうなのに暖かいとこも、好きだよアベル」
「やめろっ」

今度は俺から口を塞いでやった。





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2015/08/02 gauge.



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