dice8




「エースとちゃんと話したらどうだよい」

夜、寝ている時にマルコが言った。
俺の、少し長くなった髪を梳きながら。

「なんだ、急に」

まどろんでいた目を開いてマルコを見上げる。
今までそんな事言わなかったのに、何か問題でもあっただろうか。

「すれ違ったままでいいのかよい。こっちで初めてのトモダチだろい」
「ともだち…」

マルコの言葉を繰り返す。
そうだ、この世界に来て不安だった俺を救ってくれた、ただひとりの。
でも。

「エースを、怒らせてばかりいる。俺の何がそんなに不愉快にさせてしまうのかは分からないが、もう多分関わらない方がお互いのためだ」
「関わらないのはコノエのためでもあるのかよい」
「……エースが俺に対して怒っているのを見るのは、辛い。どうしても、一緒に笑ってた時のことを思い出す。うまく言えないし、伝えられないけど、これ以上もうエースとの辛い思い出は増やしたくないんだ」

不思議だな。
マルコ相手だとすんなり伝えられる。
マルコだからかな。隊長ってやっぱりすごいな。
ぼんやりとマルコを見上げる。
真剣な表情をしたマルコと目が合った。

「離れるにしても、仲直りするにしても、もう一度話すことだねい」
「え、」
「ギスギス気まずいまんまより、すっぱりしちまったほうがいいだろい」
「……」

う、と固まったままいると、マルコは俺の髪を梳いていた手を止めて、頭を引き寄せた。
俺の額が、マルコの胸元にくっつく。

「大丈夫、オレも一緒にいるよい」

言葉が。
マルコの言葉が嬉しくて、俺のヒビ割れた隙間を全部埋めていく気がした。
まるで永遠かのように感じる安息。


**


「エース、あの……」
「コノエ、……とマルコ」

エースを前にして、何て言ったらいいか分からず口ごもる。
意を決して顔を上げると、エースは俺ではなく後ろのマルコを見ていてハッとする。
そうだ、エースはマルコが好きなんだから一緒に来てはいけなかった。
自分の失態を悔やみながらも、エースを見つめて口を開く。
「エース、」
「今日もマルコと一緒か、アツイよなあ、お二人さん」
「え、あの、」
「二人で俺に一体なんの話だ?」

エースの、突き刺すような言葉に二の句が継げなくなる。

「『俺に構うな』、じゃなかったか、コノエ」
「そうだ、な。邪魔し、痛っ」
「違うだろい」

心が折れて立ち去ろうとした俺の肩を、マルコがパシンと叩く。
振り向いてマルコを見上げると、ちゃんと言え、と顎をしゃくられる。
もう一度心を決めてエースに向き直る。

「エース、俺と、一緒にいてくれてありがとう。あの……一緒に、いて、くれて、本当に嬉しかった、し、救われていたんだ、本当に。ただ、お前に辛く当たられて、これ以上もう、エースとの辛い思い出は増やしたくなくて、だから『俺に構うな』って、いったをだ、けど、本当に、なんというか……」

俯きながら言ったから、エースがどんな顔をしているのかは分からない。
ただ、自分の思っていることは余さず言おうと、それだけだった。

「それをちゃんと言えるように、マルコについてきてもらったんだ。気を悪くさせてごめん。……今まで、本当に、ありがとう。エースがいてくれて、俺は確かに救われていた」

エースは何も言わなかった。
ただ黙って俺の話を聞いてくれて、そのままで。

「それだけ、言いたかったんだ。聞いてくれてありかとう。……じゃあ、」
「コノエ」

エースが俺の名前を呼ぶ。
今までも呼ばれていたのに、久しぶりに名前を呼ばれた気がして懐かしさに眉根を寄せる。
そのまま振り向くと、一瞬目があったものの何故かエースは俺から目をそらして何かを睨みつけている。

「エース?」
「……それを、ひとりできて言ってくれたら喜んだのにな」
「え……」
「もう、そいつのものになっちまったのか?」

エースが何を言っているか分からない。
思わず探るような視線を向ける。
でもエースがとても悲しんでいるように見えて、手を伸ばした。

「っ、」
「もう……」

伸ばした手を掴まれて、でもエースは俯いたままで、表情が見えなくて。
様子を伺っていると、エースは思い切り俺を突き飛ばした。

「もう二度と!オレに近づくな!!」

そう叫んで走り去るエースの背中を呆然と見つめた。
なぜこうなってしまうのだろう。
俺はまたエースを苦しめてしまったのだろうか。
ありがとうって、言いたかっただけなのに。

「……コノエ」

マルコが労わるように俺の肩に手を置いた。
その手に、感謝するように自分の手を重ねる。

「……大丈夫」

俺は小さく嘘をつく。
何が大丈夫なのか、自分でも分からなかった。






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