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光と闇はいつも対極で、
交わることは決してないのだと、
ずっと分かっていたつもりだった…
だけど光である君に僕は手を伸ばした、
闇の中にただ一人佇む僕は、光に手を伸ばした…
広い部屋に置かれた椅子に座る女性は窓の外に目を向けた。
聖域とはまるっきり違う光景に溜め息が出たが、
それは自分が選んだ道なのだと、自身に言い聞かせた。
「なまえ…」
「あ、アローン……」
部屋の扉が開いたのに気付いていなかったのか、
なまえはそこに立っていた人物に驚きを隠せずにいたのだ。
「余はもうお前が知るアローンではない」
「……ハーデス…」
ハーデスと呼ぶ自分の胸がチクリと痛むのが分かる、
幼なじみの彼がなぜハーデスなのか、
テンマやサーシャらと闘わなければならなくて。
私たちはどこで違えてしまったのだろうか、
「聖域から連れ出したことを怒っているのか?」
「それは……」
聖域に現れたハーデスは空いっぱいに絵を描ききると宣言した。
ロストキャンバス。
あんなに絵を描くことが大好きだった金髪の少年は、
漆黒の髪を翻しながら冷たく聖域で告げた。
そして……
『余と共に来い』
これだけの短い言葉だったのに、
なぜだか差し伸ばされた手を握り返した。
アローンがハーデスだと信じられない自分が握り返したその手は冷たく、
彼は本当に冥王の器なんだと思い知った。
それでもアローンを信じたかった。
「余が話掛けているのに呆けてるとは……」
「あ、えっと……ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて、ごめん、なんの話をしてたっけ?」
「お前は本当に面白い」
目を細めて笑うハーデスになまえは驚き、
それと同時に胸が痛むのを感じたのだ。
(笑うとちょっとだけアローンと重なる、)
今の自分がどんな表情をしているか分からない、
ただ今にも泣きそうな表情なのだろう。
それに気付いたハーデスは少しだけ顔をしかめた。
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