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私は歌う


あなたと、あなたの未来の為に。


















どこまでも広がる青空を見つめていると、
後ろから柔らかい声色で名前を呼ばれる。


「なまえ」


振り向けば、いつもの優しい笑顔が視界に広がった。


その笑顔を見る度に、いつだって私の胸は小さく高鳴るけれど、
そんなことを本人に言うと、笑われる気がするから言わずにいる。


「カノン」

「いくら日差しが暖かくても、風は少し冷たいから早く中に入らないと…」


気遣わしげな瞳が少しだけ嬉しくなる。


こんなに穏やかな言葉を交わしたのは、
いつ以来だろうと、ふいに考えてしまう。


「ほら、冷たくなってる」

「っ、」


そっと、冷たくなった頬を温めるかのようにカノンの手が頬に触れる。


手のひらから伝わる体温が心地よくて、


この手のひらは少し前まで血に濡れていたことを忘れるかのようだった。


「あぁ……ごめん…」

「なんで、謝るの?」


カノンの手が頬から離れると、
少しだけ戸惑ったような瞳を向けられる。


「まだ、慣れなくて……」

「うん…」

「僕がこうして穏やかな時間を君と一緒に過ごしていることも…」


少しだけ間が空いて、カノンは改めて私に向かって言った。


「僕が君に触れることが、全て夢なんじゃないかって思うんだ」


カノンの言いたい事は痛いほど分かっていて、
それは私も同じ気持ちだったから、余計に分かる。


私たち「子供」は、生きる為に戦って、血にまみれて、


でも、それも無駄なことだったと一度は絶望の底に突き落とされた。


そんな私たちを救ってくれたのは神様の弟である彼で、
私たちに生きる意味を、希望を持たせてくれたのも彼で。


私とカノンがこうして穏やかな時間を過ごせているのも、すべては彼のおかげだった。


「夢じゃない、私もカノンもこの世界で生きている…」

「そうだね、夢なんかじゃない」

「ヤイバのことも、ブレードチルドレンのことも夢だったらいいって思ったこともあったけど…」


あんな悪夢が、全て夢であればいいと何度思ったことか。


普通の女の子みたいに学校に通って、友達とお喋りをして、オシャレをしたり、仕事をして、やがて誰かに恋をして、結婚して子供も生まれて…


そんなありふれた『幸せ』が、私たちにはない。


家族が誰かも分からず、小さい頃から命を狙われて、生きる為に手を汚して生き延びて、
次々に死んでいく『子供たち』を見つめ続けてきた。


そんな私とカノンは出会って、恋をして、


例えこの命が短いとわかっていても、


私はカノンと出会えて、共にこの時を過ごすことが出来て幸せだ、


ハッキリとそう告げると、少しだけ照れ臭そうにカノンは笑う。


「僕も……君と出会えて、恋をして本当に今が幸せだよ」

「過去は消せないけど、未来はたくさん作れるし、それを上回るように幸せになろう」


カノンの手にそっと触れると、躊躇いがちに握り返される。


私たちは、きっと世間から見たら普通ではないけれど、


それでも、カノンがいるなら私は幸せだと胸を張って言える。


「生きよう、一緒に明日も明後日も……ずっと先も」

「うん、私もカノンとずっと生きていたい」


未来への希望の灯火は小さいものだけれど、



その灯火は、永遠に消える事はないと、



この青空の下で、もう一度誓った。











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久しぶりに螺旋イラストを見てしまい、
なんとなくカノンを殴り書き……
そしてカノンは生きている捏造です。

彼にはずっと生きていて欲しかったと、願いを込めて。

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