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「ねえ、和泉ってすごいよね」

「は?」


向かい合ってる席から、身を乗り出しそうな勢いでなにを言い出すかと思えば。


「いやー、実は綾薙に私の学校の同級生の友達が通ってるらしくて」

「随分と遠い仲だな」

「茶々いれない!それで、その友達がteam柊とteam鳳がすごいっていって動画送ってくれて」


ほら、と見せられた携帯の画面にはいつの間にか撮られていた練習風景だった。


「なにこれ、盗撮?」

「多分」


サラッと答えるこいつに俺が呆れそうになる。


いつの間に生徒がこんな盗撮まがいな撮影をしているのか、
確かに生徒の間では関心がそれなりに寄せられているとのことだろう。


「それにしても盗撮って……」

「減るもんじゃないし、いいじゃん」

「あのなー」


俺の言葉を遮って、それで、と話を続きを始める。


昔からなまえのペースに結局巻き込まれて乗せられてしまう。


「このteam柊ってすごいじゃない?」

「まあ……」

「そこに和泉がいるって、すごいことなんだと初めて思えたの」


こいつはアホかなにかなのかと心底思った。


大体、何年一緒にいると思っているのか分かっているのだろうか。


俺のすごい所なんて間近で誰よりも見ているはずだろうと、言いたいくらいに呆れている。


「お前は俺のことなんだと思ってるの?」

「チャラい」

「あっそ……」


想像通りのお返しの言葉に、溜め息をつきながらジュースを口にする。


話したいことがあるとか呼び出されてみれば、ファーストフード店で落ち合って。


色気もくそもない。


「それよりも、お前はどうなんだよ」

「私?あー……今度、文化祭でやる役のオーディションに備えてる感じかな」

「それなのにこうして俺と会って、落ちたら俺のせいにすんなよ」


落ちたらとか縁起ない!と怒るお前は頬を膨らませながら言って、


人のせいにする奴じゃないってことは俺が一番よく知っている。


「和泉も愁も頑張ってるのに、私も絶対に負けられないんだから」


それに、誰よりも負けず嫌いで、誰よりも努力をしていることも知っている。


だから、こいつには負けられないって俺も思うわけで。


「今度、文化祭見に行こうかな」

「来なくていい、どうせ女の子目的でしょ」

「いいじゃん、他校の可愛い女の子と仲良くしたいしな」


その頑張っている姿を見てきたから、


結果も自ずとついてくるのも分かっている。


「これから先のことを考えるとワクワクするね」

「ポジティブだな、相変わらず」


お世辞にもなまえは演技が飛び抜けて上手いわけでも、歌も上手いわけでもなんでもなくて。


『普通』というのが妥当な表現だろう。


でも、それでも毎日楽しそうに歌っては演じて、飽きずに毎日毎日続ける。


見ているこっちが目を離せないくらいに、いつだって諦めずにキラキラと輝いていた。


「私だって落ち込むこともあるよ、人並みに」

「ふーん……」

「でも、今を楽しまないときっと後悔するし。落ち込んでいる暇なんてないよ」


そうでしょ?とニコニコと笑いながら当たり前のようにそう言い放つ。


そうはっきりと言えることがどれだけすごいことなのか、多分分かっていない。


「お前って、本当に……」

「ん?」

「なんでもない、ほら、行くぞ」


トレーを手に取ってそれらを片付けると、なまえも慌ててその後を追い掛けてくる。


うっかりなにかを言いそうになった。


(なにを、言おうとしてたんだろ……俺は)


店を出ると、そのままなまえは自分が帰るべき道を歩こうとした。


「なまえ」

「なに、和泉」


手にしたヘルメットをポンっと投げると、見事にそれをキャッチした。


「送る、乗っけてよ」

「乗っけてよって、それ愁のバイクじゃん……」


ぶつくさと文句も言う言葉を無視して、バイクのエンジンをかける。


「人並みに落ち込むこともあるんだろ」

「え?」

「バイク乗って風に当たれば嫌なことも忘れるから、早く乗っていけよ」


驚いたように見開かれて揺れる瞳で見つめられ、ふいにその視線を逸らした。


すると、溜め息をつきながらもヘルメットをなまえは被る。


「可愛い女の子の所に行くためにバイク使ってるんじゃないの?」

「今日は特別」

「和泉のバーカ……」


いつも通りの憎まれ口を叩いて、バイクを走り出した。


「でも、ありがと……」


風に乗って聞こえた言葉に、


俺は聞こえないふりをした。













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