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あいつは幼馴染みで、

それ以上でも、それ以下でもないって、

信じていた……















「愁!」

「ああ、なまえか……久し振り」


道の向こう側から元気よく手を振って、こちらに走ってくる女の子をゆっくりと眺める。


隣の愁は少しだけ笑っているけど、こいつのこの表情はかなり嬉しいものだと、俺は知っていた。


「久し振り!愁、元気?」

「ああ、お前も元気そうだな」


愁が頭をぽんぽんと撫でてやると、こいつはたちまち笑顔になって。


「あー、和泉……いたんだ」

「ずっといたんだけど」


決まってこいつは俺にこんな態度をとる。


それが三人のいつものお決まりのやり取り。


「ねぇねぇ、綾薙は楽しい……楽しそうだね、愁」

「なんで分かるんだ」

「顔を見ていれば分かるよ、入学前と全然顔が違うもん」


そうだな、と愁は小さく笑う。


多分、team鳳としている愁は最近楽しそうにしているのは俺でも分かる。


「和泉は?」

「俺?そっちも楽しいけど、女の子とデートしてるのが楽しいかな」


いつも通りの笑顔で振る舞うと、いつも通りの冷たい視線と反応が返ってくる。


「ほんと、和泉ってサイテーね」

「なにがサイテーなんだよ、他の女の子は可愛いよ、お前と違って可愛いし、なによりおしとやか」

「はいはい」


溜め息をつくなまえはそう言って視線を愁に向ける。


その様子を一歩後ろから今日は眺める。


少し前までは、こいつといつも隣でなにかと言い争いをして、
それを一歩後ろにいる愁がなまえを擁護する。


それがいつものお決まりのパターン。


でも、今日はいつもとはちょっと逆で。
俺は静かに二人を後ろから眺めていた。


「へぇー、スター枠ってすごいものなんだね」

「それもそうだけど、一緒にいるやつがみんな面白い」


愁が話すこと一つ一つに耳を傾けて、


それに対して全部笑顔で返して。


そんな一つ一つの仕草をどこか第三者のような気持ちで見つめていた。


「和泉!」


ふいに名前を呼ばれて我に返ると、怒ったようななまえの顔がいつの間にか目の前にあった。


「な、なんだよ」

「和泉はすごいチームにいるんでしょ?愁が言ってた」


はぁ?と漏らすと、愁はなぜか俺を見て小さく笑った。


その意味がなんなのかわからないけれど、ちゃんと聞いているのかと文句を垂れる目の前のこいつに視線を持っていく。


「すごいって……別に普通だけど」

「昔から器用だから、こういうのサラッと言うのがムカつくのよね」

「お前はすげー不器用だけどな」


俺よりも小さな身長だから、その頭は幾分か撫でやすい。


「否定出来ないけど……でもね、私この前のオーディション一次通ったんだよ!」

くるっと一回転をして、大袈裟に両手を広げるなまえ。


その表情はとても嬉しそうなもので、すこしだけ眩しいと思うほどだ。


「そうか、それはめでたいな」

「ありがとう、愁」


素直に言葉が出る愁とは違って、俺はどうしてもそれに対して素直にお祝いの言葉を紡ぐことは出来なかった。


「お前が女優な……未だに想像出来ないな」

「いつも失礼なこと言ってるけど、昔は和泉と愁と三人でよく舞台の真似事いっぱいしたじゃん!」

「あー、はいはい、あのなまえがよくセリフ噛んだり踊れなかった時のやつか」


時間が空けば三人でよく学校の屋上とか、愁の家でそんなことを飽きることなくやっていた。


そんな遠い日々を思い出していると、その足はピタリと止まった。


「いつか三人で同じ舞台に立つって、私の変わらない夢なんだよ」


眩しすぎる笑顔でそうきっぱりと言い切るなまえに、思わず呼吸が一瞬止まったかのような錯覚をおこす。


「そんな約束、昔してたな」

「うん!絶対に叶えてやるって、だから私も頑張れるんだ」


そうやって、お前は眩しい笑顔でいつもいつも前向きに頑張ろうとする。


でも、その笑顔を見るだけで大丈夫なんだなって気持ちになれるのは、


なんでだろう……


「だから、愁と和泉に負けないからね」

「ああ」

「お前に出来るのかよ」


鼻で笑う俺に、お前はいつだって真っ直ぐに向かってくる。


「出来るんじゃなくて、やるんだよ!私は絶対に叶える」


紅く揺らめく夕陽に照らされるその顔は、自信に満ち溢れてキラキラと輝いている。


たったそれだけのものなのに、


酷く心がざわつくのは、なんでだろう。


ただの幼馴染みで、


それ以上でも以下でもない、


それだけの関係だったのに……


「じゃあ、俺もなまえに負けねーから」


そう言って素直に言えない俺を許して欲しい。


多分、この気持ちは今は言葉や形に出来ないから。











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