1







「近寄らないでください、変態!」


それが彼女の俺に対する第一声だ。


いくら国王の娘で第一継承者の姫で箱入り娘だとしても、この言葉はありえない。


しかも聞けば大の男嫌いだというから困ったものだ。


メフィストなどという悪魔は良くて、聖騎士である俺はダメだという。
だがそれは彼女の一種の強がりであることを後々知ることとなる。





「私が女で国の第一継承者ということが大抵の人は気に入らないのよ、特に父………国王の弟は」


大帝国エトワルートは歴史に名を残すほどこの辺りでは大きな国だ。


国王と后は国王の弟によって国を追われた挙げ句、反逆者として名を挙げられて殺されてしまった。


その二人の娘は命と引き換えに逃がされ、辛うじて生き残った姫は国と繋がりかある正十字騎士團によって保護され、更に国王とメフィストは古くからの知り合いだという。


そんな彼女の護衛の任を預かった現聖騎士である俺は彼女の側にいることとなった。


新たな国王となった亡き前国王の弟、彼が国王となったおかげで栄えていたはずの国は徐々に輝きを失い、あっという間に荒んでいったのだ。


その報せを聞いたこの姫君は国王と后の殺害を企てた男に制裁と、国を元に戻すといい始めたからこれはさすがに俺でも止めたほどだった。


「勘違いしないで、父様と母様の復讐じゃないわ。そんなことをしても二人は報われない。荒んでしまった国を元に戻して民を救う、これが今の私の使命よ」


そして少しだけ笑いながら言った。


「叔父も本当は優しい人なのよ、ただ道を誤っただけで。だから私が責任を持って罰を与えなきゃ。父様だったら思い切りぶん殴ると思うけどね。」


澄んだ瞳で彼女は言う、でも表情は少しだけ泣きそうで。



その時に誓った、


この人を、護っていこうと。



それは今でも揺るがない、俺いう個人の想いだ。


















「なに見てるの?アーサー、」


閉じていた目をそっと開くと真横に純白のドレスを身に纏うサキナがいた。


ずっと動きやす格好でいて見慣れた為か、その姿を見るのは初めて会った時以来だった。


「ああ、これ?メフィストがどうしても着ろって、民の前に姿出して明日の戦いに備えて皆の士気を上げる為にせめて姫らしく振る舞えって言うから……」

「いや、よく似合っているよ。やはりこうして見ているとお前はお姫様なんだな」

「なによ、それってバカにしてる?」

「バカになどするわけがない、ただ素直にそう思ったからだ」


本当に心から素直に出た言葉だ、


その風貌や立ち振舞い、これまで短い期間見てきたが彼女は間違いなく一国の次代を担う者。


「す、すぐそうやってキザなこと言うのは相変わらずなのね!」

「なぜ素直に言ったのに怒られなければならないんだ……」


不満な顔をしているであろう自身の顔をサキナに向ける、すると彼女は可笑しそうに小さく笑い始めたのだ。


それを見た俺も何故か笑いが自然に込み上がってきた。


明日は恐らく厳しい戦いになるだろう、


それでも俺たちの間にはいつもと同じ、温かいものがあった。


「ねぇ、アーサー。あなたにずっと聞きたかったことがあるの」


一頻り笑い終えた後、ふと真面目な表情になったサキナ。
その視線は真っ直ぐ俺にに向いていた。


「あなたはどうして最後までここにいるの?正十字騎士團がそう命令したから?それともあなたは褒美が欲しいからなの?」


その質問は意外なものだった。


「なにを聞くかと思えば……」

「ずっと気になっていたの、最初はあんなに嫌そうにしかも命令だからってしか言わないのに、今はここにいる。だから聞かせて、あなたの気持ち」


それは責めるものでも問い正すものでもない、


言葉通り、ただ俺という個人の気持ちが知りたいというだけのことだ。


「そうだな、最初は命令だったから。こんな小娘の面倒を押し付けられて……だがそれはお前という個人を見ていないことに気付いた」


意地っ張りでなんでも一人で背負い込んで、
絶対に弱音を吐かない強さもある、


だけど知っている。


誰もいないところでひっそりと父と母を想って涙を流していることを。


いくら次代の国を担う者といってもまだ子供で女の子で、
その扱いを最も嫌っているからそれ以上に振る舞おうとして。


笑顔が絶えない、誰からも愛される一人の少女。


弱さも強さも持ち合わせて、それでも前を向いて進み続ける。
そう思うようになってからは彼女への見方も変わって、最後まで見届けたいと、命令ではない本当の自分の気持ち……


「俺は富も名誉もいらない、ただお前という花が枯れずにそこにいるから、俺はここにいる。
その花の行く末を最後までと見届けたいんだよ……」




「あなたは嘘をつかない、ただ真っ直ぐ信念を持って動くのよね……」


サキナは目を閉じて凛とした表情で口を開いた。




「エトワルート帝国 第一継承者のサキナ=クライトが命じます」





満月の下に照らされる彼女は今まで見てきたどんな表情よりも美しく、そして新しい顔を覗かせていた。



「明日の戦は絶対に死なないこと、そして無事に帰りましょう」



その姿はもう一国の主そのもの、


彼女はただの姫ではない、誰かを率いて戦い、護る、


そう、


「アーサー・A・エンジェル、この命尽き果てるであなたとあなたが護るものを守るとここに誓おう」




俺が本当に求めていた、サキナ=クライトという一人の人間………



お前の誇りも俺の信念も共に護っていこう、




この命に代えてでも…………










 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
とある大好きな方の曲から妄想が膨らんだ結果がこれです!
設定とか色々ちゃんとあったのですが、
当然1ページにはおさまらないのでなんとかこう、
ふわっと書いたのですが分かりにくいですね……










.

prev next

[back]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -