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この先待ち受ける運命に怯えても、


明日が来るのが怖くても、


それでも…………………















「〜♪」


真っ白な部屋に響く歌声、


静寂な部屋を包み込む温かな音色にゆっくりと目を閉じる。


やがて、音色は止み、青年はそっと目を開けた。


「今日は随分とご機嫌なんだな、なまえ」


青年がそう目の前の人物に投げ掛けると、
溢れんばかりの笑顔がそこにはあった。


「聞いて、聞いて!私の今度出す曲がCMに使われることになったんだよ!」

「へぇ、それは凄いな」

「でしょ?それを一番に歩に伝えたかったの!」


見舞いにと持ってきた花を花瓶に挿しながらそう言い、
心底嬉しそうに笑う彼女に歩も釣られて笑った。


彼女は歌手として活躍している、


いつもは時間がない彼女とはこうして短い時間でも自分に会いに来てくれる。


そして、自分がいま見ている世界を話に来てくれるのだ。


「楽しそうでなによりだ」

「うん、今が凄く楽しいよ!」

「そっか、なまえが楽しそうならそれでいい」


花瓶を歩の見える場所へ置き、病室に置いてある椅子を歩の側まで持っていき、そこへ座る。


「ねぇ、ピアノ弾ける?」

「あぁ、いいけど今日は何を弾けばいい?」

「そうだね…………なにがいいかな……」


彼女の歌声は好きだ。


透き通る歌声はどこまでも伸びて、耳に一度ついたらそれは離れられない。


心地よくて、ふわふわとした気持ちになる、


「体、大丈夫………?」


ふと、小さな声が耳に届いた。


なまえの方を向くと、さっきまでの笑顔は消えていて、不安そうな瞳がゆらゆら揺れている。


「今はまだ大丈夫だ、兄貴が言うにはな」

「そっか………」

「なまえは?」

「私も、まだ大丈夫」


二人には命の期限がある。


片方は兄のクローンで、


片方はブレードチルドレン。


どちらもいつ壊れるか分からない、
消えそうな命を抱え、こうして毎日を生きていた。


「でもね、前よりはもっと生きていこうって思えるようになったの」

「なまえ………」


なまえは無意識に手首を抑えた。


彼女は何度死んで、何度この運命に潰されそうになったのか。


想像するだけでも痛々しくて、


そんな彼女を救いたくてここまできた、
彼女を救いたかったのに、いつの間にか彼女に自分が支えられていた。


「歩が見付けた未来を生きていくって決めたの、歩に私の歌をずっと聴いてもらいたい」

「それじゃあ、俺はずっと死ねないな」

「もちろん!ずっと一緒に生きていかなきゃ困るわよ」


小さな手のひらがそっと乗せられて。


その温もりが体の芯まで伝わったような気がする。


この手に銃とかナイフは似合わない、
この手はどこまでも温かく、幸せを与えてくれる手なのだから。


「ちょっと、寝ていい?」

「いいけど………そっちのソファーで横になれば?」

「歩の側がいい、椅子で寝る」


確か彼女は今ツアーで全国を回っていると聞いている。


少しだけ眠そうな目を擦り、徐々に落ちていく瞼。


やがて、静かな寝息が聞こえた。


「全く、風邪引くぞ」


起こさないように彼女の膝にブランケットを掛けた。


本当は横になって少しでも休んでもらいたかったが、本当に時間がないのだろう。


「ありがとう………」


沢山のありがとうがある。


時間がないのに来てくること、
こうして歌を聴かせてくれること、
温もりを与えてくれること、


側にいて、信じてくれること、



そして、生きてくれたこと。


彼女に生を与え、生きる希望を与えた。
彼女の歌をはじめて聞いたとき、彼女の未来はきっとこれだと思った。


だから歌手になることを勧めた。


「生きてくれて、ありがとう」


その言葉は風に溶けていく。


窓から見える青空、


今日も空は変わらない。



例え明日が来なくても、空は今日も青い。













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