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「卒業生、寅谷立夏!」
「はい」
ふわりと暖かい風が頬を撫でる。
季節は春。
もうすぐ、桜が美しく彩る季節。
青空の下で二人だけの卒業式を行った。
目線が高くなった彼、二年間も会っていなかったのだと改めて実感してしまう。
それでも、こうしてまた元気になって帰って来てくれたことが嬉しくて、目頭が熱くなった。
「またなまえちゃん泣いてる」
「っ、だって………」
二年間、連絡もないまま時間だけが過ぎていき、不安だけが募っていた。
いま目の前にいることがまだ夢のようで、色々な感情が溢れて整理が出来ない。
本当は言いたかったことが沢山ある、二年間にあった出来事を聞きたいし、話したい。
だけど、どれから話して聞いたりして良いか分からない。
そんななまえを察したのか、立夏は小さく笑って抱き締めた。
「んー、やっぱなまえちゃんをぎゅってするの好き」
「なに、それ……」
「ずっと、早く君に会いたくてリハビリも頑張ったんだ。途中で逃げそうになったけどね」
生きていることは嬉しかった、だけどその後に待っているリハビリに何度挫けそうになったか。
それでも頑張ろうと言う気持ちになれたのは、彼女との約束があったから。
遠く離れた場所で、自分を信じて待っている彼女を思うと自然に前向きな気持ちになる。
どれだけ心強く支えてくれたか、それは言葉で言い表せないくらいだ。
「ふふ、嬉しいな」
「なにが?」
「また立夏くんに会えて、本当に。しかも身長も伸びたね」
「大人っぽくなった僕に惚れ直した?」
「うん!」
他愛ない会話をしながら、暫く二人きりの時間を過ごした。
いなかった時間を埋めるように、笑い合いながら。
「大好き、なまえちゃん」
「急にどうしたの?」
「今こうして生きているのも、本当になまえちゃんがいたからなんだって、改めて実感した。だから、ありがとう」
二年間、挫けそうな時も泣きたくなった時も。互いに互いを想っているだけで乗り越えられた。
それがどんなに尊く幸せなことか。
改めて知ることが出来た。
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