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「寒い」

「えー、俺は温かいよ?」

「私は寒いです。大体、任務はとっくに終わって三上さんの所に報告しないといけないじゃないですか!」

「あー、あれは笑太が快く引き受けてくれたよ。三上さんのとこ行くって張り切ってた」


あはは、と笑う目の前の男に溜め息をつかずにはいられない。


彼のあの性格では絶対に快く引き受けるはずがない、大方適当な理由をつけて無理矢理彼に押し付けて逃げたのだろう。


なまえは呆れてものが言えなかったが、目の前の男は具合悪いのなどと聞いてきた。


「一応、特刑のトップという自覚はありますか?」

「それはあるよ、なまえの隣にはこんな素晴らしい男がいるんだからね」

「意味が分からないです、大体なんで星を見たいって言い出したんですか?」


任務が終わった直後、なまえは突然桜澤に手を引かれて車に乗せられてしまい、知らない場所に来てしまった。


そこは人気があまりない小さな丘で、町明かりもほとんどない山の近くに佇む場所だ。


寒空の下で星見が目的だと言われ、本気で呆れてしまった。


そんな彼女の気持ちを知らない桜澤は先ほどから星を眺めながら話すが、会話が全く噛み合わなかった。


「私はあなたの部下で良いのか、本気で悩みますよ……」

「大丈夫、なまえはずっと俺の側だからね?」

「……………だから、ちゃんと…」

「あ、流れ星」


みてみて、となまえの手を引いて指を流れ星が流れたと思われる辺りに指していた。


それを思わずぼんやりと眺めてしまったが、直ぐに手が触れていたことに気付いて引かれた手を引っ込めた。


「どさくさ紛れになにしているんですか!」

「ちぇ、ダメだった?あ、でも流れ星が見えたのは本当だよ」


桜澤がそう言った言葉はもはや耳に入らず、自分の心臓がうるさいくらいに響く音しか聞こえない。


「ちゃんと三回お願いしたんだ、聞きたい?」

「いっ、いいです!大体そういうのは自分の胸の内にしまうものです」

「あ、そっか。そしたらお願い事の意味ないもんね?
分かった、叶ったらちゃんと言うね」


帰るかと言っていきなり桜澤は立ち上がり、地べたに座っていたなまえに手を差し伸べる。


さすがに寒空の下で結構な時間座っていたので、寒すぎただろうと彼女を案じた。


「寒かったら言って、いつでも温めるからさ」

「は、はぁ!?」

「いいことして温かくなろうね、なまえとなら大歓迎だよ」

「っ、変態!」


怒った顔も、笑った顔も、泣いた顔も全て覚えてこの目に焼き付けたい。


神様、


小さくも温かい幸せを、


あと少しだけ見させて。


もうすぐ終わりを迎えるその日まで。









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