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蒼い海に君と二人、
くすぐったいような小さな幸せに、
初めて生きる意味を見付けた。
この世界は血生臭い、だけど君といる世界だけは白く澄んだ世界だった。
「なんか嬉しいな、」
「なにがですか?」
「なまえとピクニックデートなんて」
「ピクニックではありません、任務の合間の休憩時間です」
きっぱりと事実を伝えると、桜澤は夢くらい見させてよと口を尖らせながら文句を言った。
任務と任務の間に時間が空いた為、小さな丘の上のベンチに座ってお弁当を広げていた。
笑太は疲れたと言って車で昼寝をしており、
天気が良いからなまえは外で食べることにした所に桜澤に捕まってしまった。
一緒に食べようと言われた割りに、彼は食事を取る様子が一切なかった。
「食べないんですか、隊長は」
「なまえ見てるだけでお腹いっぱいだから、」
「なんですか、それ…」
心配してしまった自分を一瞬だけ呪った。
いつもこうしてはぐらかす。
肝心な部分はいつだって教えず、一人で抱え込む。
もう少し頼ってくれてもいいんじゃないかと思う。
だが彼は特刑のトップ、一隊員のしかも新人の自分にそんなことは易々と任せられないと分かっていた。
「考え事?」
「いいえ、別に」
「あ、唐揚げ美味しそう。食べていい?」
盛大に溜め息をわざとつき、持っていたお弁当箱を桜澤に差し出した。
「全部あげますから、ちゃんと食べてください」
「そしたらなまえが食べれないよ」
「私はちゃんと食べました、総隊長とあろう者が倒れたら困ります!」
「別に俺は食べなくても大丈夫なんだけど」
「食べなくて大丈夫な人間はいません、これは部下命令です」
中々受け取らない桜澤の膝に無理矢理乗せ、なまえはしっかり食べてくださいと付け足す。
そんな彼女の行動に唖然としたが、次の瞬間には笑いが込み上げてきた。
「なに笑っているんですか?」
「違うよ、なまえは本当に優しいんだなって……」
こんな自分を人間と言ってくれて、ぎこちないけどちゃんと優しさを向けてくれる。
ただそれだけなのに、いま自分の胸は満たされていた。
「じゃあ、半分こ。只でさえ細いんだから栄養つけないと」
「は、はぁ……」
「あー、青空が気持ちいい」
蒼い海の下で、血生臭い世界とは反対に僕らの世界は淡くも満たされていた。
この先が短くても、いまあるこの幸せを大事にしたいと心から願ってしまった。
完
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