07
慌ただしい日々は少しずつ過ぎていく。
ここに来てからいつの間にか2週間近く経っている。
メフィストさんには仕事の進み具合等をアーサーがいない内に電話したりしていた。
帰ってから仕事が溜まっているなんてことは本当に勘弁して欲しいからだ。
たまに任務に出たりするが、ほとんどが事務職的な作業ばかりで。その度にシュラが嫌そうな顔をするが見ないフリ。
さすがに朝から夜までずっと事務作業は疲れてしまう。
「眠い………シュラのバカ」
私は目を擦りながら目の前の書類に手を付けた。
これはシュラが本来やらなければならないもので、置き手紙と共にこれが置かれてあって、当の本人はどこかへ消えてしまった。
文句を言いつつも手を貸してしまう。甘やかしてるとアーサーに怒られたけど、シュラに言ったら1ヶ月は掛かるだろう。
それなら自分でやってしまった方が早い。
そんな悪循環がぐるぐる廻っている。
「うー………眠い、でもあとちょっと」
時計の針は深夜2時を指している。そろそろ眠さにも限界が来ている。
それでも気力で起こす。アーサーが帰って来る前には終わらせたい。
「そういえば最近遅いな………任務かな?」
この家の主は最近、帰りが遅い。
彼の場合、自分とは違ってしょっちゅう任務に駆り出される。
深夜の帰宅も珍しいものではない。
「さすがに、私だけいつも先に寝るのはなぁ……」
まずい、瞼がどんどん重くなる。これはどう頑張っても勝てる気がしない。
知らない間に私は深い眠りの淵にいたのだ。
「ふぅ………」
今日も帰宅が遅い、そういう時は別に部屋に帰ってくる必要ないし、そのまま本部で仕事すれば良い話だが、そういうわけにもいかない。
彼女一人であそこにいるのだから、帰らないのはさすがにまずい。
どんなに疲れていてもそれは必ず守るようにしている。
「電気付いてる………」
玄関の奥では電気がまだ付いている、この時間だと起きているはずがないのに。
急いでリビングへ続くドアを開けると、ソファーの前のテーブルに突っ伏している麗奈の姿が見えた。
「おい、起きろ。このままでは風邪引くぞ」
肩を軽く揺すって起こすことを試みたが、小さく項垂れるだけで全く起きる気配がしない。
これはどうしたものか。そう悩んでいると彼女がテーブルに広げていた書類が目に入った。
「………すまない」
聞こえてる訳でもないのに、謝罪の言葉を紡いだ。
そんなこと言っても意味がないことは分かっている。それでも言いたかった。
きっとこれが君に知られたら怒るだけでは済まないだろう。
嫌われるかもしれない。分かっていてやってしまったこと。
「はぁ………とりあえず運ぶか」
このままにしておくわけにもいかず、とりあえずベッドに運ぶことにした。
起こさないようにそっと横抱きにして、艶やかな漆黒の長い髪が腕に触れる。
「軽いな………まさか、ちゃんとご飯食べてないのか?」
シュラのような丈夫そうな女性を見たからか、やけに彼女がか細くて小さく見えた。
そして、部屋に運んでベッドにゆっくりと下ろすと、麗奈は熟睡しているのかまだ起きる気配がない。
「寝顔見たの、どれくらい振りだろうな」
そっと頭を上下に撫でながらそんなことを考える、小さい時に見たのが最後。
それは彼女が大人びるのも当たり前で、なんだか不思議なキモチになった。
「ん………」
くすぐったいのか、麗奈は少しだけ笑ったような表情になる。
そんな彼女を見ているのが面白くて、つい時間を忘れてゆっくり頭を撫でていた。
「だから………お茶の時間はまだですよ……メフィストさん……」
「…………お前は一体なんの夢を見ている。あの悪魔が夢に出るとは…」
モヤッとした感情が一瞬生まれたが、それを振り払うように目を閉じた。
「………すまない」
幸せそうな寝顔にもう一度言った。
たくさんのことに対して、すまない、と……
(せめて夢では幸せに………)
例え、その夢に自分はいなくとも。
幸せをいつでも願っている。
続く
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