04
「へ、部屋がないって………はぁ?」
「さっきも説明しただろう」
それはさっきも聞きました。
私が聞きたいのはそんなことじゃない。
「お前の使っていた部屋は日本支部へ行くときに引き払ってしまった。しかし、本部はいっぱいだから………」
「だ、だからって何でアーサーの部屋なのよ!」
麗奈は混乱のあまり叫んだが、なぜこのような事になったのか脳の奥で記憶が蘇る。
事の発端は一時間前のこと。
元々、本部の近くにずっと住んでいた。今回の滞在もその部屋を使うつもりでいた。
しかし、日本支部に行くときに部屋を使わないのに部屋代だけ払うのは勿体ないということでメフィストが勝手に手続きしたことをすっかり忘れてしまったのだ。
本部にも寮はあるはずなのに、連れて来られたのはアーサーの部屋で。
先ほどから文句を彼に言っていたのだった。
「だから言っただろ、あんな悪魔に任せる方が悪い」
「そ、それはアーサーの言う通りだけど、本部の寮もいっぱいっておかしくない?それにシュラの部屋でもいいじゃない!」
「シュラはダメだ。それに上からの命令だ、我慢しろ」
「なんでそんな命令が下りるのよ、アーサーと部屋一緒っておかしいって」
幼馴染みであるからこの部屋に訪れたことがないわけではない。
それでも、なぜこのような状況になるのか。上からの命令とはいえ、男性の部屋に置くのはおかしいだろう。
居心地が些か悪く感じ、このまま平行線な気がしなく麗奈は諦めて持ってきた荷物の整理をすることにした。
「はぁ………」
アーサーは深く溜め息をついた。
彼女の後ろ姿をソファーから確認し、アーサーはコーヒーを淹れることにした。
胸の奥のモヤモヤとした黒い感情が未だ取れない。
意味のない苛立ちが襲うが、それを見ないふりをしている。
きっと、この感情を出してしまえば楽なのに。
それでも出来ないのは彼女という存在があるから。
「最悪だな、オレは……」
ポツリと呟き、沸かしていたお湯を注いでカップに2つコーヒーを作る。
それを持って麗奈の元へ行った。
「ほら、コーヒー。あとミルクたっぷりあるから」
「うわー!アーサーのコーヒー久々。ありがとう!」
先ほどまでの怒りはなく、無邪気に笑うその表情にアーサーの口元が緩む。
「なんか、おかしいの?」
「いや、単純だなって。さっきまでは怒り狂っていたのに」
「どうせ私が何を言ってもひっくり返らないなら、諦めるしかないし。それに、別にアーサーは悪くないよね。ごめんね」
その言葉に危うくカップを落としそうになった。
彼女からまさか素直に謝罪の言葉が出るとは全く思わなかったからだ。
「そうだな、オレも最初からちゃんと説明すればよかった。悪かったな」
カップを持っていない方の手でアーサーは麗奈の頭をゆっくり上下へ撫でた。
その仕草に子供扱いされてる気がしてならないが、アーサーに撫でられることは嫌いではないから暫くされるがままになっていた。
甘くなった温かいコーヒーが緊張を少しずつ溶かしていった………
(大丈夫、君を守るから……)
続く
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