03
「はい、ええ、その件に関しては………」
扉の向こうでは何やら話が続いてるようで、長くなりそうなのでその場から離れることにした。
というより、まずやらねばならないことがあるのでそちらを先に優先するほうが正しい。
麗奈はカバンにしまっていた携帯を取りだし、ボタンを押しながらアドレス帳から目的の人物へ電話を掛けた。
『もしもし?』
「もしもし?じゃないです!メフィストさん!!」
『どうしました?私の声が聞きたくなったんですね、困りましたねー』
携帯を握り潰してしまうのではないかと思うくらいの力が手にこもって、電話なのにあり得ないくらいに苛立ちが襲う。
「本部から要請あったの4日前ってどういうことですか?私、こっぴどく怒られました!」
『あぁ、あれですね。忘れてました☆』
こ、殺したい。
そんな風に思うのは何度もあったが、これほど殺意溢れたのは初めてだ。
電話越しに麗奈の怒りやら飽きれが伝わり、メフィストは楽しそうに笑う。
『エンジェルに怒られたのですか?』
「怒られてません。アーサー以外の人達です」
『おや、予想が外れましたね』
最初から彼に怒られてもらおうと仕向けたのだと分かり、これ以上怒りが込み上げてこないように麗奈は何とか己を鎮める。
それも電話越しにやはり伝わり、メフィストは笑いを堪えるのだった。
(そうだ、怒られていない………)
麗奈の本部の時の上司、アーサー・O・エンジェル。彼は上一級祓魔師である。
そんな彼は入り口で姿を見るなり、どこかへさっていった。
顔が明らかに怒っていて、綺麗に整った顔はかなり歪んでいたのが遠くから見ても分かる。
どうせなら怒鳴られた方が清々しい。
それから色々と手続きをして、ようやく一息をいれることができた。
シュラはどこかで昼寝してくるといい、アーサーは上に話があるからと言ってまだ戻っていない。
全ての経緯をメフィストに伝えると、やはり彼は面白いと言わんばかりに笑うだけだっとた。
『災難でしたね。まぁ、頑張ってください』
「もういいです、メフィストさん。とりあえずちゃんと仕事して下さい。私が帰って来たら仕事が大量に残ってないことを期待してます」
『おや、私がそのようなことをするとでも?』
「はい。ちゃんとやってくださいね!」
『心配性ですね、あなたは。まあ、私も頑張りますよ。では、体に気を付けてください』
心配事がたくさん残るが、それを気にしていたらここでの仕事が手に付かなくなる。
電話を切り終えると後ろから気配がし、振り返った。
「……………」
「あ、アーサー………話、終わったの?」
麗奈の問い掛けに頷いたが、それ以上は何も話さない。
その仕草が本当に恐ろしく、これ以上なにもこちらは言えなかった。
(メフィストさんと電話ってバレてるよねー……)
彼が大嫌いなアーサーは恐らく名前すら発したくないだろう、無言の圧力が予想以上に堪える。
「……行くぞ、」
くるりと踵を返したアーサーはどこかへ歩き出し、そのあとを急いで追う。
近くまで来た麗奈に目を向けると、手に持っていた荷物を奪い取った。
「持っていく」
ただ一言だけ言ってアーサーは再び歩き出す。
唖然とした麗奈は我に返り、その背中に向かって精一杯お礼の気持ちを伝えた。
「あ、ありがとう!」
ほっと胸を撫で下ろし、彼の変わらない優しさがただ嬉しかった。
このまま気まずい関係は嫌だったから、口数は減っても優しさだけ変わらない。
それだけなのに、胸が熱くなるような感情が込み上げてきた。
(本当は言わなきゃいけないことがあった、でも今はまだ言えない)
続く
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