信用。
相手を信じること。


ああ、言葉だけな、そう。この時代に相応しく、飾りたて、それだけの言語のような響き。
いつしか、信用なんて言葉すら、絵空事のように思えてきていた、そんな日のこと。



私はあなたのことを嫌いではなかった。そして、むしろ友人として、好きであった。もちろんそれは、己のなかでは飾り付けた言葉などではなく、本気だった…。
友人は、結婚や引越しや、よほどひどい喧嘩でなければ、特別に離れることのない存在であるような、そんなもののような気がしていた。それだけ、長い期間を共にしたと、己では思っているから、そう思っていたのだと思うが。
友情は、些細なことで壊れてしまうなど、経験というものがあるにも関わらず、忘れていた。
無情にも、ひとの記憶など曖昧で、ひどく不確かなもの。「学習能力ない」と言われても、こればかりはきっと、年々ひどくなっていくばかりだろう。だって、…これからは脳細胞は死んでいくばかりだ。



友人は、いつ会っても「昔のような自分に戻れる時を与えてくれる存在」だと。そう、会わず、連絡もとれずにいても…
そんな不思議な存在だと思っていた。それは、口にしてしまえば、無二のかけがえのない存在なのだ、と。言っては、あまりに大袈裟かも、知れないけれど。






だから、あなたが別の存在となって、私の前に現れるなんて。
もちろん、誰もが想像しえぬことだったし、できるわけがない。予知能力でもなければ。


誰に聞くでもなく、ただ宙に浮くだけの想い。


『どうして?』



私が、猜疑心という名の汚れに染まる前に、あなたに問い掛けるための言葉。…何度も、何度も。






だから、さようなら。



2021/01/31 01:08:05