ニーナには子どもがいる。
 それを、当人が聞いたのはコールドスリープから醒めてしばらく経ったあとだった。だが、それを聞いたからなんだというのだ? 妹のアンナは下卑た笑いを浮かべながらいう。
「調べたんだよ…。アンタと、三島たちの周りにはおかしなことが多すぎるからねェ」
 頼んだわけでもないのに、どうしてこのオンナは恩着せがましく笑えるのだろう。ニーナは苦虫を噛み潰したような顔をして応えた。すくなくとも、子どもの存在など今のニーナにとっては必要じゃないし、足枷でしかない。このオンナを見ても思うが、血縁などクソ喰らえだ。顔も見たこともない子どもを、おまえの子どもだ、といわれて見たからといって、母性が湧くわけでもあるまいに。
「キサマだって、コールドスリープされてたじゃないか」
「アンタほどの時間じゃない」
 消えた記憶は、コールドスリープの代償。アンナは短い期間の眠りだったからそうはならなかったのだという。
「そんなくだらないことのために呼んだの?」
 忌々しい妹の顔などもう見たくもなかった。ニーナはすっくと立ち上がる。次の任務についても細かい指令が来ていないことも気にかかっている。本当か嘘か分からない子どもの話などどうでもよかった。後ろからムンズとアンナが?みかかる。かなり乱暴に。カッとした。
「一体、なによ?!」
「アンタのその態度、ワザとらしいんだよねェ…。もしかして、三島にホの字なんじゃないのかィ?そうでなきゃ、大人しく従う意味なんて」
 皆まで言い終わらないうちに、ニーナの掌底がアンナのアゴをかすめていた。さすが姉妹。どういうところでこうくるか、がよくわかっている。そして睨み合う目と目。
 そこからは怒涛の勢いだった。殴る蹴るの応酬。素早さと素早さが絡みつくようにぶつかり、周囲にはつよい風が吹くかのようだ。こうなってはもう簡単には終わらない。先の話題も、指令もどうでもよくなっていた。ニーナは吹き飛ばされたフリをしながら腰元からピストルを取り出して、引き金に指をかけながらしずかに笑った。爆風のなか、指に力を入れると、小気味好い乾いた銃声が辺りに響き渡った。
 女の笑い声が銃声のあとに続いた。



(鉄拳4の前くらい?)

2018/03/19 19:32:10