※現実世界とリンク。初めてネタのなかにコロナ描写でます。

※ただのひめかわ夫妻のエチ


こんな日はマスクもわるくない




 今年は早かった。
 こんなご時世だ。仕事納めが早くて、会食が減った。これはある意味では──プライベートの時間がもてる、ということ──うまく作用した。むろん、仕事は減った部分もあるだろう。しかし、姫川財閥らの仕事はIT関連が多いため、ダメージは少なめ。飲食部のほうは店を閉めることはないまでも、時短営業のせいで売り上げは軒並み落ちている。また、宣伝部門も然り。ネットならばよいのだろうが、それだけでは回らないのが世の中というものだ。

「まったく、同じ家に住んでるとは思えんな」
 潮がため息をつく。同じ家でも、日々会わないことは珍しくない。出張も多いし、タイムスケジュールもマネージャー任せだから互いに知らないままだ。二人で戻ってくるなどと、相当に珍しいことだ。カバンと上着を投げ捨てるようにリビングのソファに置く。もはや疲れてコートをかける気もないし、それをやるのは常に家政婦の仕事だ。明日には彼女もくるだろう。今日は遅いからいないだけである。
「明日からゆっくりしようぜ」
「ふ。ゆっくり、ね……」
 笑みを浮かべた潮の目が妖しく光る。何かを企んでいる目だ。色香が漂う。まるで匂い立つように、女を醸しだす。それでふっ、と気づく。彼女はマスクを外していた。すでに。日本人は瞳で笑うから、笑みに気づかないことはないのだが。
 気づくと両手を広げて潮は抱きつかんとしている。愛情を示すハグ。だが、昨今の流れで竜也は身をよじってしまいたくなる。まだマスクはかけたままだった。あまりに当たり前にマスクをする日常。邪魔くさいと日々思うけれど、検査すら信用できない日が続くこの世界じゃ、最低限守るために必要な薄い不織布を大事に思うだなんて。身をかわしながら顎をしゃくる。方向はバスルームの方向だ。家政婦はすでに風呂を沸かしてから帰宅したはずだ。もちろん仕事はゴム手袋やビニール手袋をかけ、換気をよくして行なっている、はずである。
「フロ入ってからな」
 分かっている。
 夫婦なのに、遠すぎる。
 例の検査は二週置きに受けているので、互いに陽性でないことは分かっているが、他人によく会う仕事であり、かつ、竜也に至っては国を跨ぐことも珍しくない。持病はないながら、気をつけるに越したことはない。馬鹿な政治家の二の舞を踏むほど愚かなことはない。何よりも、互いを思えばこその行動だ。彼女とてそうだと思っていたのだが、どうしてベタつきたがるのか。睨むように潮を見る。きっと月のものが間近に迫っているのだろう。彼女が言うには、そのときはとにかくシたくて堪らなくなるのだという。まるで発情期の猫だ。
 一緒にいる時間が長くなると、生理周期は知らないが、サカっている空気感と目つきだけは察することができるようになるものだ。そんな気などなかったが、今日は夜も長いだろう。心の中だけでふう、とため息をついた。気が乗らない、とは言いたくないが。やはり年末、年の瀬。疲れているのだ。

 潮はハッとしたような顔をして、慌てて洗面所で手洗いうがい、歯磨きもしてから風呂の準備をして籠った。
 竜也といえば、その間に寝てしまいそうなくらい、眠気が襲ってきた。もちろん手洗いうがいと着替えは済ませている。潮のあとに風呂に入るつもりは満々で、シャワーなんていわず、きっちりと肩まで浸かって百数えてから出たいくらい、ゆったりと風呂に入りたい気持ちなのだ。いつもはバタバタとシャワーで済ませてしまうことも少なくはないから、明日はオフだと思えばこそだ。

 シャワーを浴び終えた潮は、髪を乾かしてからベッドへ向かった。まったく、と怒りの声を抑えられなかった。布団もかけずにベッドの上で眠りこける竜也の姿がそこにはあった。こんな姿を見たものは自分以外におらんだろうと思うと、愛おしくて堪らないが、なせ、どうして眠ってしまうのか。
 ゆっくり、しようと思っていたのに。
 意味は竜也も理解していたはずだ。分かってはいても寝てしまったのか。疲れているのは分かるが、こちらだって切羽詰まっているというのに。
 胸のなかにわだかまるのは胸、股間から背を伝って脳に届く。ジンジンと性的な意味で、追い詰められていく。
 いつだって、生理前はこうだ。セクシャル的なことしか考えられなくなる。自分の身体が自分のものではない感覚。身体の中を刺激してほしいという血流みたいなものが流れて止まらない。ここには愛とかそういう甘ったるいものは一切ない。ただ、身体への刺激だけを求める脳内。バカみたいだと思うけれど、それは毎月訪れる儀式だった。
「私がおかしいのか…?」
 ネットで調べたこともある。生理前の気持ちの変化や、性的な要求については人によって違う。つまり、おかしいわけではないのだ。だが、心配になる。性欲を抑えるのがいつだって大変だ。そして、抑えるのを手伝ってほしいと思う。もちろん、竜也に。
 よく見ると、口を薄く開けた竜也のうすい唇はとても性的で興奮の材料になる。簡単に言うと、この口に吸いつきたい。
「た………つゃ、」
 小さく彼を呼ぶ。唇を軽く食んで、緩く吸いつく。これがほしかった。すきだ、といつだって触れるたびに思う。寝息。かわいい。もっと、もっとしたい、そう思って止まない。
 手は髪を撫ぜ、頬を滑り、シャツをたくし上げ、その柔肌に口付けた。どこだって竜也の持っているのもは愛おしい。触れると熱量を感じる。身体がひくりとうごめく。そんなところも愛しい。うーん、と唸るが起きようとしない。チュッとリップ音をわざと響かせてやるが、聞こえていないのか目も開かない。胸や腹はもう目の前に晒されている。寒さは感じていないらしい。これからは温まるだけだろうけれど。そう思うと、心からの笑みが洩れ
でてしまうのだった。
「しかたないヤツだなぁ。このまま私が襲ってしまうぞ」
 どうにも我慢ができないのだ。
 いつもは竜也と共に寝ることも少ない。彼の顔を見ることだってそんなに多くはない。それでも、今年は例年より一緒にいる時間は長かったように思う。余計な接待だとかパーティだとか、そういうものが減ったのは万々歳だったところもある。一緒にいたい夫と、一緒にいられるのだから。
 もちろん楽観視できることばかりではないし、なにより消毒作業や、人と人との距離感の問題など、憂慮すべきところはたくさんある。これからも続いていくだろうし、まだ先は望める段階ではない。もちろん急げばワクチンを打つことは可能だろう。世界に手を伸ばせばすぐにでも可能なことだが、自分たちだけがよければ解決する問題でもない。症例はどこから現れるか分からないところがあるし、ウィルスとやらは進化しているものでもあるらしいからだ。まったく楽観できない。
 そんなことだけ考えていられるわけでは、人間はない。楽しいことも考えなければ生きては行かれない。きっと、だからこそ性欲が強くなってきたのだろうか? それとも、単に年齢的にホルモンバランスのせいで男化してきたのだろうか? しかし、こんな時期に男化はしないと思うが、やはり毎月のイベントなのかもしれないな、と思うばかりだ。
「きれいな、…かお」
 造形の美しさを嘆くのは本人ばかりだ。リーゼントが合う顔がいいとか、強面のほうがよかったとか、わがままばかり言うのはもはや口癖なのだろう。不幸中の幸いで、竜也は親からもらった顔を捨てようとはしないのだが。その端正で整った顔をゆるゆると撫でながら、ふたたび唇に吸いついた。一生このままでいい、と思うほどにこうしていたい。角度を変え、方向を変え、何度もなんども口を吸った。竜也は時折苦しげに喘いだ。咳き込むのはかわいそうなので、ほどほどにしておく。
 その間に胸に手をやり弄る。反応自体はないものの、ちいさな乳首はやがて尖り、硬さを増してピンと立ち上がる。それを舌先で転がすのと、指先で転がすように、人差し指と親指でコネコネとやる。時折先端も刺激してやる。まだ竜也の体温が上がってくる様子はないが、こういう悪戯をしていると、男の気持ちがわかる気がする。
 舌先を尖らせて、身体の線をなぞり下へと移動していく。子供みたいにおっぱいも吸う。が、相手は男なのでちょっと物足りない気もする。こればかりはしかたないか。臍まで味わって、きっと疲れてるんだろうと思いつつ、少しだけしょっぱさの残る、まだ清めていないその身体全身が愛おしくて堪らない気持ちになる。その気持ちとは裏腹に、身体を早く繋げたくて堪らない気持ちもある。ずるりとスウェットの下を下ろす。
「やっぱり寝てるのかなぁ。神経も寝るんだよね、眠るときって」
 小さくつぶやくと、勃ち上がりを見せない静かなままの股間の、盛り上がりないソコをゆるゆると撫ぜ回す。早く直に触れたいと思いつつ、我慢すればするほど、後が嬉しいのだということを頭に刻みつつ、己を焦らすようにインナーの上からちゅっちゅと口付けた。また口は顔に戻り、啄むようにキスしつつ、股間は手で責めていく。やわやわ揉むと、次第に硬さを取り戻していく。本来の姿はやわらかいほうのはずなのに、いつだって潮が目にするのはかちかちになった、大人の姿なのだということを、ようやく思い起こさせるのだ。
 下の硬さが増すとともに、徐々に竜也の体温が上がってきているように感じる。もしかしら、彼は起きていて、この成り行きを知らないふりで過ごそうと考えているのかもしれないな、だなんてふと思う。竜也にはそういうところがある。傍観はラクだから、気持ちはわからないでもないが、参加してほしいとも思う。どちらにせよ、ここまで来たらもう止まらないが。
 今度は下着も下ろしてしまう。脱げかけの上下は、彼をひどく不安定な生き物にさせる。まるで蜘蛛に囚われた蝶のように見せる。とても綺麗だ、と思った。緩く勃ち上がったそこをゴシゴシと擦って直に刺激をやると、彼の腰は少しだけ浮いて、口を閉じられたまま。すぐに平静に戻る。起きているのか寝ているのか、いまいちはっきりしない。
 潮は自分の服をたくし上げ、下着をその場に落とす。露わになった胸を勃起に擦り付けて、身体を竜也の上半身に寄せた。ふたたび身体の線を舐める。さっきよりも竜也のフェロモンが増した気がする。たぶん汗ばんでいるのだ。この味が好きだ。胸で股間を押しつけながら身体のあちらこちらに口をつけていく。
 胸を押しつけて敏感なところと敏感なところとを刺激し合わせようと画策していると、前にパイズリしようと頑張ったことを思い出す。そもそも潮はバストサイズの大きい方ではない。カップにしてBなので、子供かよ!というサイズ感ではないが、手にすっぽりと収まるサイズという感じか。それを竜也は悪く言ったことはない。むしろ、大きいトップレスの映像を見ながら苦笑している。大きいのはそんなに好きではないのかもしれないが、そんな話をした覚えはない。
 だが当時、潮は男として生きる道を諦め、竜也との結婚に進んだばかりだった。女としての己に自信が持てなかった。女として生きてよいのか、それすら不安だった。今思えば久我山の家は古くておかしな家だと思う。男子として生かす、だなんて。人間として諦めろというのに近い。今やLGBT問題もあるし、これを口にすることすら憚られるところもあるのだが、女だと思って生まれた女を、男としてむりに捻じ曲げて生きさせようとするのは、拷問以外の何なのか。当時はそこまで考えていなかったが、よくよく思い出してみれば大ごとだったのだと思い至る。
 その時は女にならなきゃ、と躍起になっていたように思う。胸がないのも気にしていた。男はみんな大きなバストが好きなものだと信じて疑わなかったので、余計に自信が持てなかった。だからパイズリなるものを、アダルト動画から学んだ。その頃はセックスにも興味があって、とにかく夜はすけべな動画ばかり見ていた。その辺の男子よりもその手の女優に詳しかったかもしれない。それで竜也が喜ぶと思っていたのだから、お笑い種である。
「これ、好きだろ…?」
 胸を寄せて上げるブラジャーで何とか矯正した日々。大きくなったとは思えない寂しい胸の膨らみを二つ、竜也の男根を挟み込む。ぎゅ、ぎゅとやると意外に胸が痛い。これは男が気持ち良くてもこっちがダメなんじゃないか? 潮は何度も自問したが、答えはない。心の中は穏やかではなかった。だが、気持ちはノッてくるのが不思議だ。竜也は呆れたように笑っている。だがソコは元気。元気になっていくソレを見ていると、やらしい気持ちがどんどんと行為をエスカレートさせる。
あまり意味があるとは思えない胸を使ったモミモミは、結局手を口を使った手淫になった。
「どうだった?」と潮は聞いた。
 竜也は笑ってまともに取り合おうとはしない。色付きメガネの奥が笑みの形に歪んでいた。いつもみたいにちょっぴり意地悪い顔をして。嬉しくなかったわけではないのだろうが、そこまで嬉しいというものでもなかった。そんな感じだ。パイズリとは男のロマンなのだと信じて疑わなかった日、なにかが音を立てて消えていった。べつに相手に合わせるだけがセックスの世界なのではないと、初めて知った気がした。
 今までこうして男女の世界だけではなく、ただ、隠し事は多かったから、己を曝け出すのが苦手だった。生き方を変えたいと思っていた。そればかりが先走って先行し続けて空回りしていたのだということに、あとから後から気づいた。情けないと思いながらも、あとから自分を知ることは、そんなに悪くないとも思った。自分とはこういうやつなのだ。
 ただ、竜也のことを想って、空回っている。それは今も変わっていない。
 変わらないままの潮は、今現在彼の男の部分に舌を這わせ、手で扱き上げ、筋をナゾり舐め回す。竜也の息が上がっている。もう勃ち上がったモノもパンパンに張ってきた。あまり好きにやらせてくれない彼なのに、今は好きにさせてくれているのが楽しい。根元を扱いてから先端にキスする。だいぶ温まっている。ちゅるちゅると吸った。あ、またキスしたい。再び唇を吸った。きっと竜也の味がするだろうな、と意地悪く思いながら、舌先を彼の口にゆるく入れてゆく。竜也は何も返してくれない。嘔吐いたらかわいそうなので、すぐにまたバードキスに戻る。この瞬間、私たちは鳥なのか? などとどうでもいいことが刹那、頭をよぎった。性は頭をバカにさせる。
 竜也に体重をかけないようにして、上に乗っかりショーツだけの姿になる。下着の上から竜也の昂りに己の一番敏感なトコロを押し付けていく。角オナとやらを夫の身体でやってしまうなんて、なんていやらしい妻だろうかと背徳的な気持ちになる。それを思うだけで下着のなかはジュン、と濡れていくのが分かる。すでにショーツは湿っぽくなっている。口や手でやると、すぐにパブロフの犬の如く、奥から熱いものが湧き出てくるのだ。理由は分からないが。
 根元を扱きながら舌を寄せ、今度は舐める。ちゅうと吸うと竜也の腰がちょっとだけ浮く。竿を扱く。もうパンパンに張ったソコを見ると、とても優しくしたいと思う。筋張って痛々しいくらいになっている。袋を揉みながら吸う。唇よりも大きいし、存在感も思ったよりあって、責めるのは楽しい。
 十分に濡らしてやわやわと揉み込んでから、彼の上で腰を浮かせながらショーツを下ろす。もう生まれたままの姿。パンティのクロッチはすでに濡れて、その愛液で糸引くように離れがたそうにしている。本当はサッサと離れたいくせに。跨って己の穴の部分に擦り付けるように腰を上下すると、敏感な尖りに触れては声を押し殺す。べつに喘いでしまっても構わないのだけれど、竜也が目を開けようとしないので、この茶番は続けていてもいいような気がした。これも年末の戯れだ、とどうせ後から笑い話だ。
 足を広げて入口に擦り付けてゆっくりと腰を落としていく。ずぶ、ずぶ、と入り込んでいく感覚はいつだって鳥肌が立つほど嬉しいものだ。愛する人を受け入れる感触に、潮は毎度身悶える。久々の行為だから、なお余計に。
「…っ、ちょ、おまえ…、何してんだ、よっ」
 眠そうな声。弱々しいながらも腰が跳ねて、ずぐん、と奥に入り込む。起きた。竜也がちゃんと覚醒したらしい。髪の毛をくしゃりと鷲掴みされて、潮はそれが嬉しくて堪らない。男の気持ちがわかるというものだ。マグロのように寝てるだけの女など何の価値もないと、だからサービス業である風俗が消えないのだろうことも納得がいく。
「ねこみ、襲ってんじゃねー……、変態」
「オマエのはちゃんと勃ったじゃないか」
「おめーが、やったんだろ」
 潮はそんな竜也の言葉などお構いなしに彼の唇に吸いついた。今度は思う存分貪ってやる。食んでやる。もう、腹ペコの奥さんは怖いのだ。思い知らせてやる。噛み付くみたいに何度も、なんどもキスをして。舐めて吸って、彼に食らいつく。上も、下も。腰をグリグリと押しつけて、まずは自分が気持ちいいように動く。ヴァギナも好きだが、クリトリスも好きなのだ。キスで溶けるのは潮だけじゃない。竜也も同じだと思う。目も表情もどこかやらしく蕩けてきた。これが見たかった。擦り付けているので思った以上にヤラシイ音が響くのも、セクシャルな気持ちを上げるのに貢献していると思う。
「ん、ん、ん、もっと、……もっと、たつやぁ…」
 ねだる言葉と動き。音。すべてが自分たちだけの世界になる感覚。二人も、自分たちという別々なものじゃなくて、一つになっていく。そんな気がする瞬間。もっと唇が欲しい。いつだってほしい。奥に彼がいるのに、それですら足りないと思うこの欲は、きっと強欲と笑われすらするのだろう。奥に入るように、一度抜けるスレスレまで腰を浮かして一気に体重をかける。声も鳴くように洩れ出る。溢れるのはそれだけじゃない。抱えきれなかった快楽の波だとか、そんなものも一緒に落ちてゆく。それを吸い出すようにまた口付けた。なにか言葉を紡ごうと口を開いた彼の口を、口で塞いだ。言葉はいらない。今欲しいのは咆哮かもしれない。気持ちよさに身を委ねてほしい。唾液と唾液でどろどろになって、身も心も溶けてしまえばいい。
 いつの間にか形成は逆転していた。
 変わらず、姿勢では竜也は下のままだったが、リード権は竜也の側にある。腰が時々動くのが、逆にピストンじゃなく読めなくて声も我慢できないほどの快感になっている。下から突き上げられると、悲鳴に似た歓喜の声が部屋に響くが、唇同士が同じ生き物みたいにくっつこうと画策しているので、くぐもった音しか出すのを許さない。同じ生き物になりたいと思いながら、読めぬ動きに翻弄されるのはどこかおかしなものだ。嬉しいし気持ちいいけど、まだ、主導権を握られたくなかった。潮は身体を起こして下を見やる。竜也がもう抜けそうだ。
「何してんだ」
「おまえに主導権はやらない。今日は私がマスターだ」
「………ハイハイ、了解」
 諦めたようにそれだけ言うと、竜也は目を逸らす。呆れているのだ。潮は竜也のペニスを再び扱きながらそこに口付けた。ここで可愛がってもらっている、と思うと愛おしくて堪らない。すでに潮の愛液と、竜也自身のカウパー汁でぬるぬるになったソレは、濡らす必要などないし、刺激が足りてないわけでもなかったが、竜也の余裕ない表情が見たいのでいつもとは違った責め方をしてみることにした。扱かずに敏感なところを責めまくる作戦だ。さっきよりも硬く大きく張っており、色も赤黒くどくどくと脈打っている。筋が浮き上がっているのがヤラシさを浮き彫りにしているように映る。竜也の息が上がってくるのは予想以上に早い。すでに気持ち良くなっていたのだから、そういうことなのだろう。
「イキたいか? それとも、入れたい?」
「…両方」
「素直なのはよいことだが、あんまり面白くないなあ」
「おまえはナニがしたいんだ…」
 互いの性癖も知り尽くした夫婦だ。恥じらいも照らいもないのは、長く付き合っている証拠。だがそれだけにマンネリが怖い。しかたのないことだが、もう少し相手の見たことのない部分というものを知りたい気持ちは大いにある。意外性は、萌えるのだ。それは発見には至らなかったけど、素直なの竜也が見られたのでよしとしよう。潮は心の中でひとりごち、ふたたび彼の上に跨り直した。今度は最奥に入るよう、深く一気に腰を下ろす。
「起きて、起きろ、竜也。ぎゅーってして。チューいっぱいしたい…。ずっとしてなかった、し、…あぁ、すき、好きなの!」
 竜也が身体を起こすと、内奥が締まり、それだけで互いのつながりが深くなった気がした。潮は唇を吸いながら、腰を押し付けるようグリグリと動かした。ナカで奥で、竜也がびくりとうごめく。気持ちよさがダイレクトで伝わる幸せ。竜也は言われた通りにしてくれている。何度もなんども飽きず、唇を舐めて吸って、舌で舌を探って、口の中をゆらめくように旅して。どっちの唾液が分からないものが互いのなかに入り込む。顎に伝うのもどっちのものかわからない。それでも構わない。この行為で、ひたすらにおまえがパートナーでよかった、と感じることができる。そしてオマエは私で、私はオマエだ、と意識と境界は曖昧になる。どっちがどっちでもよいのだ。
「…っ! たくよ〜、何勝手に…」
 潮の声にならぬ声と、最奥からの収縮。気をやった証拠だ。そして全身が弛緩して、倒れ込むようにぜいぜいと全身を怒らせている。これでは完璧な一人相撲だ。こんなにさせておいて。竜也はため息しか出ない。
 おい、と声をかけながら、まだ達していない己の身体を鼓舞するように腰を上下させる。
「この程度で終わりじゃねぇだろ」
 いつも。いつだって潮の方が男のように被さってくる。いくのが早いのも普通の男の特権か。ふ、と心の中だけで竜也は嗤う。ズン、と突かれると潮は呻きながら彼に縋った。まだ終わりのはずがねぇだろ。言葉にせずに女も嗤う。攻守が交代しても、まだ夜は始まったばかり。長い夜の幕開け。休みもまだ始まったばかりだ。ふたたび潮は竜也に、貪りつくように口付けた。



 次の朝。
「こりゃ、まずい」
 互いの顔を見た。笑ってしまった。
 仕事はなくとも用事がないわけじゃない。出かけなきゃならないと言うのに、この顔は。「見事に…」
「腫れたな」後を引き取ったのは潮だ。
「呆れた」
「ああ、ほんとうだ。キスって唇が腫れるもんなんだな」
「不謹慎だが、マスクの世の中で良かった、って初めて思ったぜ」


2020.12.31

お粗末さまです!
なんとか年中にアップできます!
3日くらいでチャラチャラーっとポチポチしておりました。
急にサカったのか(笑)エッちぃというか、最後のセリフが書きたかったのも、あるんですけどね。


元ネタはこれ濃厚キスのせいで唇は腫れるのか?またその理由は?!。なかなか夢を破る話なのでぜひ見てみて欲しいです。こういうの大好きです!

2020/12/31 20:41:46