※すこしエチィ

闘いの先に




 トラヴィスの待ちに待った時間だった。彼女へ口付けて、その芳香を体いっぱいに味わうこのときが。彼女の唇は驚くほど冷たいけれど、ぷるぷるとやわらかでいやらしい。舌先をトラヴィスから埋めると、そのなかにはさらに驚くほどに熱つよい舌先が嬉しさを滲ませて絡みついてきた。きっと、こうして男をたらしこむのだ、この女は。そんな嫌味を頭のなかへ浮かべた途端、彼女が抱きついてきた。だいすきと言われている、そう思えてしまうほどに情熱的に。そうではないと分かっていても。待ち望んだこの瞬間に、トラヴィスは蕩ける心持ちだ。
 彼女から一枚、一枚と最初はサングラスから剥ぎ取りはじめる。目と目が合うのは魔法にかかるのと同意。呑まれている。食らいつく野獣はトラヴィスだのに。この女は、本当はトラヴィスを食らっているのだ。どうやったって足掻ききれない。欲望の炎を消すことができるのは、彼女だけだ。下着を剥いでしまうと胸のふくよかな膨らみに顔を埋めた。こうしたかった。ずっと、こうしたかった。幼児に戻ったような格好で、その中心の尖りを軽く食みつつもう一方は湯人差し指と親指とでコリコリと刺激した。ン、と喘ぐような吐息。彼女にも喜びの感触があるのだろう。そう思うとトラヴィスは嬉しくて飛び上がりそうに感じた。
「トラヴィス……」
 吐息のなかから声が聞こえる。彼を呼ぶ声。ぞくりとした。まさか、呼ばれるなんて思ってもみなかった。こうしているときに、彼であることを思い出させる名を。空耳かもしれない、と思い始めたとき、ふたたび彼女が名前を呼んだ。
「ステキよ……。トラヴィス・タッチダウン」
 トラヴィスは乳房から口を放し、顔を上げた。そして強引に唇を奪う。押し倒しながら鼻も、口元も、顎先まで舐めて首筋に舌を這わせる。やっと彼女から身を離したとき、すぐに彼女の目が笑っていることに気づく。そんな彼女でさえ、トラヴィスの強引な攻めにくたりと身体から力が抜けきって身を任せていた。
「いままでで、一番今のアナタがステキ」
「…っ! シルヴィア」
 ギュッと彼女を呼びながら抱き締める。分かっている。彼女に愛などないということに。だが、それでも心踊る胸の奥を隠すことすらできやしない。まるで童貞のときみたいに、何の余裕もない。こんなこと、ただの男と女がやるセックスだろうと分かっているのに。まるでこの行為が神事みたいに思えるほど、崇高で素晴らしいものだとしか思えなかった。トラヴィスは彼女の身体へとすこしずつ、大事なものを扱うように近づき、触れ、入り込んでゆく。あのくだらないランキング戦は、このためだけにあったのだ。トラヴィスは彼女のなかへ自身を埋めていった。それだけで果ててしまいそう。生きていて、よかった。身体が歓喜に泣いている。喜びに震えている。涙だけは流すまいと、口を噛んで耐える。ただ、男と女が繋がった、それだけで泣くなんて童貞だってあり得ない。トラヴィスは動けずにいた。動いたら、この溢れそうなものをすべてぶちまけてしまいそうだからだ。身体の震えを止めるため、シルヴィアの細くても豊満な瑞々しい身体を抱きしめた。
「どう、したの?」
 動かない男へ後押しするよう、シルヴィアは分かっていて、なお聞く。この関係に情なんてものはなくて、決して愛や恋などという甘っちょろいものがこの体と体とのぶつかり合いのなかには存在しないのだということを、トラヴィスもシルヴィアも分かって、それでも、口からついて出そうになるソレを心の力で押し返し続けている。トラヴィスはニヤリと笑いながら、おおきく息を吐いた。
「ハッ、イキそうになっちまった。入れただけでこれたぁ、アンタ、やっぱ最高のオンナだぜ。……さ!」
 トラヴィスは身を僅かに起こし、余裕ぶって一度自身をギリギリまで抜く。ぬちゃり、といやらしい水音が耳に届いた。なかは熱くて絡みついてくるようなキツさ。興奮も絶好調だ。そのまま一気に、奥へと腰を突き動かす。あ、は、とそれだけで呻きが洩れる。動いたらそこまでもたないだろうことを分かって、彼は腰を回すように動かす。女にはこの動きの方が効き目があるはずと思って。甲高い彼女の声が悲鳴みたいに聞こえる。もう、それだけでダメだった。彼女のことしか考えられない。ずく、ずくと腰を回しながら突く。男女ともに感じられるような複雑な動きだ。
 これがほしくてたまらない。
 この女は俺のもんだと誰しもにいいたくてたまらない。これこそがシルヴィアという魔性の女の魅力だ。奥へと押し突きながら、彼女を呼んだ。まるで、あいしていると囁くみたいに。愛など知らない男が。壊れてゆく。どろどろと溶けてゆく。シルヴィアのことだけになる。すべてがシルヴィアという女だけになる。それ以外、なにもいらなくなる。腰の動きが早くなる。シルヴィアの抑えきれない嬌声。二人の息遣い。迸る汗と性。


「いいご褒美だったでしょう?トラヴィス・タッチダウン」


 長い身体の震えとともに果てたトラヴィスの記憶のなか、最後に聞いた彼女の声。素晴らしいセックスだったと褒めてもらったのもそこには確かに記憶としてあった。

 大人になると、人は遊びを覚える。もちろんエッチなやつ。それは情を挟まないもので、そうして狡さを覚えていく。そうしたものだと思っていた。でも、たしかに彼女を抱いていたその瞬間、たしかに愛にちかいなにかをトラヴィスは感じていた。シルヴィアが人妻と知ってもそれは変わらない。どこまでも性で遊べない自慰体質なのかと笑ってしまえるほどに。もしかしたら犬みたいに腰を振りながら、彼女へ向けて愛の言葉すら放ったのかもしれない。だが、隣に眠る彼女はいない。間違った感情だと笑われそうなそれを抱えて、殺し屋はしずかに布団を被り直す。隣にいない彼女を思う。
 ほしくても手に入らないものを、深く思う。唇も喉もカラカラに乾いていた。これを潤せるのは今は、彼女しかいない。胸の痛みに、しずかに耐えた。身体を布団のなかでくの字に曲げながら、暴力とは違う痛みに。



18.03.21

メチャクチャ久し振りにノーモアの文章を書きましたw ほんとうは掌編だったのですが、長くなったので。。
「一発でいいからヤラセて」がトラヴィスを追い詰める感じの話。そのくらいいい女ってことで。
まあまだ2やってないしいろいろギャグと下ネタ要素多い作品ですけど、なんか気に入ってます須田ゲーww

元よりコレ、エッチシーンを書く気がなく書いてましたのでエロくない(自分比)。なによりノーモア知ってる人どんくらいこのサイト来てるんだかw
自己満です。不倫ネタで刹那をだせたかなあ…?

2018/03/21 18:17:35