※ ただのリハビリ文


草食動物と雑食動物との分かれめ



 どさりと倒れていく今までかかってきた弱いやつらのことをぼんやりと見て、それに対し興味をなくす。こんな日々が続いている。怯えたケモノみたいに自分に対する危険な音だけを察知する耳がいつの間にか身についた。これは最初からあるものではなかった。英虎は幼い頃のことを思いだす。そう、こうして耳が良くなったのは逃げるためであったはずだった。まるで小動物のようだ。野うさぎの耳が縦にピンと伸びているのはそのためだと、後から知った。昔の色はもうない。彼にかなうものなどこの辺りにはすでになく、彼は飢えたケモノのように成り果てていた。物足りない日々が喉の渇きを忘れさせてくれない。ただただ骨のあるやつとやり合いたかった。ある男の顔が脳裏に浮かぶ。あいつと会えた、それは選ばれた運命みたいで胸が踊る。まさか、同じ学校だったなんて思っても見なかった。だが、あいつ以外にもまだ力を見せていないやつもいるな、英虎はこれまで会ってきた骨のあるやつらのことを思い出していた。
 男鹿。藤。禅さん。
 こんなに胸が高鳴るやつらが同じ学校にいるのだ。どこからぶち当たっていけばいいのか、それを考えると身体が熱くなる。喜びに満ちみちていくのが自身でも阿呆らしいほどに分かる。他にも出会った、くまちゃん学園のエラ男。聖石矢魔のメガネ。彼らとも甲乙をつけてしまいたいけれど、それよりなにより同じ学校のやつらとのほうが気軽にいける。気づけば反射的に足を踏み出していた。最初に会った目当ての人物で構わない。学校へ向かう足の動きが早まる。
 英虎が教室に駆け込んだとき、すでに彼自身も息を切らせるほどに走りこみながらのものだった。それを気づかせたのは、いつもの教室の風景のなかでのこと。驚いた顔の早乙女禅十郎、その人の荒らげられた声と表情によってのことだった。そのときはすでに英虎の身体はほぼ反射的に、禅十郎へ向けて跳んでいた。その姿を見た禅十郎は叫ぶようにいっていた。
「おあ?! ガキがナメんじゃねぇぞクソッタレがああぁ!!!」
 ほとんど意味をなさない言葉とともに起こった英虎と禅十郎の身体がともに、3階という高さから窓ガラスを破って跳んでいく姿。そこで起こるのは悲鳴ではない。なぜならば、教室内には石矢魔高校の一年から三年の男子生徒が集まっていたからだ。女子がいない。そこで乱闘が起これば喝采こそあれど、悲鳴など起こり得ないのだった。ガシャーーン、という小気味好いほどに鋭い音とともに、英虎と禅十郎の身体は窓の外へと宙を舞った。その姿を窓へと向かい、男子生徒らが集ってその様を見下ろしていた。そうする以外、他にできることがないほどに瞬間的なことだったのだからしかたがない。教室内にもパラパラ散らばった窓ガラスの破片は生徒たちのことを軽く傷つけることもある。そんな生徒たちが見下ろす光景は、落ちたとは思えないほどに生命力にあふれたもので。

「っ、うぉらぁあああああ!!!」
 血気盛んな英虎が叫んだわけでは、意外にもなく禅十郎の声が野太く響いた。ネコのようにくるりと回転したわけではないが、二人はうまいこと3階から落下したとしても、着地してなにごともなかったかのように殴りあいのようなものを展開している。近いうちに止められるとは分かっているだろうに、それでも止められないということが不器用で無骨な男たちだからなのかもしれない。だが今日は、今日だけは周りを取り巻く空気感が違っていた。こんなことになれば常ならばやんややんやと喜ぶ輩が出るだろうに、なぜだか今日に限っては三年教室の男どもの目の色が違う。その目はギラギラとしており英虎への敵対のようなものすら感じさせる。彼らもまた英虎と同じように飢えた目をしてこの場を見守りながら、非難の声をあげた。この日に限って英虎の味方になる男子がいないかのとはある意味不可解だった。否、ゼロというわけではないが、彼の仲間である相沢、陣野の両雄と、さらにそれらの後方から冷めた目で見やる姫川らの目は常となんら変わりない。
「相変わらず意味のわかんねーヤローだ」
「……虎は、ただ」
 姫川の小馬鹿にしたような呟きに陣野が返す。そんなことなどお構いなしに周りのヤジが怒号のように飛び交う。それで陣野の言葉は誰の耳にも届かずかき消された。東条英虎アウェーな空気感。バトる二人を上からワアワアとやる。
「早乙女勝って上がってこい」「東条急になんだおまえは」「キチガイがてめーは」「はやく帰ってきて授業のつづきやってくれよう」「早乙女ガンバだ」「女ども戻る前にカンバックぅ」「東条邪魔だからまたさぼれ」「先公でてくるまえに戻ってこいって」
 殆どが早乙女を応援する声。いつもならあり得ない展開だが当の英虎には届いていない。目の前のその人と闘いたいと剥き出しの闘志で迎えるだけ。アウェーもなにも英虎には全く関係ないのだ。だから拳を握りニヤリと笑っている。次の一手を出すのが早いのはもちろん英虎だ。拳を握りながら、それはフェイントで早乙女の足を狙う。それに引っかかったのは教師の側だ。いつもならば手のつけられないほど強い彼がすっ転ぶ姿に大喜びするだろうに、今日だけは旗色がまるっきり違う。さらに英虎に対するやじが強まった。さすがの英虎もその声が耳に届いて教室のほうを振り返った。だが早乙女の足音と動いたときの風の動きを感じ、すぐに向き直ったが。もはや二人はバトルモードである。
 宙には早乙女の出した悪魔の紋章が英虎の右と左に、気づけば浮かんでいた。二つの紋に囲まれて、それから逃れるためにパッと動いた。その瞬間、左右の紋から火花みたいな何かが英虎に向かって爆ぜた。もちろん当たらなかったけれど。ゴロゴロと転がりながら体制を整えた先に早乙女がいた。そのヒゲヅラに拳をぶち当てた。恨んだわけじゃない、むしろ感謝すらしているなかで。彼の顔に思いきりパンチを入れてやる。その感触は手に優しくはない。だからといって厳しくもない。早乙女の身体がズザザと砂埃を上げながら英虎から離れていく。吹っ飛ばないまでも、ダメージは少なくなかったろう。身体は起こしたまま、なんとかギリギリのところで地に足を踏ん張り押されるような格好で吹っ飛んだ早乙女は、砂埃がおさまるまえに闘争心を露わに笑っている。英虎にしろどちらもそう変わりのない闘いジャンキーみたいなものだ。闘える、そう思った途端に切り替わるイキモノなのだ。だが裏腹に生徒たちは闘いをやめる、またははやく終わらせて授業を再開してほしいと石矢魔らしくもないことを抜かす。それは早乙女にも届いていて、すぐに生徒らに手を振る。早乙女禅十郎はやはり英虎に比べオトナだ。バトルモードに移行した気持ちを平常運転に戻しつつも英虎に向き直る。
「センセーとして、授業をしてぇと思ってんだが? マジでやって一撃でキメても構わねえよな」
「おう、たまにゃー禅さんとやりてえって思って先走っちまった。本気でいくぜ」
 キュッと二人の顔と気が引き締まると、周りの空気も瞬時に締まる。これが闘いのチカラだ。教室のなかで寝ていた男鹿が、ベル坊とともに目を覚ました。こちらにもバトルマニアが存在している。思いきりのびをしてから窓に群がる生徒どもの傍からようやく外を見た。向き合う早乙女と英虎の姿。と同時に高まる気合いに笑みをもらす。とりあえず二人でやってることだ、黙って見ててやろう。本当は混ざりたいぐらいに楽しそうだと思ったけれど。それに入り込めない雰囲気が漂っていることは、常なら空気などまったく読めない男鹿であっても好きで得意なことに関する空気はカチリと読めるらしい。向き合って動かない二人の姿がわずかにググッと地面に沈み込んだかのように、見えた。それはきっと気のせいだろうが。
「ーーーーーーー!!!」
 声にならない咆哮が辺りに響く。それと同時に突き刺さるような衝撃波。二人が拳を出し合っただけだのに。そしてどちらも立ったまま、しばらく停止していた。やがて、英虎がその場にグラリと揺れ、膝をついた。わあっと三年教室が早乙女の勝利に沸く。座り込んだまま英虎は笑った。彼もまた負けながらも早乙女の勝利に心躍らせてもいたのだった。腹部に一撃をもらっており、ぐずぐずとした傷みが英虎の身体じゅうを駆け巡っている。そんな動けぬままの英虎の上方から翳りがあった。それは早乙女が彼の前に立ったからだ。手を差し伸べる早乙女の姿が英虎の眼に映る。昔のときと変わらない。そう英虎は感じながら伸ばされた手に手を置いた。この人とやり合えてよかった、そう思った。痛みは消えないなかで。そうしてバトルモードから頭のなかから消えていくと、痛みと周りの様子が頭のなかに入ってくる。それは早乙女を持て囃すような歓喜の声たちだった。英虎へ向けてのブーイングは耳に入らず、英虎は嬉しくなって片腕を上げた。早乙女が『教師』として助けるべく手を掴み引っ張り上げ、手を貸し肩を組んで歩き出す。三年教室へと戻るために。それが周囲の本意と同意だったかどうかは別問題として、闘っていたばかりの二人が許し合うといわんばかりに肩を組んで歩く姿は、石矢魔高校の面々へ対してもインパクトの深いものであることに違いはない。二人の気持ちが遊ぶようなものとそう変わりないとしてもそれは、誰かの眼に映るものではないのだから。
「咳き込みながら、笑ってら」
 男鹿は教室の後方から見てぼそりと呟く。英虎の表情の意味がよくわかる。闘って負けてもそれはそれで構わないのだ。例え闘いの時間が短くったって。実力を出せる、その中身でさえあれば彼らは闘いに納得するのだ。応援と歓声に包まれながら、早乙女が英虎とともに帰還する。教室の窓の生徒たちを見ながら手を振って応じた。
「帰って授業、すんぞーーーっ!」
 男たちの野太い、うぉおーっという声がさらに周りを盛り上げる。だが弱る英虎とともにいく教室への道はいつもよりも遥かに遠い。英虎は眉を寄せた。もちろん、筋肉バカの英虎は勉強など大嫌いな部類に他ならないのだ。だがそれは英虎にとどまる話ではないだろう。しかしそれが今は違っている。それは異様な光景にしか映らない。その違和感を英虎は肩を組まれてともに歩きながら問うた。
「なあ禅さん…? 俺はベンキョーとか、すきじゃねぇよ。悪ぃけどさ」
「ヘッ、俺だって好きなんかじゃねえ。ガッコのベンキョーなんざクソッタレだ」
「………じゃあ、なんで…あいつら」
「行きゃあ分かる、っつーことよ」
 早乙女が全てを語ることはない以上、行ってみなければ分からないのだということだけは分かった。勉強は苦手だが英虎は肩を貸してもらいながら教室へとの道のりを急いだ。道の途中、すでに彼らに力を貸さんとする生徒たちも出てきた。それほどまでに大事な、聞きたい授業があるのだという。それはおかしなことだ。ガラリと先導する生徒が教室のドアを開けると、ワッと教室じゅうが湧いた。英虎はそのなかで席に着く。
「うーし、時間の許す限り特別授業すっぞー」
 英虎は眠いと感じていた。横目に男鹿がいた。男鹿も眠たそうにひじをついてうつらうつらしていたが、教室が沸くと迷惑そうにあくびをしている。その隣で古市が目を輝かせている。
「今日の授業は、子供の作り方に関する授業。さっきいったとおりだな」
 ───そういうことか。英虎は眠さに閉じつつある頭のなかで笑った。どうりで、こいつらが食いつくわけだ。だが、それすら英虎にとっては眠さを妨げるなにかにはならないのだった。彼は眠くて、そのまんま机に突っ伏して微睡んでいった。


17.09.07

お久しぶりでございます。
受け虎の文章描きたいなーって思いながらも、文ではいやだなと思って、受けとか攻めとかそういうの関係ない、エロ要素もない文にしてみました。
ま、深読みすれば「えっろ!」と思うかも(東条のセリフだとか)。

ま、東条受け派なんでw Pixivのほうでご開帳禅虎マンガもちょぃと描きましたからね。そんなんで虎は受けが望ましい。
文で彼を描くのははっきりいうと難しいというか、中身がないのでアクションマンガにすべきだと私的には思っております。
そんな東条へのかわいらしさをウガァーーとなんとか文にしてみた次第。ちなみに、しずとらがオススメwww


私ごとではありますが。。今日、液晶タブレットが届きましてまあ足りないものもありまして、それ届いてから液タブで漫画作品なんかも今までよりゆるくかけるようになるかなぁと思ってまして。…慣れてまじで描きやすくてすいすいだったのなら、漫画作品をPixivでやっていきたいと思っています。使ってみんとわからんけどね。

そういう想いも込めて、サイト更新をしますよっ。

2017/09/07 21:41:01