男鹿はその感動にも似た、やらしいうごめきについて言葉にすることはできず、言葉はそれだけにとどまったけれど、言葉など必要ないことなど明らかである。男鹿は孔に触れながらも己の身を、葵の奥へと推し進めていった。ゆっくり、ゆっくりと。欲しくて堪らなかったみたいに、ぬろり、ぬろりと粘膜と粘液が男鹿の自身を押し進めていった。それだけで気持ちいいだなんて反則だ、と男鹿はいつだって葵とつながるときに想う。鼻息で声を抑える。ふ、ふ、ふ、と、息をする。声が漏れたりしないよう。
 ぐちゅ、くちゅり。
と、音は耳に聞こえたような、聞こえなかったような。ただ、入れたそこはちゃぁあんとぬらつきながら、感触が包み込むように伝えてくる。片方の足しか抱え込んでいなかったが、もう一方の足をも男鹿は抱え込んで、奥へ、奥へと己を男鹿は突き進めていった。音がどうだとか、そんなことは気にもならなかったし、耳にも届かない。ずぐり、ずぐりと奥へと進んでいく心地よさ。それは葵の身体も同じように感じているのは、くたりとしたその身を感じれば見ることすらなくとも明らか。ぐず、ぐず、とゆぅっくりと入っていく男鹿自身は、葵のソコの入口とぴったりとくっついて、それは上手いこと離れたくないといっているみたいだ。最後に(というのは、これからの男鹿の動きを暗に示しているわけだが)、ピストン運動をするとぴったり感はなくなっていくわけではあるが、性器が性器のなかで擦れあうのはとても気持ちよく官能的なもので。葵もまたそれを待って、待ち焦がれていた、というのが事実に相違ない。だからこそ、彼女は内奥に入り込む男鹿自身を、いざなうようにかぱりと包み込む程度に開け、奥まりから腰を引いたところにはまた逆に、身をもって食らいつくように締めつけ逃げ出せぬように、それは葵が意識して行った蠕動などではなく、快楽と快楽とのぶつかり合いに他ならない。濡れそぼったそこかしこから淫らに音を響かせ、一緒に互いの肌と肌が(それは男女のそれのみに、うるさいほど鳴るものらしい)ぶつかる水っぽさを含む破裂音と、男鹿と葵との荒くなっていくばかりで全く落ち着かない呼吸音とが、辺りの音を埋め尽くす。やがてそれは堪え切れない吐息まじりの声となって、かすかに互いの耳を刺激し合う。男鹿が、葵が、どちらかがどのようにか動くたびに、それに合わせて鳴る音のようなもの。まるで呼応しあう必要なものでもあるかのように。
 男鹿はこれまで感じたのことのない、強い征服欲を感じていた。理由など分からない。今日という日だからかもしれなかった。ただ、今この場で葵の身も、こころも、すべてを支配し尽くしたい。それは結婚式という形式ばったものを経て、たしかに邦枝葵が妻となったということを感じたからかもしれなかった。確実な理由などというものは分からないが、今このときに両腕で抱き締めて彼女を支配しなければ、それは嘘だと強く思った。男鹿は葵の身体の芯とつながり、激しく貫きながら熱っぽい頭のなかどこか冷静に彼女の火照り切った身体の向きをさらにぐりっと回し(結合したままの回転は、彼女の内奥をたしかにえぐって、それは強い刺激となった。葵は悲鳴にも似た喘ぎで応えた。)、両脚を男鹿の肩に抱え上げながらもっと奥へとその身を穿ち貫く。その動きに汗が迸った。葵もまた同じで、どちらの体液なのか、すべて分からなくなった。つながっていれば、もしかしたら同じなのかもしれない、そう感じるほどに。葵の最奥を貫きながら男鹿は、ゆするように小刻みに動きながら葵の身体に覆い被さるように上になった。その顔は真剣そのもの。目は血走ってはいないものの、欲とこれからのラストスパートに向けて爛々と輝いており、その身は火照って肩で息をしていた。そんな真剣そのものの顔をした男鹿が堪らなくむず痒いような、ぎゅうっと抱きしめたくなるような、その顔だけで胸が苦しくなるほどにさまざまな思いが、葵の胸を熱を保ったまま駆け巡る。それらがごちゃごちゃないまぜになって、ただただ懸命にその手を伸ばして口づけた。こうしたくて堪らなかった。
「…っ?! あぁ、んやぁっ!」
 急に葵の絶叫に近い声が響く。それは男鹿が口を吸いながら葵の下腹部をまさぐり、すぐに欲を含んでぽってりと腫れ、まるでちいさな小さな男の性器のような肉芽をやわらかく、触れるか触れないかのギリギリの感じで触れる。それは焦れったい快感なんかじゃない。触れるか触れないかの距離でさえ、全身に微量の電気が走るかのような感覚に、思いもよらない声が洩れてしまうものだから、なんとか逃れたいと思って腰を動かすと、そこからは気持ち良すぎる地獄にちかい天国だ。指でつまんだりしてしまうと、それは強すぎる刺激となってすぐに葵は気をやってしまうだろう。だからこうして触るか触らないか、ギリギリの線を保ってわずかに触れるだけに留める。それはわざとだった。葵の身体をイイトコロをすべて知り尽くした男鹿が選んだ今夜の責め方だった。ゆるく動きながら、すこしだけ直に触れると、そこから電撃が走ったかのように葵は背中を仰け反らせ、ひ、と喉から出た高い声を洩らした。それは当人には嫌だったので、慌てて葵は顔を布団に向け突っ伏した。恥ずかしい、そう思ってしまうことがふたたび甘やかな痺れにつながることをも知って、なお。触れた男鹿の指の2本ほどはすでにびしょびしょに濡れていた。色のない液は粘りを帯びて、男鹿の指に絡みついてそう簡単には離れはしない。そんななか、葵の身体からふぅっと力が抜けたタイミングで、男鹿はまたその尖った肉芽を軽く触った。そこから手を離すと、離さないで、というように粘り気のつよい液体が糸を引いて男鹿の指を悦んだ。…ように見えた。葵の喘ぎが切なく、だが、長く辺りに響く。また葵はビクビクと達したらしく、足の指がヒクついて、やがて、太ももに力が入り、すぐに抜けてくたりとなった。呼吸ははふはふ、と乱れきって通常から比べればままならない、そんな状況。その身からは熱とともに、それだけでははけきれない汗が噴き出すように肌の上を水気が舞っている。スポーツをしたあとであるかのように。それと同時に、キュゥウと葵の膣は奥から表側まで一律に、彼自身をつよく締めあげる。奥まったところはひくりひくりと蠢いて、男鹿の敏感な先端をやさしく包み込みつつ責めてくるその動き。身体とカラダとの相性がきっと最高なのだろうと思う所以だ。キュウキュウと達したのちに締めつけるなかに自身を置いたまま、男鹿はまったく余裕のない葵の姿を見下ろしながら、逆に自分だけは驚くほど冷静に彼女のあられもない姿をカッカと熱に浮かされた頭のなか(それだけに、あまりあてにはならないだろうな、と男鹿自身も思うのだが)、見下ろしながらに腰をゆっくりと動かしだした。今までわざとあまり動かさなかったその腰を。それは今の葵にとってはツライと感じるほどの快感だと分かりながら。
 男鹿はいつだって思っている。葵のなかに入るたびに、そのなかで穿つたびに。いつだって「もっと、もっと」とつよく願う。それは、もっと激しくということではなく、もっともっと奥へおくへ。そればかりが男鹿の脳内を占める。頭のなかも身体も、ぐずぐずになりながらも、奥に行きたがるのは男のさがなのかもしれなかった。自身の付け根に近いところまで入っているのに、そこはまだ余裕があるみたいに男鹿の全てを受け入れていて、子宮がどんな形をしていて、そこに当たればどんなふうに良いのかなど、エロ本でしか語られないことを願ってしまうのは男ならではというものだろう。もっと奥へと、男鹿は穿つ。それに応じて葵は声を上げて応える。なにか小さな動き一つにとっても、わざとじゃなく、だがいちいち応える、それが性交と呼ばれる営みなのかもしれない。足のつま先から脳までを侵食する、麻薬にも似た心地よさに男鹿と葵はこうしていつだって溺れていく。
 ほんとうは結婚初夜じゃなくても構わなかった。だが、理由が欲しかった。どんなに奥まで穿ったとしても、離れない契約のようなものが。きっとそれが、今の男鹿の心のうちでは結婚式が終わったという事実なのだろうし、それを受け入れる葵の存在があるのだろう。揺さぶられながらいつだって葵は男鹿の行為を赦して、受け止めて感じているのだから。男鹿は葵のなかで締めつけられ、包まれてその心地よさに彼もまた身悶える。腰を激しく押し突きたい思いを堪えつつ、ふたたび肉芽を弄った。いやだ、と思ってもないことを葵が半泣きになりながら口走る。
「なんで…、こんなぁっ、いやぁあああぁっ」
 また葵がくたりと身体の力を抜く。イッたらしい。なかが激しく吸いつくように男鹿のモノを絡めて離さないで締め上げる。だが抜けぬほどではない。これはきっと葵のなかが男鹿の形にピタリとなっているからなのだろう、と勝手に男鹿は思うことにしている。それほどに葵と男鹿との身体の相性はいいのだ。他の誰かとこんな恥ずかしいことをしたことのない葵にはまったくもって分からないことなのだが(むろん、勝手に男鹿が思っているだけであるということに他ならない)。そんな男鹿の思いは行動に表れるわけもなく、葵の身体の敏感な中心を指で弱く押しつぶすように小刻みに動かし、さらに高みへと誘う。葵にとって弱いところをいじられることは嫌なことではないが、浅ましく腰が踊るように動くのを止められない。そんな自分のことを、ふと正気に戻ったときに感じることが嫌で堪らない。悲鳴に似た喘ぎを洩らしながら葵の足は瞬間、ピンと張って力を漲らせたが、すぐにぐたっと身をこぼすかのように力を抜き切ってしまう。それと同時に葵のなかは今までより弛緩する。それは男鹿にとっての快感に他ならない。男鹿は今まで我慢していたが、そのこと切れたような彼女のなかで自身をいいように擦りつけ、突いて彼もまた何度か腰を往復させると、まるで電撃が走ったかのようにぴたりと動きを止め、すぐに脱力した。声だってあられもなく「イク、でるっ、…あぁっ、イクっ」などと出していた。それを聞いたのは葵だけだ。今までの性行為とも違う、どこか深さを感じるその行為は男の理性とか矜持とかいうものでは収まらない範疇にあるものであるし、いいかたは悪いがすべてを支配しきったかのような、征服欲を満たされたかのような、心の奥のおくからのじゅわりじゅわりと広がっていくかのような感覚と、避妊という薄皮一枚隔てて、二人は達しあった。奥へと届かない男鹿からの子種が、葵にとってはひどく愛おしくて、狂おしいほどに欲しいと願ってしまう瞬間。いつだってもっと、と思っていたけれど、いつだってそれは叶わない。二人がともにベッドに身を横たえ、ピロートークを口にするまえに眠りに入りこんでいくその姿は、野生の動物のように鋭くも、どこか間が抜けていてあたたかい。いつしか互いの呼吸は粗いものから、通常の流れるようにそこにあるものへと変化し、やがて寝息へと変わってゆく。
 そんな激しくもあたたかな夜が、男鹿夫婦の初めての夜が更けていく。相手を慈しむことばすらないままに、ただ貪りあって。

 そんな様が、深海によく似ている。浮かび上がるには遠く、しかし近いと思わせるような朝の光にも似た、遥か上空からの光は見えている状況。だからこそ水面は近いのだと勝手に勘違いするのだ。ここが深くふかい海の底であったとしても、そうとは思えないカモフラージュを施して。苦しいとは感じない深海にて、男鹿と葵は結ばれながら沈んでいく。そう、苦しいと感じないうちなら深海は、いくら沈んでも桃源郷と変わりはしない。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ───後日談

 男鹿は古市と仕事帰りに飲んでいた。古市のリーマン姿も見慣れたものだ。こうしてたまに居酒屋で待ち合わせることもある。酒に弱いのは古市のほうで、たまにぐでんぐでんになって男鹿が送ることもある。今日もそうなるのかもしれない。否、それはない。そう思ったのは、男鹿の酒のまわりがいつもより早いと古市が感じたそのときだった。頬杖をついて話をする男鹿の姿は、そう見たことがなかった。そう、高校生時代の、ベル坊がいたときの疲れた表情の男鹿のことを思い出す。それを思うと古市は笑みがこぼれてしまう。それほど、男鹿は感情の波が分かりにくいやつなのである。
「疲れてんのか。……新婚のくせに」
 それは古市めいいっぱいの皮肉だった。もちろん、男鹿と葵が結婚したことについてずぅっと推してきたわけなのだから、この程度で済んだわけだが。
「おまえが、しょや、は大事だって、いうから」
 男鹿は子どもがぐずるみたいに古市に向けて本音をもらす。こんなことをいえるのも古市だからに他ならない。けれども古市としても、旧友だからといって、聞いていられることといられないことはある。きっと、ノロケになるのだということが分かって、それでも頼るところのない子どもみたいなまっすぐな目を向けられたらそれは、どうすればよいのだろう? 抗うべきなのか、それとも───
「オレは、しっぱい、したんかなぁ……?」
 その夜、赤裸々に男鹿と葵とのセックスの模様を聞いたわけではない。だが、どうやらたどたどしい言葉の裏にある、男としての失敗について聞いてしまうと、それは男鹿とともに申し訳ないような気持ちにもなるし、結婚初夜というものの大切さについて以前に説いた古市自身の軽率さについても、思うところが出てくる。なによりも葵に悪いような気になった。一緒に謝ろうといわれたら謝ってもいいと思えるくらいには。
 簡単にいうと、男鹿は初夜からというもの、葵との夜の生活がないらしい。ちなみに三十路のこの男鹿辰巳という男、きっかり溜まってますという自覚があるらしい。古市は独身で現在恋人もいないという立場のため、そんなこんなを聞けばウラヤマーと思う以上でも以下でもないことに変わりはないのだが。もっとよく聞けば、今までにないようなことを、ノリでしてしまいました、ということらしい(もちろん、その内容は聞いてみたけれども、男鹿だって、あの男鹿であっても、羞恥心はある。そのため、教えてはもらえなかった)。それは古市にとっては想像するしかないのだが、なんとまぁウラヤマーな話であるか。それ、めっちゃ愛し合ってますやん? で、ちょぃと行き過ぎたから、激おこぷんぷん丸で葵は一時的に無視してるだけでしょ? といいたくてしかたがなかった。大人の対応(?)としていわなかったけれど、そんな乙女心を古市は(独身ながらも)理解していたのであった(ウゥン、悲しい&虚しい。……?)。
「ハッキリ、言うが………。俺が思うには、」
 そう前置きをして古市は思いの丈を口にする。
「恥ずかし、かった。…それだけじゃ、ねぇの? さっきおまえがいったことまとめてみると、いつもと違かったワケ、だろ?」
 どこがどう、どんなふうに違かったのかが気になるところではあるが、さすがの男鹿としてもそれを古市相手だからといって赤裸々に語るほどアホではないし、恥じらいというものはある。そんななか古市の言葉には、男鹿としても思い当たる節は、当然あった。すこし強引にやりすぎたかな、だとか。そういうものを考えると古市の胸には嫉妬と呼ぶには弱いけれど、それに似たふつふつとした悪どい思いが自分には(しかも、その相手方が腐れ縁で小学校に転校してからのつながりがまったく途絶えることなく続いている男鹿というヤツへ向けてのものだったのだから)あった。
「違うのがマズかっただとか、そういうことじゃなくて。おまえ、マジでなにしたワケ? 初夜からそれってあり得ねーっしょ」
 男鹿は困ったような、迷っているかのような顔をしてしばらくの間、止まった。顔色が変わった。明らかに男鹿は顔色を悪くした。こんな男鹿の姿を見たことなんてない。古市としてもさすがにその対応に困惑する。
「……謝れば、いいかな…」
 自信のない、しかも新婚の男鹿はあまりにも情けなかった。いじくり回す気もなくなり、真摯に答えなければならないような気になってきた。自分たちとは違う、女性というものを扱うことについて、実は男鹿は慣れているのではないか。そう内心、古市は思う。うまく気遣いができるのではないか、と。なぜならばそれは、男鹿の姉に対する態度を見れば誰もがわかる。むろん姉の美咲にするように気遣いマックスで葵にいるわけではない。反対に、葵に対する男鹿のほうが、本来の男鹿に近いのは葵に対するものだろう、と古市は感じている(というのも、古市に対する男鹿はいつもドS全開だからである)。そんな男鹿が我を忘れて彼女を、葵を抱いたのだろうと思うと、それは嫉妬に近い煮え立つ気持ちに瞬間、襲われる。だが、そういうことではないのだ。男鹿は葵にはじめて、一人の男として、そして旦那として向き合おうとしていることが伝わるから。だから、軽々しく茶化すことなんて、できない。そう古市はふとした瞬間に思ってしまった。身を震わせるほどに、かたく。
「そうだよ。よく、分かってんじゃねぇか……。嫁さんに、謝るんだよ」
 男鹿は分かっていないわけではない。ただ、自信がなくてなにも決められない、そんな男鹿を見るのは今まで一緒にいて初めてだっから、だからこそ、応援してやりたくなるものなのだ。そんな気持ちになったことも初めてだったけれど。男鹿はそんな古市の気も知らず、「…ああ」とだけ短く。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 古市に、とある夜に電話がかかってきた。着信は『男鹿』。あのとき以来の連絡だった。男鹿は葵とヨリを戻した、というか、仲が元に戻ったのだろうか。そう思いながら仕事が終わってから折り返し電話をかけた。


 その内容は、ちゃあんと『仲直りした』とのことだった。ついでに、男鹿のノロケに近いなにかが語られ、腹が立ち始めたことは事実。古市はやるせない気持ちになって仕方ない。電話を早めに切ってため息をつく。
「…ちっっっ、くしょー……」
 ほんの小さくぼやいた。それすら虚しい。顔だって悪くない、女の子へ対する心遣いの細やかさなどは男鹿と自分を比べるのも馬鹿馬鹿しいほど。それなのに、古市にはまだよき出会いがない。間もなく三十代に突入してしまう。男鹿と葵との仲直りは嬉しくないわけじゃない。だが、手放しで喜べるほどに古市は満たされていないのだった。ため息ばかりが空に吐き出され、やがて、溶けて消えていった。今までの男鹿から受けた不当な暴力や、迷惑行為の数々。そして、助けられた数々の場面についても。つまり、嫌なことも沢山あったけれど、いいことも沢山あった。
 唐突に電話の着信で現実に引き戻される。不意打ちを食らったようで古市は電話を落としかけながらもなんとか下方でキャッチして電話に出る。

「──邦、葵先輩」
 まだ苗字で呼びそうになる。慣れない呼び方はつまずいて転ぶ直前の、心許なくふらつく足元のようだ。夫婦で電話をよこすとは、ノロケもここまでくればご立派である。そう思ったとき、
「古市くん、ありがとね」
「なんっすか、藪から棒に」
「彼、謝ってくれたの。悪かった、って。で、話聞いたら古市くんがいってくれたんだ、って」
 う〜わ〜〜、やっぱりそういう電話か。古市は瞬時に頭を抱えた。両方からノロケを聞くほど痛々しい展開はないだろう。そして自分の恋人は今現在悲しいかな、右手なのだ。悔しさを破り捨てるように古市はわざと明るい声を出す。三十路手前とは思えないくらい爽やかを装って。
「あいつとは腐れ縁っすから。ほっとけないってーか」
「うん。ほんとに、私からもなかなか声掛けづらくなっちゃってたから、ありがとう。お陰でいまはふつうだよ、私たち」
「ならよかった」
 少しだけ他愛のない話をしてから葵との通話を切った。人妻であろうとも、古市は女性に対してはいけずな態度はとらないと決めているのだ。だが、古市の心の切り替えは早かった。さっきの晴れやかな葵の声を思い出しながら、葵をオカズに右手をシュッシュと動かす気満々(ココロは男鹿の目にも触れないことは分かっているから。また、過去にそれをしたことがないわけではないことを、ここに古市は告白せざるを得ない)で帰路に着いたのだった。


2017.05.18

かなり前から書いていたものになります。男鹿と葵との結婚後、結婚初夜の話です。
(可能ならば『君にスキだらけ』に載せてあるものも読んで頂きたいです。その話のなかのものになりますね、内容としては)
今回はいろいろと規制を自分にかけて書いていました。主な規制としては、『(内容として)えっちが主』『ペニス、ヴァギナみたいな横文字使わない』『ヤラシくみえるよう描写を細かくする』このへんです。
しかし、まどろっこしい文章になっているのは実は罪と罰を読んだせい(翻訳文がほんとうにまどろっこしい)です。こねくり回す文章がなんとなく気持ちよかっただけですw すみませww
あとは『喘ぎ声などは割と、いつもよりはいれましょう』というのもありました。色っぽい感じがしたらいいなぁと思ったけど、なかなか…
だからこそ、わざわざ分かりやすい言葉(ペニスとかそういうやつね)を使わないという規制を設けたんです。エロくなるかな、と思って。でも、意味がわかりにくくなってダメだったかも知んないです………うーん、またえろいの書いてなんとか練習するかな…
(書きたいネタは何個もあるし、終わってないシリーズもあるので。)

あと今回は、初めて男鹿が葵ちゃんのお尻を責める話でもあります(説明不足は分かっていますが、そんなことをするからこそ、最後のオチに繋がるのです。念のためココで解説ぅ)。これは番外編である男鹿ヒルと、ある意味では対(つい)であり、終(つい)であったと思って書いてました。興味がある方は男鹿ヒル話見てみて頂ければ、と(ちなみに、これはほぼ最初から考えてた落とし所でした)。
えー、私の描写がヘタうんこで、もしかすると伝わってるかどうか分かりませんが、お尻にはちんちん入れてません。だいじなことなので二回いいます、ケツにチンコいれてません。
……アホかぃ。

最後に。後日談はかなりの意味で、蛇足です。それでも4千文字くらい書いてるんだから、古市使いやすいw