※ ED到達後とか、ネタバレ含みます

閉ざされる未来、遠い過去。


ノクティスside

 過去を何度練り歩いたって、カッコ悪く足掻いたって、泣き喚いたって、どんなに強い武器を手に入れたって、未来はいつだって同じ。聖石のなかで包まれながら時を越す。最後には歴代王の力をすべて手に入れ、それによって身を打たれ焦がされ射抜かれ、その衝撃を解放して国を、否、星を救う。そのとき現王はもうこの世にはいない。それまでは空だって飛べるのに。



イリスside

【ノクティス国王】がルシスを後にしてしばらく経った。彼らが無事にオルティシエに着いたことはラジオが何度も告げていた。首脳会談がどうだとかいっているが、ただの一般市民であるイリスにはよく分からないことだ。分かるのは、ノクティスがほんとうに手の届かないところにいってしまった、ということだけだ。胸の奥が痛む。幼い頃から、この痛みと付き合ってきたから、少しだけなつかしい痛みだと思うけれど、辛くないわけもない。イリスはベッドのなかで独り、声を出さずに生ぬるい苦水をシーツに吸い込ませた。運命という言葉が恨めしい。手を伸ばせば届く距離なのに、いつだって彼はその距離を詰めてはこなかった。いつだって、彼は婚約者の方ばかり見ていた。それすらも運命なのだろうか。ただ、側にいる。それだけのことさえも許されない。運命? 身分の違い? 婚約者の存在? ばからしい。この痛みだけがイリスにとっての本当のことなのだ。それだけが胸に残る、突き刺さる。



イグニスside

 幼い頃から次世代の国王──現王子であるノクティス──と共にあることを定められ、そして旅に向かうことになった。まさか数奇な運命に身をまかせることになるのだとはイグニス自身にもまた知る由もない。決まってからというもの、彼は賢明に文句もいわずただ黙々と、王子のために力をつけてきた。二つほど歳下の幼い弟のようで心配で、彼から目が離せなくなった。というのも理由の一つだが、単に、母性本能がつよいタイプだったのかもしれない。といってしまえば呆気ないだろうか。初めて会ったのその日から、グラディオラスが盾ならば、きっとイグニスは盾よりももっと包み込むような、そう、いってみればいわば障壁のようなものにでもなれればと、言葉にはせずとも胸の奥で祈っているのかもしれない。赦すことでのみ生まれる思いと、律することで生まれる思い。イグニスは前者を取った。そのときから命を捧げていたのだと思う。それなのに。
 それなのに、イグニスは暗闇の世界に落とされてしまった。これでは、守るべきものも、守りたいものも、守れない。加えて、見たいものも、見なければならないものも見えない。そんな思いに己の身を炎にでも焼かれてしまえと自暴自棄な思いに駆られるとき、イグニスは己を慰めるために過去へと想いを馳せる。
 それは過去の淡い恋というにも遠い。元よりそういう気持ちが薄かったせいもあるかもしれない。だが、そんなサッパリとした態度は計らずも異性からの注目の的であり、恋慕の矛先になっていった。むろん異性にまったく興味がないわけでもない。欲はあまりない方ではあるものの、まったくないわけではない。だから余程でなければ好意は受け取った。マセたガキとからかわれるかもしれない。イグニスが初めて恋人と呼べる女性とデートなるものをしたのは十三のときだった。好きと告げられたのはもう気づけば両の手では答えられない回数に達していて、そんななかでどうして初めて彼女の答えに首を縦に振る気になったのかもう記憶にない。彼女を好きと思ったことがないわけではない。ただ、初めて女性の胸のやわらかさに胸を突かれるような想いを感じたのは、その人が初めてのことだった。だが、抱き合ったりくちびると唇を静かに合わせるだけの、表面同士をわずかに触れ合わせるだけの、そんな恋だったのだろうと思う。
 恋とは関係のない日常にはいつもノクティスがいて、彼をひたすら見て、そして守り続けた。子どもらしい彼はどこから見ても頼りない弟のように映る。イグニスを追いかけて大きくなるその体は、どう足掻いても追い越されることはない。彼を守ることで身の危険を感じることはそう多くはない。けれどもルシス王の存在を思えばイグニスは自身を律していつでも鍛えておくことを怠らない。それはグラディオラスとて同じだ。だからいつしか恋は疎かになっていった。女もまたそれを感じ取り離れていく。寂しくはなかった。気づけば違う女性が彼の傍に寄り添いたいと言い、また離れていった。それを両手で数え始める頃には、彼の体には幼い頃にはなかったむだのない筋肉が薄く、しかし統率の取れた格好でバランスよく全身に乗っかっていた。彼女の前で初めてその肌を晒したとき、彼女は目を細めてうれしそうに微笑んだ。男の価値というものはきっとこんなものなのかもしれない。イグニスは彼女のちいさな手が彼の胸板や腹筋や腕や背中やらを撫でるとき、冷めた気持ちでその様を見ていた。この身は、今は彼女の手のなかにある。けれどもそれは生涯、手に入ることはないのだ。そう悟っているから。その微笑みは無意味なものだと、イグニスだけが知っていた。残酷かもしれない。だが、刹那のときはいつだって欲に溺れるものだ。女はそれを手に入れたと笑いながら身を差し出す。それを拒絶する理由なんてきっとない。
 過去のことがあやまちだったなんて思わない。それでも思わせてほしいと思う日もある。すこし感傷的になりすぎかもしれないけれど、それでも、暗闇だっていつか晴れるのだということを。だからイグニスはいつだって王の隣で前に進む。この役に立てないくだらない身をぶら下げて。



プロンプトside

 いろんな人が死んでいくのをただ見ているしかなかった。プロンプトは片手に王から託された魔法の小瓶を、片手には銃を携えてこれまでも、これからだって懸命に闘う。けれど、助けられない命というものがたくさんあることを身を以て知った。だからみんなと、仲間たちと一緒にこの闇を晴らすため、捨てられない過去を胸に抱き、ただひた走る。
「俺、ノクトと会えて、ほんとうに良かった」
 ノクティスは写真一枚を胸に抱いてただ頷く。今まできた道は平坦な道のりじゃなかったけれど、それでも、とても楽しかった。犠牲がなかったわけじゃないし、今まで倒してきたものたちが元は人間だったんだと思えばそれは、自分たちこそ地獄に落ちるのかもしれないと震えたこともあったけれど、ここまでなんとかやってきた。ただ、覆われた闇を晴らすために。シガイから助けるために。みんな王の凱旋を、唇を噛んで見送っている。ノクティスはこのまま死んでしまうのだろうか? それが俺たちが目指してきたことなんだろうか? きっと何度も自問自答してきたこと。プロンプトだけじゃなく、それはイグニスもグラディオラスも、ほかの人たちだって。こんなことのために、走ってきたわけじゃない。その思いがマックスに達したとき、見送ったはずのプロンプトは走り出していた。王座にいるはずの彼を想って。それを追いかけるイグニスとグラディオラス。
「ノクト!!」
 叫んだ声は殆ど涙声だった。泣くもんかと想っていても涙腺というのは簡単にいうことを聞いてくれないのが困ったもので。向かった先の王座にはなぜか彼はいない。汚れきった王座には塵があったのでそれを払うと、そこにはさっきまでいたであろう人の温もりが感じられた。眠っていてもいいのに、どうしてノクティスの姿が消えてしまったのか。温もりはときが経てば消えてゆく。だから、せめて最期の姿を目に焼き付けておきたかった。王座に手をついて、プロンプトは涙を流した。風に流されて飛んできたのだろう、どこかで見た花弁が椅子の周りにもわずか数枚落ちて枯れていた。きっとこの花弁はノクティスの最期を看取ったのだろう。
 風よ、彼のことを消さないでくれたまえ。



ルナフレーナside

 神凪とは、真の力を持つ王のために六神と話すことのできる巫女のこと。それは選ばれたものしかできない使命。神凪の力を持って森羅万象を司る神と対話ができればそれはただの人間の王が真の王により近づくための儀式を行える。それを円滑にするために、彼女もまた神凪として成長していかなくてはならない。それが彼女自身の命を縮めることになったとしても構わずルナフレーナは神凪の能力を使う。すべては真の王のために。彼女はまた同じように神凪なのだ。だからこそ人であることを、心では泣いても隠し続ける。幼い子どもらしいノクティスの姿が折れそうな心のなかで何度も呼び起こされる。あの人はすこし歳下の人。大人になったろうか。数えて20歳という年齢だったはずだ。オルティシエに王子一行がくると連絡を受けてから、ドキドキとかワクワクとかが止まらない。それを生まれたときからの付き人であるゲンティアナはいわずとも解って微笑で返してくる。
 きっと、私は神の力を受けさせるために命を落とすのだろう。過去の言い伝えと変わらないときがこれからも流れていくのだろう。分かっていても、それがムダだとは思わない。流れゆくときのなかで変わらなかったもの。それはきっと、必要だからなのだろう。
 不安はある。だがきっと大丈夫。ゲンティアナも頷いてくれている。ときに微笑んでくれている。ルナフレーナはその冷たい手を握った。なぜか、温かいなどと思ってしまった。



イリス・ゲンティアナside

「あなたは…?」
 長くつやつやとした黒髪をなびかせて、そこには美しいけれどその美しさはどこか人外じみた作りものような気がした。そんな失礼なことは当然、イリスといえど口に出すことはなく。
「神凪に仕えし十二支が一人、ゲンティアナ」
 話には聞いたことがある。その程度だ。この人が、こんなキレイな女性が六神の言葉を伝える役目を担っていたのだということを、そのときイリスは初めて知った。
「王が盾の親族にして、王の童心イリス・アミシティア。そなたの心、最期に叶えたいという強い想いが私を呼び寄せました」
 目が離せなかった。空気が冷え込んでいく。まるで、氷の世界みたいに。イリスは息を飲んだ。彼女は目を閉じたままだったというのに、急にカッと目を見開いて、気づけばキスしそうなほどに間近に迫っていた。呼吸が苦しいほどに、体ががちがちだ。イリスは緊張しきっていた。その目は闇に似ているくせに、光りを讃えて輝いている。その目からイリスは気づかぬうちにゲンティアナから目が離せなくなっていた。この目からは、きっと人間などでは逃れられないだろう。そんな確信が胸のどこかにあった。冷たくて、それしか感じられない体温のない呼吸がイリスの顔に、耳に、髪を揺らし、緩くかかる。
「そなたの、望みは何ですか?」
 イリスは先のゲンティアナの言葉を思い出す。最期の強い想い、それは誰の想いなのだろうか。きっと兄であるグラディオラスの想いなのだろう。妹思いの兄が、彼女の気持ちに感づいていないわけもない。ただ、デートごっこをした彼に向けての、秘めるべき思い。それを口にしてもよいのだろうか。イリスは息を飲んだ。こくり、喉が鳴る。その音だけが静寂のなかに響く。それはどこか滑稽だ。ゲンティアナは急かすこともしない。答えなど口にせずとも知っているのだろう。しばらく、間が空く。居心地の悪い間。ようやく開いた口からは掠れた声しか出なかった。
「ゲンティアナさん。一つ、聞いても良いですか?」
「ええ。答えは、二つ。思う通り、王の盾であるそなたの兄が。もう一つはかの王の想いが、そなたへと私をいざなったのです」
 イリスは目を見開いた。兄のことなら分かる。だが、王、というのは今となっては、ノクトのことではないのか。それがどんな意味を持つのか、彼は分かっているのだろうか。この淡くも激しく痛むほどの想いを、彼はあの天然な性格なので理解などはきっと、していないだろう。それがどんなに残酷な事柄を生むかもしれないということなど考えもせず、きっと彼はそんなことをいったのだろう。イリスはいたたまれなくなって、ゲンティアナから、そして己からも目をそらした。
「良いですか?」
 ゲンティアナの声はなんの感情も感じられない、冷たいもので、だからこそ本当の気持ちをいえるのだ、と勝手なことをイリスは感じた。だからといって重い口はそう簡単には開かないのだったが。声とともにゲンティアナ側へとゆっくりと目をやる。彼女はなにをも映さない闇と光りを併せ持った瞳で、まっすぐにイリスを見ていた。その目もやはり感情という色はない。そのまま口を開く。
「その願いで構わないのですね?」
 ゲンティアナの言葉に、イリスは慌てた。なにもいっていない。口に出さずとも彼女には伝わる。だからこそ焦った。
「そんなっ、でも、っムリ、でしょ?! それに……ノクトだって、」
「王は、分かっていてなお、そなたの願いを叶えたい、と想ったのです。そなたは決めるだけです」
 もう、首を横に振る理由など、なかった。イリスは、ちいさく、ほんのちいさくだが、首を縦に振って頷いてみせた。それを受けて、ゲンティアナもまたちいさく頷いてみせ、そして、いつしか彼女はその場から消えていた。まるで、夢だったかのように。イリスは何度も目をこすってみたり、辺りをうろついてあの黒い美女の姿を探してみたけれど、その姿はどこにも、この星のどこにもいないのではないか。そんなふうに思えた。また反面、こんな滑稽な姿を彼女はきっと、この星のどこかでみているのだろうな、そんな気もした。また、もう二度と彼女と会うことはないのだろうな、とも。
 きっとあれは、王と兄が呼んだ、やさしい夢なのだったのだろう。そんな気がした。



グラディオラスside

 王の盾として生きる運命を背負って生きてきた。それは幼い頃からの当たり前のことで、それについてはなんの疑問も持たずに生きてきた。だが、そんなグラディオラスの仕える王というのがあんまりヘタレで頼りない甘ちゃん王子だったもので、やりきれない思いを抱いた。こいつ、甘やかされすぎだろう?!
 この旅の途中、特にアタマが痛いだのいいだしたときにはどうしようかと思ったものだが、なぜだか六神であるタイタンと会ってからはそれをいわなくなったのが救いだ。だが、そのあとはイグニスが失明してからだ。迷いばかりで指輪もしないで、イグニスに声もかけもしないでただどうしようどうしよう、みたいな顔をしながら黙ったままで。そういう態度は狡い、そうグラディオラスは強く思った。
 この世のなかには逃げたくても逃げられない人なんて星の数ほどいる。それを知らなかった、だなんていわせない。それだけの旅を今までしてきたはずだ。いろんな人たちとの交流を含めた、すばらしい旅の終わりが近づいている。長きときをかけて、ようやくその旅は終わりを告げようとしている。
 髭を生やした汚れた横顔。あの情けなくて頼りない坊ちゃんがいるとは思えない。十年というときは人を変える。まとうオーラみたいなものでさえ。彼は今までどこでなにをしていたのだろう。きっと、それを語る口は持たないだろう。だから最期のキャンプに美味い飯をかっこみながら切り出した。
「覚えてるよな? イリスのこと」
「ああ。……元気でやってるか?」
 ノクトの表情を見て、分かった。この十年の彼女の痛みが、彼にも伝わっているのだということを。それが伝わるのだということは、彼は王でありまた人間でもあるのだということも。それをわかったうえで言葉にするのはひどく酷なことだろう。だが、イリスは大事な妹だ。叶えてやりたい気持ちもある。そして、それを認めたくない兄としての気持ちに向き合ったことも、ノクトのいなかったこの夜が長くなっていくルシスで、グラディオラスは長々と味わっていた。そのなかで自問自答してきたうえでの答えだ。
「お前が消えて、…しばらく泣いて暮らしていた。俺が見て、声がかけられないぐらいに、だ」
 ノクティスはそれを聞いて、辛そうに顔を歪めた。それを見て辛い気持ちになったのと同時に、グラディオラスは反面の気持ちなのだろうが、ざまあみろ、とも同時に思ったのだった。そんな気持ちに自身驚いていた。息を飲むほどに。そんなふうにノクティスを恨んでいたわけではないというのに、妹というフィルターを一枚被せれば彼もまた変わるのかもしれない。また、それと同時にこれから起こる『真の王』となったルシス王の顛末について思う。盾として生きてきた自分たち。その顛末は歴史書のどこにも描かれてはいない。そのことの不安、そして、これからどうして生きていけば良いのかという迷い。そんなことのすべてを感じ取って、彼はどう思うのか。それも考えたうえでノクティスに答えをいってほしい、と兄の立場としてグラディオラスは思っていた。叶わない願いが、一度でも叶うときがあっていいではないか、と。ノクティスを甘ちゃんと笑った自分など面影もない。
「わかってる」
 ノクティスはいった。否、いいきった。それをいわせたかったのは盾。いいたかったはずのない王は折れて。だが、その剣は折れることなどないから、人の部分以外、折れるところなんてない。だから彼は口にできた。まだ真の王なんかじゃないのだ。その王は頷いた。
「俺も叶えてやりたい、って思ってる。悲しい結末でも、グラディオが許すってぇんなら」
 そう、命がどこかへいった人と、残された人との思いの深さなんて、測れないでいるというのに。それでもグラディオラスは兄として、情にほだされるばかりだ。同じ気持ちだ、と告げた。その瞬間、ふと視線を合わせたところにゲンティアナが立っていた。


16.12.31

初、というにもおこがましい、途中のff15文です。
いろんな視点から書いてみたかった。えー、ちなみに、明日からクリア後やる予定w アルティマニア読んでわずかに補完してこれを書きました。すこし長いかな? ちなみに、もっと色っぽい話が二篇ほどあります。


意味がわからんなーって思ってました。クリア後は。そのうち二周めもやってみようかな。ちなみに、見た目で好きなのは竜騎士姉さん、グラディオですかね。
展開的には零式よりは置いてけぼり食ってないなぁと思ったり。慣れたんかな?w
ファブラ…シリーズは主役死んで終わりなのがパターンなので後味悪いっすねww

2016/12/31 23:59:59