※前にアップしていないものかと思うので載せます(もし書いてるヤツだったら勘違いなのでコッソリ教えてください…)。
※細かいことは気にするな!ワカチコワカチコぉ


それからというもの。時折アギエルは悪魔らしい目を男鹿に何度も向いた。その度に葵は止めに入ったものだが、こんな生活が長く続くことはないということを男鹿の言葉が物語ってくれた。それは、アギエルの姿の見えない時にぼそりと呟かれた。
「邦枝。アイツ、たまにスゲー鋭い目ぇしやがる。気ぃつけろよ」
それって。葵の頬は一気に赤く染まる。それって、心配されてるの?!何度も何度も葵自身の考えが木霊のように反芻して心配という言葉が頭から離れない。だが、それを男鹿に問うことなど到底できはしない。それに、聞いたところでどうにかなるというものでもない。
そんな他愛もないのにどことなくほっこりした時間はすぐに過ぎてゆく。近頃では聞き慣れた能天気に明るい声が葵を迎えた。
「ヤッホー♪」
上から顔が垂れてくる。まったく常識を無視した登場の仕方にも、何度か目にしてる間に慣れっこになってしまった。それでも肌の露出の多いその服装に溜息を吐きながら口にする。
「アギエル。あんた寒くないわけぇ?風邪ひくわよ」
「アタシは人間みたいにヤワじゃなぁ〜いの。心配してくれちゃってたりぃ〜?」
近い過去に葵が男鹿に聞きたいと思った、そんな言葉を何気なく口にする彼女の怖いものなしな態度がある意味羨ましいとさえ思う。葵は自分でわかっている。考え過ぎてしまう、構えてしまう、思ってしまう、失敗を恐れてしまう。だからきっと思ったことを言葉にできないのだろう。理由なんていとも簡単に分かるというのに、どうしてそれをなんとかできないのか。それはきっとムダな恐れが先行しているからに他ならない。
おどけるアギエルの言葉に答えない葵を見て、ふと思うことがある。ならば、意外にも風邪を引くことがあったなら?そんなことを思ってしまうのは意地悪な気持ちから、それだけじゃない。そんなことをひっそりとアギエルは考え出したのだった。



「まとめてやってくるってさ」
冷めた声でいつものようにアギエルは告げた。簡単に告げるにはあまりに残酷で生々しい話。悪魔の大群が人間界に降りて来る、そのことでさすがの男鹿ですら顔色を変えた。男鹿も葵も悪魔の力を持っていたけれど、本物の悪魔に匹敵するかどうかは分からない。まとまった悪魔ともなればさらに分からない。予測不能の出来事には身構えるしかできない二人の人間は、それを近く見ていたであろう彼女に目を向けざるを得ない。そして、教えを乞うしかない。人間とはひどくちっぽけで、微力な生き物である。男鹿は問う。
「勝てそうか?」
「…キツいかもねぇ」
口許を歪めながらいうアギエルの姿に、敵とか味方とかそんな目で見ていたこと自体があまりに愚かに思えてしまう。もし負けても笑いながら悪魔の方に帰ることができる。今こうやって葵たちに助太刀するのもあくまで一時の気まぐれと言ってしまえばそれまで、だったらどうやって彼女を信じれば良いというのか。葵は途方に暮れた気持ちでアギエルの冷たい視線を見返した。そんな思いの中、男鹿は単純に腕と首をこきこきと鳴らしながら、さも余裕そうに「じゃ、体あっためとくか」とだけ言った。こんな状況でも変わらない男鹿という男。
「ちょっと」
と唐突にアギエルは葵の肩を乱暴に掴んだ。いつの間にかすぐ隣にいた。どことなく声は怒りを含んでいる。理由は分からないが男鹿の態度が面白くなかったのかもしれない、と葵は思った。目が合ったアギエルに、
「アンタは剣を使うからアタシ、教えれること、あるかも」
そんなことを言われてしまえば無視なんてできるわけがない。悪魔から、魔の手から自分たち人間の生活を守る手立てになるのだろう、きっと。悪魔が悪魔たる理由など考えもしない。男鹿が気をつけろと言った言葉も、瞬時にきれいさっぱり吹き飛ぶ単純さったらない。
「教えて頂戴」
それは誰のため?
そんな顔をしてアギエルはまっすぐに葵を睨みつけてくる。
人間たち、私たちの未来のため。
そう答えようと思う。だが、アギエルの目があまりにまっすぐで、葵の心の中もすべて見透かしてしまいそうに思えたから目を逸らした。よこしまな思いだってもちろん、この悪魔の力を使うことには含まれているのだから。本当は人間一人なんて、自分勝手な生き物なのだから。堪らなくなって、男鹿から遠ざかりたくなって、葵はアギエルの手をガッと掴み部屋から強引に出る。
「やられるわけにいかないの。教えてくれる? 剣の、使い方」
「いいよっ☆」
目を見開いて、ああこれが悪魔なんだなという冷たい笑みで笑う。楽しいのか憎いのか分からない背筋も凍ってしまいそうな笑み。そして、静かなのに大振りな剣を抜く大胆な動き。そして始まった教えという名の手合わせ。格闘技でいえばスパーリングのようなもの。

剣を合わせたのは祖父以外はなかったし、何より真剣でのやりとりなどなかったから本当に刃は火花を散らすなどということは知らなかった。時代劇の中だけの大袈裟な演出が今この場で、冷たく激しい金属と金属がぶつかり合うような音と音の間に、パリ、と小さく摩擦の間から散る熱い火花。
大振りなアギエルの剣はとても重いけれど、それだけに所々にほころびとも呼べるスキがあって、それを狙うべく葵は防戦と牽制に徹する。キン、キン、と刃同士が当たる度に腕が重くなっていく。悪魔といえど疲れはないのだろうか? 否、ないはずはない。だがアギエルは楽しそうに腕を振りかぶる。そこに大振りならではのスキが生まれる。そして、
「っ……?!」
黒いもやのような手の形になった悪魔の力が葵の手を払う。強く握りしめていたはずの刀が宙に舞って、やがて教室の床の割れ目にさっくりと突き刺さった。だがアギエルの悪魔の力は葵を離そうとしない。ツカツカとにやついた彼女が葵の目の前に立つ。剣の切っ先を向けて。
「分かってんの? アンタ、これで一回死んだんだけどー。弱っ。ねぇ、アンタの弱点、ソイツはねぇ……バカ正直な攻撃しかしないってトコだかんね」
剣をしまいながら魔力を緩め、葵の身体を自由にしてくれる。アギエルの発した言葉を胸の中で何度か反芻し、そして気付く。弱点をわざわざ体を張ってまで教えてくれる彼女の優しさとも言うべきか、だが表情はいつもの飄々としたもので思いやりなど感じられないものだったけれど、きっと悪魔だけにそんなものを表すのは苦手なのだろう。同時に思う。彼女のことは仲間として信じねばならない。先に男鹿が言っていた心配は無用なのだと。
「…っ、ありがと」
負けられない。葵は得物をしまいながら強くかたくそう思った。アギエルはいつもの調子でヘン、と鼻を鳴らすだけだったが礼を言われて喜んでいることは明らかだった。



12.03.30

メールから出てきた文章です。
なんだ?アギエル×葵好きな私(もち今でも)はなにをかきたかったのだ?と思ったのだけど、たぶんアップしていないし、かきたいことも覚えていないので、中途だけどあげておきます。
ちなみに葵ちゃん関連で好きな百合は
千秋×葵
アギエル×葵
ヒルダ×葵
です。総受けなので、まぁ他のも出てくるかもね。ヒルヨル×葵とかレズレズしててエロ(強制終了

2015/07/20 19:52:06