ごめんねの使い間違い




休みの日、いつ?
 そう七海静から連絡が来たのは昨日の夜だったらしい。寝ぼけ眼で英虎が自分のケータイを開いたら、メールが来ていた。高校でバッタリ出くわしてからというもの、こうして春休みや夏休みや短めな秋休み、冬休みといった季節ごとの長い休みの期間には決まって連絡が来るようになった。
「チビどもの相手をしろってこったな……」
 欠伸をひとつ大きくのびながらして、英虎は自分のスケジュールを手帳で確認し始めた。最近はケータイでスケジュール確認をする人が増えたけれど、虎はそれには慣れない。毎年、小さい手帳を買うことにしている。バイトのシフトなどを忘れてしまうと後がたいへんだし、クビになってしまっては元も子もないからだ。基本的に英虎はオフの日を作らない。だが日雇い労働は最近数が減っているので、どうしても空く日にちが増えた。そろそろどこかに落ち着かないとまずいのかもしれない。過去に何十回か受けた就職面接では失笑され続けてきたので、受かることなんてないのではないかと英虎は思ってしまっている。やっぱり勉強不足なのだろうが、いいとこ土建屋にでもバイトから正社員になれればいいなと思いながら、働いている。空いている時のスケジュールを確認し、手短に送信した。部屋のカーテンを開けると、外には桜の花が舞っていた。あ、そうか。こんな時期だったっけ。英虎は今が春だということすら、日々に追われて忘れていたことに気づく。いつものことである。
「そーか、もうそんな時期だったのかあ」
 よっこらせと起き上がり、英虎は仕事へ向かうためいつもどおり支度を始めるのだった。返事が来るのを待っているわけじゃない。ただ、いつものワクワク感のない日々を、英虎は送るだけだ。働いてはたらいて。
4月10日。空けといて。花見にいこう。
 そう連絡が来ていたのは、その日の夜のことだった。英虎としてもその日空いていたので返事を返して、寝た。朝起きてからスケジュール帳に書いておいた。書いておかないと忘れてしまうからだ。花見。4月の10日。ちゃあんと書いておいた。


*****


 時が過ぎて、その日になった。
 けれど、その日に仕事なんてなかったのに、昼間には仕事が急に入ってしまった。慌てて英虎はわかった途端すぐに静に電話をした。それは必死な様子で。
「静! ごめん! まじで!!」
 急すぎて意味がわからない。まだ静は何もいってない。何か叫ぶ虎の声が耳にうるさい。だが、こんな時こそが何事もない平和な時なのだと、おかしいかな静は感じる。慌てた様子の虎を諌めようと、わざとやさしい声を出した。
「どうしたっていうのよ?虎」
「や、今日っ! 花見、っていってたのに……ごめんな。夜しか、空けらんねぇわ」
 受話器の向こうで拝んで深くふかく謝りながら頭を垂れている彼の様子が、静の脳裏にまざまざと浮かんできた。気持ちの通りに行動する、とても素直でまっすぐな人。それを思うと笑えてしまう。
「それでいいわよ、別に。じゃあ、今日の夜、言ってたとおり待ち合わせしようね」
「…えっ?」
 それは、静らと一緒に行く花見で、夜桜のことだなんて想像もしていなかったから、英虎は言葉を失った。最初から、静はただ一人、虎のことを誘っていたということに彼は気づくはずもない。妹弟たちと一緒だなんて誰がいったのか。勝手な思い違いに、デートの約束を色気ないものにしてしまえる東条英虎という男について、桜の下で見つめ合って語り合おうか。静は暗い桜の木の下でも映える色はどれだろうかと、その日のために着て行く服を選ぶことに時間を費やすのだった。


15.04.03

今日の仕事中にぽかーんと浮かんだ話を少しだけ短縮版でお伝えします。ちょー久々の虎×静です。

4/10って実は入学式とか終わってる時期なんですけど、大体この辺りだよなぁ程度で虎は分からないんです。実は終わってます。それでもいこうといったのは行きたいから。そういう意図があるんですが、分かりづらいでしょうか…。すみません。
だから、最初から夜桜でも昼間でもよかったのですよ、実は。そういうことを言わずに、虎の迷惑に、できるだけならないようにおねだりしてるところが静の健気なところです。伝わらんよなぁ…


ちなみに、この後にデートの後エッチしてもええですw
2015/04/03 23:10:06