※ 久我山の捏造ネタ
※ 申し訳ないけど、女のコな話



 久我山潮、小学一年生。恋をした。幼なじみ相手に。それが恋だと分かったのは、すこしだけ時間が経ってからのこと。
「潮。貴方は久我山家の長男として生きてゆくのよ」
 ハッキリと言い張った母親の顔を忘れられない。その時は七五三だった。五歳の時の話。ブレザーを着させられて、髪をカットされた。きのこみたいな頭は周りからは似合うと言われた。さらさらと流れる髪なのだから、どうせなら伸ばしたほうがいいのに、といったのは初恋の相手のことばだ。その相手というのが、幼なじみの姫川竜也という。母のことばを知らない姫川はシレッと言ってのけたのだ。二人でいつものようにゲームしたり話をしたりしているときに。
「くがやま。お前なんで髪、きったの? サラサラだったろ。長いほうが似合うのに。オレの先生のカキハタさんみたいな」
 カキハタさんという先生のことは知らなかったが、彼がそんなふうに見てくれていたことに気づいて、どきりとした。もちろん特に意味なんてなかったのだけど。そのどきりとした自分の気持ちが、なんであるか分かるまでにかかった時間は約半年。もっともっとどきりとしたいと思って、落ち着かなくなった。どうしてどきりとしたんだろうと寝る前、何度もなんども考えた。寝返りも数え切れないほどうった。そんな眠れない夜が、小学一年の時にあったのだ。きっと、その辺の少女たちよりもずぅっと早かったのだろうと思う。きのこみたいになった髪を撫でながら、早く伸びるように祈った。鏡をチラと見ながら。時に、鏡をじっと見つめて。姫川はどうしてあんなことを言ったんだろうなどと思いながら。
 そんな日を送っていたら、姫川を意識しない日はなくなった。髪はまだ伸びないけれど、あれ以来、姫川は特にその髪型について何も言ってこなかったから、そこまで気にすることもなかったのかと思った。けれど、同時に過去のことばは久我山の胸のうちに蟠りみたいに残っていた。その気持ちが恋とか好きとかいうものだということに、気づいたのはさらに何年も後のことだ。しかし、姫川がある日からリーゼントにグラサン姿になったのにはおったまげた。彼の祖父が最強のリーゼント爺さんだということは遺影から知っていたが、それに憧れていたことは久我山もその時初めて知ったのだ。
「やっぱ、男はリーゼントだよな」
 鼻歌まじりに姫川は自分の髪に櫛を入れながら言う。ちなみにこの時、久我山はあまり似合っているとは思わなかった。むしろ、ちょっぴり残念だと思った。少女のようにキラキラと輝く瞳を隠してしまうグラサンに、流れるように伸びた髪の美しさに過去、眩しく目を細めたこともあったというのに。それが失われた彼は、どう見てもただの不良だった。しかも、財閥の息子とはお世辞にも思えない、安っぽい古代生物的な不良だ。というか、時代からして不良ということば自体が死語だろう。だが、姫川竜也はそれに常に焦がれていたのだった。そんなことが久我山にとっては別れの挨拶になるなどとは思ってもみなかった。

 リーゼント姿の姫川と久我山がつるむ姿は周りからは滑稽に映った。あまりいい噂は聞かなかったが、姫川が姫川財閥の子息であることは最強の武器だった。久我山の親たちだって、彼とつるむことに文句を言いはしない。いずれビジネスで手を組むことが分かっているためだろう。小学校も卒業が近づく小五の春。遅い初潮だった。腹が痛むと久我山専用のトイレに駆け込む。久我山には専用の個室が昔から備えられていた。だが、それは周りの者から見ても当然のようにあることだったので、羨望の眼差しこそ向けられてもイジメなどの対象になることはなかった。無論、女とバレないための親の配慮であるが、そんなことは誰も知りはしない。汚れた自分の下着に、来るべき時が来てしまったと便座に座り込みながら頭を抱えた。女として生きられない以上、男として生きるしかない。こんな腹痛などものともせずに生きていかなければならない。赤黒く染まる便器の中を見て、これは呪いだと思った。姫川を思う気持ちはもはやこの頃には具体的な想いとなって蟠っていた。燻るこの想いを伝えずにいるのは辛い。だが、伝えるわけにはいなかいのだった。男として生きることは楽しかったが、苦痛でもあった。
「こんなふうにならないなら、それでよかったのに…」
 汚れた下着を棄てて、新しい下着に履き替えた。すこしだけ泣いた。女の顔ができるのはこの狭い空間だけの夢まぼろしなのだ。

 それからというもの、月のものがある度に体調を崩す久我山は外へ出る回数が減った。下手をすれば露呈してしまう。だが、それは姫川との友情を深めるにはちょうど良かった。中学生の時期、二人はオンラインゲームにのめり込んだからだ。戦争の世界に足を踏み入れて、二人は世界ランカーたちに立ち向かった。チート潰しもやった。遊びが金になることを学んだ三年間。ゲームの中では女でも男でもどうでもよかった。ただ、一緒に仮想空間で駆けるのが楽しいのだ。この空間を長く味わいたくて、久我山から提案した。
「私たちでゲームを作ろう」
「…! おお、そりゃ、いいな」
 これで大当たりし、二人の財閥少年コンビの名前は世間に知れ渡ることになる。また、少年たち個人で大儲けに成功したのだ。日本の若者のトレンドにまで上り詰めたのである。だが、姫川・久我山コンビが高校一年の時にゲームのオンラインサービスの停止、法人会社をも畳むという驚きのニュースが世間を騒がせた。その隠れた理由が、姫川竜也の石矢魔高校編入である。久我山と一緒に楽しんだゲームであっても、彼の心を捉えておくことはできなかった。姫川は「飽きた」とは言わなかった。ただ、「やめる」と宣言したのみだ。
「どうして、君は急に……」
「どうして? ナメんな。この魂の髪型がしっくりくるトコに通いてぇ。理由なんてそれだけで充分だよ」
 そんなくだらない理由で──とはいっても、姫川にとっては神がかった理由であるのだが──、久我山は離れたくなかった。その思いがどれほど穢れていようとも、美しくあろうとも、どちらでも久我山にしてみれば変わりはない。ただ姫川といたいがために、母親に相談した。ずっと持ち続けた隠してきた女の部分について。好きな人と生涯を添い遂げられるのならば、それほどの女の幸せはないだろう。そんなことが言えるほどに彼女は早熟だったのだ。あの時の久我山の母の驚いた顔といったら! だが、すぐに了承してくれた。姫川ならばいい、と。それは薄汚れた大人の世界の顔を隠して。そして親を通じて姫川へと許嫁の話が伝えられた。

 あれから、久我山は姫川というかけがえのないパートナーを失った。あの日から、久我山潮という少年は孤独だった。学校の中を牛耳れば牛耳るほどに。あの時の姫川のことばが忘れられない。
「くがやま。お前なんで髪、きったの? サラサラだったろ。長いほうが似合うのに」
 髪はもう伸びていた。けれども彼は去りゆく。いつか会う近い未来のために、整えながらも長いまま、女の気持ちを隠して。


15.03.23

まとまってませんが、まとめ切れなくてとりあえずこのまんま投下します。久我山の男女間の葛藤についてちょっと書いてみた。
当初は久我山視点から姫川視点になるような展開を考えていましたが、思い出話のみにとどめてます。この辺も踏まえてひめかわ夫妻を読むと、……なにも変わらねぇかw。
もうすこし粘って書くべきだったかもしれません。エピソードはぽちぽちやってくかもしれないんで、こんな話読みたーい!みたいなのあれば教えてください。滾ったら…書く!!

あまり姫川と久我山は見ませんが、どう見ても公式アンカップルですw


べるぜ終わりましたが相変わらずべるぜ文を量産しておりますさとうでございます〜〜〜。。。
2015/03/23 12:48:53