※ ちょとだけえっち


 手を握る。これは由加がねだったことだ。なぜなら、不安みたいな幸せみたいな、よくわからない今まで感じたことのない気持ちでふにゃふにゃになっているから。このままじゃどこかにフワフワ浮かんで飛んでっちゃう。そんなわけないのはわかっているのだけれど、それでも、手を握ってここにいるよと示してくれたら、それだけであなたを感じられるし、一緒にいられるし、あったかいから。不安とはちょっと違う安心も心にあって、それでもどうなっちゃうんだろうとか、どうでもいいことを思うほどに由加は揺らいでいた。理由は簡単。手を握る彼がどう思ってるんだろうと思えばこそ。だって、好きだから。好きですきで、一緒に一夜を共にすることを選んだ。もちろん、後悔なんて皆無。
「こう、してれば…いいのか?」
「………うん」
 由加はあまり声を出せないでいる。彼は気遣ってくれてるのは分かっていた。身体がクタクタだった。好きな人と触れ合うことがこんなにたいへんだなんて生まれて初めて知った。そして、教えてくれた人がこの人でよかった、そう思った。握った手をぎゅっと握り返した。強めに。きっと彼は強いだなんて思わないだろうけれど。
「だいじょぶ、か?」
「……うん。あ、の、…」
 由加は謝罪の言葉を言おうとした。けれどそれは彼が身体を寄せてきて、やわく抱き締めるものだから最後まで発されることもなかった。手は握られたまま。同じ布団で一緒に寝ている。これほどに望んでやまなかったシチュエーションなどなかったのではないか。しかも、相手は好きですきで堪らない人なのだ。
「無理すんな」
 抱き寄せられながら、由加は幸せだった。人肌がポカポカとあたたかいのもあるし、彼の体温がうれしいのもあった。気だるい体に向けて眠気が一気に襲ってくる。もちろんそういう時間だし寝てもいいのだろうけど、一度彼の顔ぐらい確認したい。由加はそう思って顔を上げた。そこには、由加を見つめる心配そうな表情の神崎がいて。そんな顔をしないでほしいな、心配してくれるのはうれしいけど嫌かもな。と由加は感じた。きっと、こういう複雑でごちゃごちゃした、言葉にならない思いこそが、想う、ということなんだろう。そんなことを考えていたら、額に神崎の唇が一瞬だけ、チュッと当てられキスされたんだ、とわかる。あ、なんか、恥ずかしいようなむず痒いような、そんな気持ち。
「もう……………寝ろ」
 神崎の絞り出す、低い声が耳に心地よい。ああ、この瞬間がどれだけのしあわせ。このときをずっと待っていたし、ずっと追いかけても、望んでもいた。待ち望んだ瞬間ということなのだけれど、この気だるくて役に立たない身体はまどろみしか与えてくれない。疲れた、ねむい。そんなのばっかり。
 なぜなら、少し前、初めて由加と神崎は結ばれようとした。好き同士で付き合って、何もないのも当然おかしなもので、いつまでも奥手でなかなか踏み込めない神崎の背中を押したのが周りだとしても、それを望んでくれていたことは、彼女である由加にとっては空を飛ぶほどにうれしいことだ。星の数ほどに降り注ぐ神崎からの、甘くていつまでも吸っていたいキスの雨に浴びせられながら、それは大事でたまらないです、と言わんばかりのガラス細工に触れるような神崎からのアプローチに揺さぶられ、のっそりと事に進むのは結構な時間がかかっただろうと思う。由加にしてみれば、時計を見る余裕すらないから時間については全くわからないのだけれど、女の子から女性になる大事な儀式なんだろうな、きっと。その程度の想いで身をまかせるしかない。
 身体をやさしく静かにゆったりと触れていく、神崎の指先だったり舌先だったりする、神崎の一部がとてもいやらしい。そして、それがとてもうれしくてたまらない。どこかこの脳細胞が焼ききれてるんじゃないだろうかと思うほどに、由加はもっとしてほしいと願った。恥ずかしいのでそれをねだることは行動にも、当然、言動にもできないでいるのだけれど。
 気持ちいい。
 そう思うのは当たり前のことだと思っていた。けれど、事の始まりはまったくそんなことはなくて、ただ目の前で揺れる神崎の短い髪が愛おしい。それだけだった。その感覚に慣れてくると、ようやく身体はじんわりと熱っぽい感触を流し込んでくる。神崎の鼻息から出る声を聞くたびに、由加の身体の中心で燃え盛るような、今までに感じたことのない感覚がその身に垂れ流しになる。どうしてなのかは分からない。その感覚に身を任せていると、おかしな声がもれてしまいそうになる。あ、やだ。由加はそう感じる。だから、身を委ねきったその想いはそこで少しだけ砕ける。だが、気持ち良さは神崎から与えられ、身体を通して降ってくる。好きなの。
 そうして、くにゃくにゃと力の抜けきった身体に、何度も確認することも忘れずに神崎はゆっくりと押し入った。好きを体現できる、形ある生き物はきっとしあわせなんだ。やさしく、つよく、あたたかく。



「あ、あああああああっ! や、…やぁっ…、や、め…っ、痛、痛たたたたた、お願、っ…が、ぬ、いてっ…あ、あうっ、ぬいて…っ」
 それは、悲鳴だったのだろう。次の瞬間、由加の身体から抜き取られた神崎自身は、それでもすぐに「ごめん」と口にして。きっと自分も余裕なんてないだろうに。けれど、それ以上に由加は。

 そんなこともあって、由加は神崎に対して複雑な思いを抱いていた。好きなのに、どうして受け入れられない? それは、女としておかしいのかな? 無理してでも……でも。あまりにやさしい今の神崎の態度に甘えたくて仕方ない。お願いします、かみさま。今だけは信じまくるかみさまの存在、あまりにも調子がいいけれど、それでもまどろみの中、手を握りあいながら強く思った。好きなのは、変わらないの。今日のは、ごめんなさい。でも、嫌いにならないで。それを許してくれているみたいな、ポカポカな体温に由加は、やがて眠りに落ちていく。
 しあわせは、痛みを伴う中でもときにやさしくもはげしく訪れる。ずっと、これからも一緒にいたいと願うのは、由加だけじゃない。意識がある間、神崎はその握った手を離したくなくて、握り続けていたのだった。


手のひらのその温度



15.03.09

お題… u s

雨ちょー降ってます。やば。

この話は、まあ初エッチが「うまくいかなかった」という内容なんだけど、伝わるかなぁ…。つうかそんな同人小説があるか!!みたいなw

こういう内容は、なんかきらいじゃないので書いてしまいます。でも、夢をなくすのは事実だー!
はやく神崎とパー子のシリーズも終わらせねぇと…とか思いつつ、書けてません。神崎の気持ちとかは今回はやれんかった。そのへんも若干心残りだすな。。

2015/03/09 22:50:40