【2015リクエスト企画】


 あの楽しかった高校生活から十年あまり経った今日という日、同窓会でもないメンツで何となく一緒に過ごすことになった。理由なんてどうでもいい。ただ連絡先を知っていたというだけのことだ。その連絡先を知っている者同士が一緒にいるというだけの、ただそれだけのこと。別に仲が良かったわけじゃないのに、おかしくね?と笑った。別にバカにしてるわけじゃない。古市と男鹿がいるのは、この二人は昔から仲がいいなんてどちらも言わないけど、やっぱり周りから見れば特別な友達というヤツなんだろうという空気はあったから、この二人は分かるとして。あとのメンツはなんだかおかしなものだった。この辺りを仕切っている、裏の世界のなんちゃら神崎、その神崎と仲良くやっていたようだけど、今はそんなに深い関係もないらしい夏目と城山。表を牛耳っている財閥の姫川。東条はいなくて、東条の仲が良かった相沢と陣野。女連中は来ていない。声は掛けたらしいが、数が集まらず諦めたらしかった。まぁいいだろ、と姫川がどこか諦めたように言った。その直後に相沢が笑った。どこか憐れむような笑い方だった。
「忘れられない、とか言うなよな?」
 姫川の視線が冷たく相沢に突き刺さる。だが相沢は気にしていない様子で手をヒラヒラさせる。「結婚してんの、知ってるし」と続けた。姫川の怒りはその言葉で収まった。姫川の嫁の話など、陣野と相沢以外は知らなかったので、他メンバーはぎょっとした表情を浮かべた。その視線は姫川にとっては居心地の悪いものだったので、嫌そうに顔を背ける姫川の姿はどこか人間臭くて印象的だ。高校時代の彼には見せなかった姿のような印象だ。古市が当たり前のように聞いた。
「もしかして……、あの久我山さんと?」
 姫川は堪らず古市から目をそらした。答えようとしないところがまさに答えだと古市は思った。高校時代、姫川のことを惚れた男と評した、そして昔からの幼馴染みの久我山と姫川はやっぱり夫婦となった。きっと腹を割った者同士、結ばれたのは幸せなことだろうと思う。久我山はすごくキレイな顔をしている。姫川もまたそうだが、そんなことはどちらにとっても構いはしないのだろう。子供はこの様子ではいないらしい。姫川は相変わらず懐かしいメンツに顔向けをしようとはしない。そんなキレイな二人の子供なら見たいなあと古市が呟いた途端、姫川からパンチが飛んできた。男鹿にやられ慣れている古市はあまり痛みを感じなかった。そんな様子を周りのみんなが笑った。その中で夏目が話し始めた。特に意味なんかない話なんだけど、と彼は前置きをした。
「実はさぁ、俺と城ちゃん、神崎くんはなんか久々に会ったんだよねぇ。今年の頭に」
 と言うと、このプチ同窓会的な感じは懐かしくもないのかもしれない。でも姫川と会うのは久しいとも言った。その時の他愛もない話を夏目は始めた。それは本当にくだらなくて他愛ない話だったけれど、そのくだらなさはひどく懐かしくて愛おしい日々を思い出すものだった。古市は聞いていて何度か出てしまうため息を止めることができなかった。その内容というのが、以下のものである。
 神崎はまだ結婚していない。というか、神崎組の三人ともがまだ未婚のままで、それぞれに恋愛とかそんなものを経験してきたんだろうけど、その辺は詳しく話したわけじゃないし分からない。今回の話の内容についても関係ないからわかりようもない。何より男のそんなことに対して、男が興味持てるわけもなかった。それを茶化すように夏目が、久しい神崎の部屋のコミックが並ぶ本棚をぼんやりと見ながら聞いた。
「ねぇ神崎くん、エロ本ないのー?」
 そのふざけた話は城山の頭の中を混乱させた。別に、エロ本くらいどうっていうことはないのだけれど。神崎は少し考えてから「無ぇ」と短く答えた。照れている様子もない。高校時代の神崎だったなら、こんな他愛ないことで照れていたような気がした。城山は不思議に思った。神崎はエロ本がないらしい本棚を見やりながら、あぁそういえば、と思い出したように声を発した。「今思い出したんだけど、」また神崎が前置きした。神崎は、前のことを思い出していた。それは彼が車の免許を取り立ての頃の話だった。
 その時、神崎は二十歳くらいだった。車の免許を取るのに、そんな誰でも取れるものを取るのにこんなに苦労するなんて思わなかった。学科試験で落ちていた。実はかなりへこんでいた。学科試験の、試験用紙が読めないわけではなかった。意味が理解できない部分はそんなになかった。もちろんゼロではなかったけれど、だいたいの意味は分かっていたけれど落ちたという事実がそれを否定しているような気がして、神崎でさえも気落ちしていた。城山も夏目も、一発合格していたから余計に。だからこそ神崎はその時期、夏目にも城山にも連絡をしなかった。否、プライドがズタズタになりそうでできなかったのだ。その話を聞いて夏目は笑ったし、城山は曖昧な顔をした。本当は笑いたかったのかもしれないが、そんな話を聞かされて笑えるのは夏目だけだ。城山では無理だ。そんな様子はさておいて神崎の思い出話に戻る。三度目の正直、神崎は真面目に勉強して学科試験に挑んだ末、無事に学科試験を通過した。その時はさすがに夏目だってばかにしたようなことは言わなかった。「運転は上手いんだけどね」そう言っていたのを後から城山から聞いたけれど、神崎は悔しいと唇を噛んだだけだった。
 話は逸れたが、無事に車の運転免許を手にした神崎は、自分のためにと何かご褒美的なものがほしいと感じていた。二回も落ちたのだから、自分だけは自分を褒めてやろうと思っただけのことで、特に意味はなかった。その年齢になって初めて行ける場所に行ってみたいなどと思った。神崎は自分で車を運転し、前に店の様子を見て気になっていたそこへと車を走らせた。石矢魔の隠れた町の裏にあるアダルトショップ的なその店。二十歳になればそういうものは解禁になるので興味も湧くというものだ。好奇心を抑えきれず、ただ一人きりで自分へのご褒美を買いに行った。店の近くに車を停めることは簡単だったが、停めて出て行くことは容易ではない。誰かに見られたら、と思うと背中もゾクゾクと変な生き物が這っているような嫌な感じが拭えない。別におとなの店に行くことに躊躇いを感じる年齢ではないし、そもそも神崎は「老けてる」と言われているのも知っていた。タバコなど中学の時から買っても注意されなかった。兄や父のタバコだったのだけれど。それだけに、逆に思いは子供のままというか、子供らしいというか、そんな所が神崎にはあった。実際三十路を迎えようという歳に差し掛かった今でも、付き合ったことのある女の数は片手で数えられるくらいだった。同級生の姫川とは違って、結婚という言葉は程遠そうなままなのだし。数えるくらいの好きとか大好きとかそんな色恋沙汰も、まだまだ未熟な青春の1ページと笑われそうなものしかしたことがない。そんな神崎の十年ほど前の思い出話なのだ。おとなの店に足を踏み入れようと思ったはいいが、なかなか踏ん切りがつかなかった。思い切って足をいれることができたのは、その店の前に自分の所の姪っ子くらいの女の子が横切ろうとしたからだ。彼女に自分の顔を見られたくない!そう思ったからこそ、慌てて店の中へはいることができたのだった。どこまで情けない話なのか。今度は店に入ってからもまた情けない態度だった。いざと思ってきてみても、今度は目のやり場に困ってしまった。大人のおもちゃと呼ばれる器具みたいなもの、アダルトDVDの類。すべてが恥じらいに値するものだった。そういうものしかない店内のどこを見ればよいか分からずオタオタしていると、カウンターの人の気配がした。ごそり、と衣擦れの音。俺がここにいることを見られている。知られている。そのすべてが失敗したような気がした。何だか分からないが情けない気持ちで神崎はいっぱいだった。別のどこかに目をやると、そこには必ず女がいて、神崎に向けて笑いながら股を開いてくるのだ。そんなものなどTSUTAYA辺りのアダルトコーナーでも当たり前にあることだというのに、どうしてここまで狼狽えてしまったのか。後になった神崎は意味なんて分からないとぶつぶつ言っている。
「それ幾つだよ」
 相沢が躊躇無く笑った。それで機嫌を損ねるほどもう子供ではない。神崎はただ短く「うるせ」と言っただけだった。やっぱりエロとかそういう言葉のつくものと身内がリンクするなんて、どうしても考えられないのだ。姪の顔が頭に浮かんでは消えていく。まるで自分が悪いことをしているみたいだと思った。色のつくことが悪いだなんて誰が決めた? おかしな勘違いだと笑うしかない。だが、やはり身内を思えばそれは辛い。穴にも入りたい思いで神崎は店内を、チラチラと悪いものを見てしまったかのように見た。そのせいで頭に何も入って来ない。そして、大人のオモチャ系統のものなど不必要だったので見るつもりもない。また、店員の動く音と気配が、神崎の気持ちをさらに萎えさせる。だが、それでも諦めきれなかったのは、やはり初めてこういう店に入りました。というか、入れました。という自分への鼓舞もあったわけで、そこだけは褒めてやりたい、などと馬鹿なことを当時、神崎は思ったものなのであった。そして、何とか適当にパパッと嫌ではない女がお色気しているであろう本の表紙を目にして、片手で数えられる程度の数冊のエロ本を手にして、やはりごくりと一度はツバを飲み込んだものであったけれど、店員に見せぬわけにはいかなかったのでそれを持っていった。
 くだらない話と笑うだろうが、つまりはその本だけは要らぬと思いながらも取っておいたのだった。それは、神崎としても始めての体験を忘れたくない気持ちだったのだろうと思う。だが、二度と味わいたい気持ちでは無く、もうあんな店に足を踏み入れることなんて、生涯ないだろうと心の中だけで決め込むだけのことだった。その理由はあんまりにも幼すぎて笑うしかないのだが。それでも当事者の神崎は笑った相沢を無視した。お前のようなヨゴレじゃねえんだよ、そう、心の中で思っただけで、とりあえず許した。
「お前、遊んでたんじゃなかったっけ?」
 神崎は姫川にそう聞いた。高校時代、そういう印象があった。さっき相沢が言った意味も分かるが、それを結婚して落ち着いた今更になってとやかく問い詰める気にもならない。邦枝葵への淡い気持ちだとか、そんな随分前のことなどこの姫川という冷めた男が覚えているかどうかなんて、きっと上辺の言葉を混ぜこぜにされてしまったのなら神崎のような単純明快な男などに理解できるはずなんてないのだから。それを分かっているかのように姫川は表情を全く変えずに「かもなぁ」とやる気無く答えた。これは、嫁に惚れていますという照れ隠しという訳でもない。
「若いうち遊んでる方が結婚で落ち着く、とも言いますよね」
「そうそー、逆に結婚してから女に目覚めたりとかねぇ」
 城山と夏目で好き勝手なことを言っているが、姫川は華麗にそれをスルーした。そして話の矛先を別の人物へと向ける。相沢、陣野に近況を尋ねる。尋ねるというよりか、言わせる、と言った方が正しいかもしれない。しかも、ちゃんと二人とも結婚して、相沢には子どももいた。めでたく。パパじゃん、と夏目が言うと、お前はどうなんだよ、と姫川。神崎組は城山がゴールイン間近という話で、神崎と夏目はそんな話などまったくないのだという。
「意外ですね、夏目先輩モテるじゃないっすか」
「んー、彼女はいるよ? っていうか、フルチンと男鹿ちゃんはどうなのさ」
「フルチンて呼ぶんすかここで……」
 モブ市だの散々だった高校時代の呼び名がフラッシュバックして、古市は一人ヘコんだ。すぐに立ち直るのも古市が古市たる部分ではあるが。
「俺は、まぁ、いますよ。…一応」
「こいつの彼女、あれな、ラミア」
 さくっと言い切ったのは男鹿だ。古市は恥ずかしそうに微笑む。頭をかいているがみんなの目が宇宙人をみる目になっている。古市は両手を振って首まで振って、いや違うんです、そういうわけじゃなくて、でも、まあそういうことなんだけど、でも、と訳のわからないことばかり口をパクパクしていた。またロリコンだなんだといわれることを恐れているのだ。そしてみんなはそんな目をしている。
「今、あのガキはどんな感じ?」
 そう言ったのは意外にも神崎だった。そう、神崎は女性が、少女から女性へ変貌する姿をゆっくり見てきた数少ないオトナである。聞かれて、それでも言葉にできなくて古市はケータイを取りだしラミアの写メを見せる。本当のところ、自慢したいというのも心の中にはあるのだし。今のラミアは、昔──みんなと一緒だった、高校時代のあの頃──に比べればずいぶんと大人の女性になっていた。それはきっとこの写メを見せれば変わるところだ。胸も大きくなった。足も長くなった。髪も長くなった。女性らしく微笑むようになった。手も握ってくるようになった。わがままは相変わらずだけど、それはきっと女のこであればきっとそんなものなんだろう。メイクも気づけばどんどん上達する。そして施術もそうらしい。彼女はもう医者の卵だ。もしかしたら、古市の手の届く相手ではないのかもしれない。最近はそうも思うようになってきた。それがこの頃の古市の心の悩みだった。だが、親しい男鹿は相変わらずの恋とかの遠さも含め、相談相手にはならないのだった。
「こんな、感じっす」
 できるだけラブラブじゃない、自然な感じの写メを選んで。古市の差し出した液晶を覗くその面々の顔といったらない、目を見開いて驚きを示すのだ。それは例外なく。やはり神崎らは免疫がついているようで、その反応は他より薄いように思えたのは古市の気のせいだろうか。
「まじか」
 あまりにも素直にいったのは姫川だった。そこまで変わると思っていなかったから、出た言葉なのだろうと古市は得意げな気持ちになる。自分のことじゃないけれど。空気でわかる。いいなぁ、という空気。だが、それだけじゃないことを古市は知っている。だからこそ好きであっても悩むのだ。否、それは好きだからこそ悩むのだろう。
「でも、ラミアは……」
 その悩みを、いってしまいたくて。酒の力を借りて古市は言葉を紡ぐ。好きだけど、越えられない壁のような何かがあると感じている。好き、愛してる、それだけでは越えられないものというのは、きっと大昔からあるのだろう、と。だから人は相容れない者がいたりするのだろうし、顔を見ただけでいけ好かない、と思ったりもするんだろう、きっと。そんなことを思いながら口を開いたけれど、それを遮る言葉が、さらに別の口から零れだす。
「うっそ。こんな可愛くなってんの?」
 男らしい素直な言葉だ。これは夏目の声。古市は思う。そして、古市自身も思っていたこと。自分以外の他人から、自分の彼女が褒められることについて喜ばない男がいるはずもない。数秒前の悩みなど関係なくなって、古市はニンマリとした。もはや彼女はすでに子供なんかじゃなくなっている。それを認めたのだ。周りが。つまり、
「変わるよな、女って」
 見慣れた調子で神崎がいう。あの姪の姿を見てきたから思うのだろう。神崎に恋をして美しくなろう、なろうと背伸びしている彼女のことなどきっと気づかずに。そんなことを思っていると、がらがらと激しい扉の開閉音とともに東条英虎がいつものように遅れて、まるで苦学生のままのように現れた。相変わらずの軽装で。
「呼ばれたから、……きた」
と、入るなり東条の瞳孔がひらく。その目は男鹿の姿を認めていて、ニイ、と笑う。男鹿もその視線を汲み取って笑う。あ、これは暴力沙汰になりそうだな、と他のみんなが感じた。今日飲む日だし、そういう会なのに。古市の寒い気持ちを汲み取るように、サッと神野が動いて東条へとビールを手渡す。その途端、彼の瞳がべつの輝きを放つ。そう、東条も昔より大人になったのだ。
「ところで、東条先輩は結婚したんっすか?」
 こういう話は食いつきも早く、サラリと聞いてしまえるのが古市らしさというものだろうか。東条は置いてあるつまみとビールをひと息に飲みながら頷いた。
「俺、婿さんになったから」
「わああ」
「マスオさんかよ、似合わね〜」
 方々の声は東条にとっては聞き慣れたもので、あまり気にする対象にならないのだった。
「気にしねえし。カタチなんてよ」
 喉を鳴らしてお代わりしたビールを飲む東条の喉仏がこくこくと動く。そんなふうに励ましてもらうつもりなんてなかったというのに。古市はその東条の言葉が心に痛い。意味がある。大事なものである。そう思う。そう思える。カタチなんて、と古市も過去に何度も思おう、思おうとした。けれど、自分の心だけでそれができなくて、弱気になっていた。
「愛だねぇ〜」しみじみ言う夏目。
「ということは、苗字変わったのか?」冷静な陣野。
「まぁ。現場の親方だった人のとこで働いて、そこの娘さん」
「ええええ、静御前じゃねーの?!」
 昔よりたしかに世界は広がっていて、少しづつ知っていたことが増えていく。その広がりは頭数分無限大だ。アレだけラブの匂い醸し出していたのに結局、幼馴染みは幼馴染みのままで、結婚まで至らなかったんだな、となぜか周囲が落胆した。ようするに子供のままじゃないということか。
「静は、なんかあの、いいんちょー」
 いいんちょー、というふざけた言葉だけで理解である。出馬のことだ。東条以外のみんなが目を合わせる。え、アレがどうしたって? 高校時代から分かっていた。気がある、というか東条にライバル心メラメラだったではないか。しかも東条は気づいていなかったし。
「静が告られたらしーぞ。よくわからん、まだ結婚はしてねぇみてえ」
「うーん、とりあえず……若い」
 そっちのほうも気になるが、ここにいないのでは聞きようもなく話がこれ以上広がらない。
「つうか、お前は邦枝だろ」
 あっさり切り込んだ。その真っ直ぐさは昔と何ら変わっていない。男鹿は急に話を振られて面食らった。なので、ちょっと噎せた。マヌケな感じの男鹿の姿がみんなの目に懐かしい。
「……フツーだって」
 多くを語らないのも男鹿らしい。浮いた話は相変わらず苦手なのだ。高校時代も終わる頃からずっと付き合っている。長い。だがこちらも結婚まで至っておらず、ずるずると付き合っているらしい。
「いいね、コノコノ。ずっと潤ってるなんてぇ〜、すっげうらやま〜」
 相沢が男鹿をからかうと、男鹿は露骨に嫌そうな顔をして逃げようとする。そんな中で東条がビールの注文を勝手にしている。瓶が届いたのでそれを注ぎながら相沢は懐かしげに笑う。
「でも東条さん、結構もめてませんでした? 静御前のとき」
「そうか? もう忘れたけど」
 東条は素知らぬようすで置いてある食べ物を平らげていく。もしかしたら昔よりも食欲は増したかも。ガツガツとかきこんでいく姿は、凶暴な獣の食事そのものだ。
 みんながそれぞれに、大人になっていく中でも変わらないことがある。きっと、こうして集まってウダウダやれることもそうなのだろうし、昔話をするのも、新しい近況をするのもそうなのだろう。またふたたび会うことを、言葉じゃない約束をして、それは自然と雰囲気だけで伝え合う。酒の弱い神崎を背負って、城山が先に帰路につく。ここからは早足で今日という日が終わっていくのだろう。
「ふわぁ…、俺もそろそろ帰るわ」
「お前いつも朝早いもんな」
 目を擦る男鹿に古市は頷いて。他のメンツがきょとんとした顔を向けていて、眠い男鹿の代わりに古市は答える。
「こいつ、相変わらずなんすよ。こっちと…魔界の行ったり来たりで」
「ああ? まだ切れてなかったのかよ! くまちゃん」
「……まだ言ってっし」
「男鹿って、ベル坊の人間の父親だから、親父は親父ってことで魔界の関係はなかなか切れないらしいっすよ。で、忙しい、と。あんま人間界にいないときもあるし」
 それぞれの世界で、それぞれを生きる。道を歩く。それが俺たちの道。俺たちが、一人で生きるということ。選ぶのは自分自身。考えるのも、流されるのも、流れるのも。それをふくめて人は選んで生きる。選ばないことはない。選ばないことを選んでいるから。茨の道だろうが、敷かれたレールだろうが。
 古市は男鹿に手を貸しながら、店を後にする。他のメンツ早い朝まで飲むのかもしれないし、帰るのかもしれない。とりあえず明日の仕事を疎かにできないくらいの大人にはもう古市もなっていて、名残惜しさは隠さずに頭を下げた。
「んじゃ。今日は、ほんとにありがとーございました、東条先輩」
「は? オレ?」
 日本酒とかウィスキーとか、ちゃんぽんして飲みまくる東条のガテン系な背中に古市は声をかけた。今日は東条の知らないところで勝手に励まされたのも分かっているけれど、それでもお礼をいわずにはいられなかった。古市の、人としての気持ちだ。その態度を汲んで、東条は見送るといって古市と男鹿にひょこひょこ着いてきた。外の空気がひんやりと冷たくて気持ちいい。
「どーかしたか」
「や、東条先輩は俺の背中、押してくれたんです」
「ふーん?」
「俺、ラミアと付き合ってて。でも、小悪魔っていうか、そういうのじゃないすか。だからいろいろ迷ってて…。でも、」
 東条はラミアのことを悪魔だなんて思わずに、しかも記憶も半分以下で、あまりよく考えずに古市に返す。もちろんそんな東条のことなど古市は分かるはずもない。噛み合わないのに勝手に合致する気安さ。
「まぁいいだろ、女なんてみんな小悪魔みてーなもんじゃん」
 その軽い言葉だけで十分なのだ。拳を付き合わせてから古市と男鹿は帰路に着いた。男鹿の欠伸はもうこの時間には止まらない。半分寝た男鹿に肩を貸すのも、あと何回できるのだろうか。古市は冷えた空気の中で冷めてゆく酔いを名残惜しみながら歩を進めるのだった。明日のために。


過去を進んでいくんだよね



15.03.05
title OF

ようやく書き終えました。最初はここまで長いものを書くつもりはなくて、なんとなく書き出したはずだったんですね。それが、なんでかこんなに長いものになっちゃった…と。


でまぁ、今年初3日間限定の企画でヒッソリとやっていたリクエストの内容にはそこそこ合致するなあと思ったもんで、流用しました。とはいっても、最初っからリクエスト用に書いたわけじゃないんでデキはどうかと思うんだけどね。なんだかすみません、かすがさん。どぞう。。
ほとんどノロケはしてませんね。これについては、言わせてください。
男はほとんどノロケはいいません。ノロケるのは女です。付き合い始めならともかく、結婚までしてたら嫁の話もそんなにしません。聞かれたら、それとなく流すようにサラッと答える、そういうもんです。だから、野郎どもでノロケる話というリクエストには添えてないかもしれませんが、私としては、単にみんなで集まって騒いで近況報告とふざけ合いみたいな感じでいいかな、と思いました。
これがレッドテイルだとか女子メンバーだったらバッチリノロケるんですけどね。で、最後には悪口大会になる、というのが定説です。あ、これリアルな話だからね?w
男女の精神的な違いとか、行動の違いとか、性的な意味以外で見ていくと習性というか、生物性が見えてきて面白いもんですよ。夢を見るために書いてるかもしれんけど、僕は夢を語るつもりはないからなあ。ものにもよるけどw
ということで、旗色違うかもしれないけど、お待たせしました。なんだか今年もべるぜべるぜしてます。ねぎです。


でも、この話でちょくちょく小出しにしてきた辺りの話を書くっていうのはありだなぁと。虎と静と出馬とか。書きかけのもあるけどな!かぶらなきゃいいけどな! あとは古市とラミアとか。
もうね、男鹿と葵ちゃん、姫川と久我山ばっかり書いてるからw 全然マイナーじゃないんだけれども。どう見ても公式です。



派生から生まれる文章とかあったら書いていくんで、まぁもうしばらくたぶんべるぜしてると思うんで、好きな方はよろしくー。過疎もええとこですけどなw

(ゲームジャンル戻る戻るって、さっぱり帰っていかない鍋型のハマりっぷりでござる)
2015/03/05 11:56:46