12月23日。天皇誕生日。寒いが石矢魔には雪は降らない。これから那須塩原にいく予定。ちなみに二泊三日で。クリスマスの一秒たりとも無駄にするつもりなんてない。乙女にとってはクリスマスは一大イベントだ。好きな人と一緒にいられるのなら。もちろん恋人かどうかは問題じゃない。一緒にいられるかどうかが問題なのであって。寧々の胸はドキドキしていた。母には気取られていないだろうか。内緒で予約した旅館。偽名だけどきっと母なら一発で見抜く。なぜなら寧々の名前は父方の名字にしただけのお粗末な偽名だから。というか、こんな「よくないこと」をしようだなんてドキドキする。よくないことだと分かりつつも、理解はできない。立場的には悪なのかもしれないけれど、寧々の想いびとは既婚者でも恋人持ちでもない。ただの学校の先生だ。男と女なんだからどこからどうなるかわからない、それは大人な人たちならきっとわかるだろうと思う。倫理的にどうのというのは婚姻関係とかそういうものがあっての話だと寧々は思うのだ。浮気も不倫もダメだと。でも、そうでないなら一縷の望みをくれないか。
 はあ、と白い息を吐き出しコートにマフラー姿で立った夕暮れの石矢魔の町は薄暗い。さっき禅十郎から貰った電話ではまだあと少しかかるみたいだ。仕事なのだからしょうがない。寧々は学生で、今は冬休み、そして卒業間近の身だから宿題の類もほぼなし。受験うんぬんと騒ぐのは石矢魔高校以外の高校ばかりだ。少なくとも寧々には関係のないのが勉強という言葉。卒業はもう決まっている身だし、後に続く高校生活のことなどどうでもよかった。今が悔いなく送れるかどうかのほうが大問題。はあ、また吐く息が白い。暗くなるとよく分かる。禅十郎とは駅近の風の当たらない路地裏での待ち合わせだ。立場をわきまえて喫茶店やらで待ち合わせるのを嫌ったのだと思う。
 寧々は暇を持て余して表に出て辺りを見回す。カップルが多いような気がする。もちろん明日はイヴだからだ。クリスマスは恋するものにとっての最高の応援日だと思う。元が宗教だなんて関係ない。こうして先生に告白できたのはこの日があったお陰だ。彼と一緒にいるために素直になれたのだ。町のクリスマス飾りがひかひかと煌めいて眩しい。この飾りが応援してくれているみたいだ、そう思えるのだった。ああ、早く会いたい。先生。寧々は路地裏に向かいながら微笑む。



 禅十郎は小走りでその小道にやってきた。そして素直に詫びた。殆ど反射的に何も考えていないのだろう。寧々の手を握って擦る。この行動が寧々の鼓動を早めるというのに、当人まったくやましい心がないときた。本当にまっすぐな人。
「悪ぃな、つめてえ。どっかあったまってくか?」
「あのさぁ、先生がいったんだよ? 誰かに見られて面倒なことになりたくねえって」
「おおそうか、悪ぃ」
 いいつつも禅十郎はキョロキョロしている。路地裏近くの店にでも入ろうというのだろう。寧々はそんな禅十郎の腕にしがみつくみたいにくっつく。禅十郎のコートも冷たいけれど寒さはあまりに気にならないようだ。手は温かい。
「そうじゃなくて、早くいこ」
「どこ?」
「駅」
 これから那須塩原の温泉宿に泊まるんだから。詳細はまだ禅十郎には内緒だ。スキーをするとはいったけれど。しかし禅十郎は首を横に振った。そんなばかな。寧々はその動きを信じられな気持ちで見つめていた。ここにきてどうして禅十郎は断るというのか。電話ででも断ることはできるだろうに。土壇場になってこんなことをいうのは反則だ。頭にくる。信じられないと思う。こんなやつ、とも思う。でも嫌いだして顔も見たくないし、いやだとは思わなかった。どうしたって好きなものは好きなのだと、強く感じた。
「大森と、二人だけでスキーなんて行けるわけねえだろ。一応だけど、俺は教師なんだぜ」
「じゃあ、先生って呼ばない。だから、いこ?」
 寧々は禅十郎の手を取った。そして離さない。離してなんてやらない。目が合った寧々はその禅十郎の顔を見て笑った。だって、あんまりにも困った顔をしていたから。どうやら押されると弱いらしい。寧々はすぐにそんな禅十郎から目を背けて手を引っ張り引っ張り歩き出した。これからは強行突破しかない。禅十郎が拒否の言葉を吐くのは仕方ないことだ。だから強引にいいきった。
「バレなければ問題になんてならない。アタシたちがガキでもバカでも、知ってることだよ」
 くるりと思いきりよく振り向いて、チュッと禅十郎の唇に軽く触れるだけのキスをした。一瞬だし歩く人たちに見られるかもしれないとも思ったけれど、そんなことどうでもいい。今は禅十郎の頭の中をまっしろにしてやりたいと寧々は強く願った。
「それに…禅はさぁ、ガキがそんな理屈で納得するとでも思ってんの? それこそバァーカ、って感じィ」
 不意打ちにすっかりノされて禅十郎はゆらゆらと寧々に引っ張られるがまま駅に向かうのだった。これから雪の町へ向かう。そこには二人の世界が広がっている。何かあっても、白い雪がきっと隠してくれるから。


14.12.10

なかなか進まないけど、強引なラブラブ攻撃をする寧々とせんせーです。

この話はあんまり受けないよなと思いながら書いてますが、皆さんはどう思うんだろう?お似合いじゃないかなぁ?見た目だけなら似合うと思っただけです。
あと、子供扱いされる寧々って珍しいってのもあるので。うん。


結局、電話とかしなかったということなんですけど、単に禅さんめんどうだし忘れっぽいとかなんだと思いますよ。かなりアホですね〜
2014/12/10 21:05:52