友達や仲間とかの関係から恋人になるということはよくあることだと思う。だが、秘めてた思いが現実で、しかも公けになってしまうとどうすればいいのかとたんに分からなくなる。そういうことってないだろうか? 経験はない人も多いかもしれないけど、経験がある人も結構いるんじゃないだろうか。子供のときの淡い恋の話し。
 元々仲が良かったものだから、これといって特別なことをしたいと思うわけじゃない。ふつうよりもちょっとだけやりたいことのレベルが下がっている、とでもいうべきだろうか。でもデートとかキスとかハグとかは、当然したいと思うわけで。だけど、知ってるだけに、その人柄とかそういうものを全部知ってるだけに、逆にいい出しづらいというか。それはお互いに感じていることだ。それで結局は手をつないだりもしないし、色っぽい雰囲気になったりもしない。そうなることで、周りと自分たちのなかに流れる雰囲気がおかしくなってしまうのが怖いというのもある。
「デートも行ってないって?」
 夏目が驚きのあまり裏返り気味の声を上げた。いやはや予想外。おたがいさま。神崎と夏目が睨み合うように顔を付き合わせている。
「悪りぃかよ」
「カワイソーでしょ、由加ちゃんだって行きたいって思ってるよ」
「いわねぇもん。知らんがな」
「神崎くんはどー思うのさ?」
「………ん、」
 俺は、したい。デートとか。ふつうに。でも。同じなのだろうか。そんな当たり前のことに言われて初めて気づく。もしかしたら、そういうことなのかもしれない。言葉にならない気持ちがあるということを、自ら身をもって知っているはずなのに、どうして気づけないでいるのだろう。どこまでも人は不器用で、他人のことを知ったつもりで分かれない。自分のことを知ったつもりで知らないで生きている。
「両思いってさ、そういうもんなんじゃないかな、って思うよ」
 夏目は背中を押してくれている。


 意識し始めると、とめどない。妄想のカタマリみたいになるんだということを自覚した。結局、男はそんなものなんだろう。これはある意味不安である。好きだからって何したっていいわけじゃないのだし。神崎は自分の妄想について頭を抱えた。結局はヤラシイ発想に辿り着く。これはいかん。デートとかそういう話だったはずなのに。考えは甘くてどこまでも飛んでいく。
「どーしたッスか?先輩」
 何も知らないアホは、さも当たり前のように声をかけてくる。アホがどちらなのかはまた疑問ではあるのだが。ちらと見ると目を輝かせて由加が神崎のことを見つめている。たのしいことなんてここにはありませんと、いっそ追いやってしまおうか。
「……あのさ、ええと、なんか俺、今日夏目に聞かれたんだけど。なんつーか、…どこまでいった?とかって」
「え」
 途端に顔を赤くした由加と目が合う。はっきりいって目を見づらくなる話題だ。すぐにお互いに逸らした。顔にばかり熱が集まってくる。赤い、あかい。ドキドキしている。
「何もそういうの、ねぇじゃん。俺ら。…だから、どうなのかなって思ってよ」
 スマン夏目、ダシにした。頭のなかだけで神崎は頭を下げた。バカにまっすぐ聞いてる自分もバカっぽい。だけど手を出そうとして嫌がられるのも怖い。ケンカっ早いくせに草食系になるのだ。ことに恋愛ごとに関しては。
「ど、どどどどどうって……?」
「してえこととかあれば、…いってもらいてぇと、思って………いやまて、何でそんな顔すんだよ…」
 泣きそうなような、困ったような、照れたような、そんな複雑な顔をして由加は答えをさっさといえばいいのに、質問を質問で返してくるだなんて、どう考えても反則技だ。そんな態度じゃあもしかしたら同じ気持ちで間違いないんじゃないかと、勘違いしてしまうだろうが。だから神崎は勘違いに流されないように目をわずかに逸らす。
「で? なんもねぇのか?」
 声は聞こえない。由加はうつむいて首を横に振った。いいたいことはあるらしい。それなら、いわれたことをすればいいだけだ。
「じゃあ、何が……」
 おずおずといった調子で由加は神崎のことを見上げた。複雑な表情のまま、意を決したように息を飲む。そんなに気合を入れなくても、と神崎は胸のどこかで思う。
「せ、先輩、と、イチャイチャ、したいッス…」
「ハ、……イチャイチャ…」
「だって、ウチら、恋人、なんスよね? 何もねーとか、オニ心配なるッスよ!」
 なんというか、直接的で、分かりやすくて、そして同じ気持ちで、ほんとうによかったと思う。だけど、すぐに言われてできることなんてわずかで、由加の頭を撫でて心配すんなという。恋人なのは確かなんだから。不安になるのはみんな同じなんだ。イチャイチャしたいのもみんな一緒。なんだか胸のなかにあたたかいものと、余裕が生まれてくる。
「え、じ、じゃあ…やるってことッスか? 待ってほしッス! まだそーゆうの早いっつーか。マジパネェッス!!」
「やるとかいうんじゃねー! 恥じらいってもんがねぇのかてめー、バカパー子っ!」
 妄想をいとも許してくれてしまうこのバカをなんとかしてくれ。神崎は由加の頭をポカリとやった。乙女という言葉の似合わない、生まれて初めてできた神崎の恋人。ムードには程遠いかもしれないけれど、それはそれで自分たちらしいとも言える。
「ざけんな。お、俺だって……付き合うとか、そーいうのねぇんだからどーしたらいいかわかんねぇんだよ…。急にイロイロできっかよ。バカパー子」
「じ、じゃあ…どう、するッスか?」
 不安そうに由加は神崎の目を見上げて、だが甘えるような仕草。これはポイント高いよな、うん。
「休みの日、デ、デート、する?か?」
 神崎が意を決していう番だった。そしたら、あまりに子供っぽいせいか、盛大に笑われた。そんな簡単にオトナになれるかよ。神崎はどこまでも照れ屋で控えめだ。


触れがましい



14.11.24

えーと、ある意味別ものになりました。ほんとうはね、パー子と神崎くんの初ちゅうっていうのを書くつもりでした。そしたらこんな、それ以下というか、ガキの恋人同士か?みたいな話になっちゃった。
意外と、姫川とか男鹿とか東条とかのが手を出すの早いんだよね。これは不思議。みなさんの感覚だと違うかもしんないけど、うちの神崎はとにかく奥手ですw
ヤンキーらしいカップルだとは思うけど、ジャンプ的にイチャイチャはやばかったのかな…。
なんか微笑ましいので小ネタかなーと思ったら、思ってたより長くなったので。ま、いちおあげとく。

タイトルさよならの惑星

2014/11/24 19:46:36