「どうして、はじめはおれを助けてくれたの?」
 十年くらいまえのどうでもいい話を二葉がしてくる。それが神崎にとってはちょっとうざったかった。そんな昔のはなし、どうでもいいだろうと。だが二葉はいいだしたら聞かないガンコなところがある。そこは神崎の兄に似て面倒なところ。どうでもいいことはどうでもいいじゃないか。そう神崎は思うけれど、この理屈は二葉の家族には通じないものらしい。
「あん時、おれだけじゃなくてパー子も捕まってたんだって、あとから聞いた」
 神崎は思いだす。ずーっとまえのことだ。まだ神崎が学生時代のときの思い出。

 大事なものが何個もあることは、とても重要だけれど弱くもつよくもなるのだということ。神崎は自分の立場のせいで連れ去られた二葉と由加のことを思った。果たし状、ってこれいつの時代の話だよ…。現実呆れた。でも危険は危険だ。自分のことでないならなおさら。だから守らなきゃと思うし、感じる。強くつよく。二つしか歳の変わらない由加を守るより、幼い二葉を優先して守ることに選ぶのは当然だと、そのときの神崎も今の神崎も、同じように思っている。だから、最初に聞かれた意味すら分からないほどで、ただただ思い出に思いを馳せるばかり。
 同時に、二人を助けに来いだなんて果たし状がきたのは偶然だと思っていた。だが、それは当然仕組まれたことで、でも討ち果たしてからじゃないとそんな現実は分かれなかった。ガキのケンカなんてそんなものだ。そのとき城山が顔を腫らせてやってきて、一通。もう一通は神崎の家に届けられた果たし状。それぞれに女は預かった、という文句があり、その人は別々の離れた場所にいて、別々の名前を書かれていた。そのときの気分といったら。目の前が赤と黒に染まるような怒り。両方のやつらをぶちのめしたい気持ちに駆られるけれど、体は一つしかない。だが、怒りのなか神崎は即座に決めていた。二葉を助けてから、つぎは由加。

 思い出に気持ちを入れ込んでいたときを破ったのは二葉だ。あのとき、どちらを選んでいたとしてもきっと二人は今と変わらず助かっていたろうし、未来に変化があっただなんて思えない。けれど神崎は今でも思う。あのときの決意は今も揺るがない、と。順番は絶対で、間違いないのだと。
「なあ、なんで?」
 二葉が聞くのは当然かもしれない。助けた当時、二人は付き合っていたのだか、そろそろ付き合うだかの頃だったのだとも聞いたのだから。詳しくは聞いてはいないが。恋人とか、好きな相手を先に助けるのは男として当然だったろうと二葉は不思議でならないのだった。だが、神崎は涼しい顔でそんなことなど無関係と言わんばかりにいう。
「決めたから」
「は? ナニソレ」
「理由なんかねーって。決めたから先に行った。そんだけ」
 そんなんじゃ納得しない。ちゃんと、どうして決めたのか教えてくれなきゃ。二葉は何度も食い下がったが、神崎はそれだけしかいわない。思いを言葉にするのがへたな人。


14.11.20

ほんとうにどうでもいい小咄ですよねw
これはパー子とのラブラブぶりを上げてくれる一つのエピソードになるんじゃないかと思いながら書いてはいました。分かりづらいかもしれないですけどね……。

で、なんで二葉を選んだのかって話になるんですけどね、ほんとうに言葉にならないとこだと思うんですよ。愛とか恋とかじゃなくて、二葉のこと大事なんだなってだけで。たぶんそれ知ったパー子も「あっそうなんだ」みたいな感じじゃないかなと思いました。
これは感じ方の違いというか、いろんな人がいるなって感じですよ。キャラ三人しか出てないのにそれぞれですやね。
2014/11/20 10:37:58