※ ヒロイン絞られててこんなだったら完璧シンデレラストーリーだったのに、でもあれだよね無理だよねって話


 藤とサタンの有り余る魔力のせいで石矢魔が石の町と化したのが昨日のこと。早乙女はひとしきり男鹿の活躍を褒めたあと、眠る少女の前で、はあ、と大きくため息をついた。それでも少女は目を覚まさない。男鹿は何も言わずにその姿を見下ろしている。ベル坊も一緒に見ている。早く目を開けろよ。言葉にならない、念でそれを語りかけるけれど魔法使いじゃないのだ。それは眠っている彼女には伝わらない。早乙女がそろりと動いて、スカートをめくってパンティの色を確かめようとしたので咄嗟にその手に「何やってんだてめぇ!」と、スコーンと踵を落とした。痛む手を引っ込めながら早乙女は男鹿を見やる。何も踵で蹴るこたぁねえだろうがよ。そう悪態をついたが、男鹿の目に圧倒されて言葉はでなかった。
「冗談だよ。悪りぃ、妬くな」
「…で、邦枝はどうすりゃ目を覚ますんだ?」
 みんなは石化から普通に覚めた。男鹿の家族もそうだ。今は一晩明けて普通の暮らしに戻っている。あのときのことを覚えているのは石矢魔高校の戦ったメンバーたちだけだ。あれは悪魔の聖戦だった、らしい。だが男鹿にとってはただの悪魔だ魔王だと、どうでもいいことに巻き込まれただけだ。だからといって、ベル坊たちのことを恨んでいるわけではない。だが、心配なのは邦枝だけが石化が解けたというのに、目を覚まさない。もちろんそれは祖父にも伝え済みだ。だが、すでに学校に運ばれていたので、そこで様子を見ようということで医者を呼んでみてもらい、とりあえず点滴だけつけられた状態で保健室のベッドで眠ったままである。祖父は一旦戻るといって今は学校にいない。そして葵は丸一日以上、眠ったままだ。どうすれば目が覚めるのだろう。考えてみたけれど答えはない。医者も保険の先生も困った顔のままで首を横に振る。どちらにせよ、今日学校を閉める前に祖父が引き取って帰らねばならない。
「どうして、邦枝だけが目を覚まさない…?」
 ベル坊も心配そうに葵の静かな寝顔をみては唸っている。ときに、男鹿をとーたん、と呼ぶ。ベル坊がようやく拙い言葉を出せるようになったので、それを葵に聞かせてやりたいと男鹿は思った。そう思うことが、思ってしまうことがどこかさびしい。まるで、もう起きないと思っているみたいで。とーたん、とまたベル坊が呼ぶ。わしっとベル坊の髪を乱雑に撫でながら男鹿は頷きかける。
「んなバカな。起きねぇなんて、笑わせんなよ邦枝」
 石化していく直前の告白を思う。目をそらしただけだと悪態づいた葵らしい強気な言葉を思う。キッと睨みつけてくる生意気そうな瞳を思う。ベル坊を受け取った瞬間、抱きしめた体が石になっていた恐ろしさを思い出す。温かみのない葵の身体。まるで邦枝葵という人間がいなかったかのような、そんな硬くて作り物みたいな石の身体。そんな体を抱きしめて男鹿はあのとき藤を倒すと誓ったのだ。すべて、今さっきのことのように思い起こせる。その思いが男鹿のなかで膨れ上がって、どんどんと大きくなる。
「早く起きろよ!」
 だが、葵は変わらない。葵だけが変わらない。目を開けない。
 すぐ近くにいる早乙女がふ、と鼻で笑いながらいう。
「元凶のサタンの野郎にでも聞きゃあわかるかもしんねぇが、今は藤共々お寝んねみてえだからな。話にゃならねえみたいだぜ……こンのクソッタレ」
「ちっ、打つ手がないってことかよ!」
 男鹿はイラつきながら壁を叩く。魔力の通わぬその手にはじぃんと痺れる痛みが走るが、そんなことはどうでもよかった。葵が起きる方法さえわかれば他のことは何だって。
「ここでウジウジ考えてたってしゃあねぇよ、まずは学生は勉強行ってこい」
 背中を大きな手で思いきり叩かれて、その勢いに押され仰け反りながら男鹿はむりやり立ち上がった。しかたがない。葵が眠ったまま起き上がらなかろうとも、日々は流れていくもので、それは待ってくれないものだから。葵は目を開けてもくれないのだから。胸の奥に思いを抱えたままの男鹿の背中は、どこか冴えない。後ろ姿を見送りながら早乙女もため息を吐き出した。彼もその男鹿に続くように、のっそりと立ち上がる。大人も子供も先生も学生もない。目が覚めていれば生活が流れていくものなのだ。それは早乙女も例外ではない。



 事態が動いたのは昼休みどきだった。悪魔たちと戦ったメンツが、邦枝の顔を見に行くと立ち上がった。それは当然のことなのだろうけど、それが皮切りで事態が動くだなんて誰が思ったろう。一年教室の一室からヒョコっと顔を出した奈須がニヤリと三日月の口をして笑う。嫌な予感の始まりだ。
「どこいくにょーん?」
「保健室」
 さらりというのは同い年の千秋。そして奈須のことを見てもいない。視界にすら置こうとしないお前に乾杯!&敵はちゃんと見ないと打たれますよ。身構えた男どもはあちらこちらにいて、奈須は苦笑気味だ。
「ねぇ〜ん、こーゆうときって敵キャラ出るタイミングぅとか思わない? 悲劇のヒロインちゃん、お寝んねなんデショ?」
「それ、どういう意味…」
 千秋が瞬時にエアガンを構え、ノーモーションで向けたときには既に遅く、奈須は後ろへ跳んで離れていくが、周囲には奈須の取り巻きどもが群れている。だが旧石矢魔メンバーはまだ構えてすらいない者もおり、しかも事態を理解していない。重要な男鹿でさえ「はー?」というような分かってない顔をしている始末。締まらないメンバー。
「藤もいないしヒマなんでさぁ、遊んでもらうぴょーん。ヒロインちゃん返してほしくば保健室に辿り着きなよ、男鹿辰巳」
 呼ばれて初めて顔を上げる。奈須の三白眼と目を合わせ、キッと睨みつけたのも束の間、すぐに姿を消してしまった奈須の後を追う。だがそうは問屋が卸さない。周りのレッドテイルのメンバーや、神崎組、姫川、東条らも男鹿のもとにはいる。突破は簡単なことだ。奈須の雑魚を蹴散らすのは一撃。強さが違いすぎるのだ。男鹿は腕を一振りするだけでバタバタと倒れてゆく雑魚学生らの姿がなんとも無様。
「待て、なすび! てめぇ何考えてやがる」
「せっかく邪魔者がいなくなったしィ、アタイ、もっかい最強賭けて勝負なり〜〜〜」
「で、逃げんはヒキョーだろっ!!」
「アタイ、狭いとこキラーぃ」
 ヒョコヒョコとトリッキーで読めぬ動きで保健室の方向に向かっていく。校舎はそこまでだだっ広いわけじゃない。同じくらいのスピードの奈須にはなかなか追いつかない。男鹿は走りながら舌打ちした。ただ葵を見舞いにいくだけのことでこんなことになるだなんて。男鹿は強くなっていく過程で敵が増えすぎてもいたのだ。そこで古市が叫ぶ。
「男鹿!お前は奈須を追え!ぶっ飛ばしてからゆっくりこいよ。俺たちは邦枝先輩の無事を確かめる」
「うっしゃ。つかお前いつからいた?」
「最初からいたよ!バカ!」
 スピードについていけない古市は、逆に奈須の動きについては読んでいた。奈須は保健室の近くの出入口から外へ出るはずだ。そして、古市の読み通りそのとおりになった。東条らと男鹿は外へそのまま走っていく。校庭は広いから気兼ねなく暴れられるとかその程度のことだ。古市、神崎組、姫川、レッドテイルは保健室にいく。ケンカは勝手にやってろと。しかしその保健室には鳳城林檎がいて、もちろんそのお付きの女どももズラリと並んでいる。葵の寝ているベッドは取り囲まれており、そこまで簡単に辿り着けそうにない。寧々が忌々しそうに舌打ちした。そんな様子の鬼気迫るレッドテイルを横目に姫川は笑う。
「こいつらはお前らがやるべきだな。邪魔はしねえよ。クイーン助けてやんな」
「加勢したらすぐ決着つきそうだけど、見てるだけにしとくわ」
 姫川、神崎ともに傍観を決め込んでいる。寧々がチェーンを、千秋がエアガンを構え、他3人がそれぞれ構えた。
「ああいう風に戦ったらパンツ見えるんじゃね?」と姫川。
「ゆっくり見ないと」と夏目。
「勉強させてもらいます」と古市。
「んなシミ付き見なくていいだろ」と神崎。
 その言葉は鳳城たちにとっても、寧々たちにとってもプッツンくるには十分で、すぐさま戦闘は始まった。もちろん風が吹き荒れるような戦闘。つまり、パンツ見えるんじゃね?
「タダで見せるかボゲェーー!!!」



「ほいっほいほいっと」
 男鹿のパンチをかいくぐって奈須は笑う。もしかしたら前に戦ったときよりもスピードが上がっているかもしれない。ヒラリヒラリと躱す動きは実に軽快だ。それを睨みつけるように東条は見つめている。ケンカのギャラリーである。
「男鹿っちゃーん、弱くなっちゃったんじゃなぁい?」
 挑発的な態度はいつものことだ。紙一重で男鹿の攻撃を躱し、フラリとした構えのない奇襲気味の攻撃はやはり脅威だった。あーい、とベル坊の真似をしながらサッカーボールキックを男鹿に振り抜くと、男鹿は思いきり校庭の真ん中のほうへと吹っ飛んだ。久々にケンカをした感覚。ほぼ毎日やっていたけれど、最近のはケンカというより魔力のぶつけあいみたいなものだ。男鹿は久々の体と体のぶつかり合いに、心がワクワクするような高揚を覚えていた。こんな状況であるのにも関わらず笑えてしまう。それをベル坊が汲んで、ぎゅっと男鹿の髪にしがみつく。
「ベル坊、俺のケンカだ。邪魔すんじゃねーぞ。…と、これからたっぷり動くから、18m以上離れねーよーに踏ん張れぇえええ!」
 怒鳴り声を上げながら男鹿は砂埃舞う中、地面を強く蹴って瞬時に奈須の前へと距離を詰める。弱くなったかどうか、それは魔力なんてなくても強くなったに決まっている。男鹿は自分のために戦う。けれど、それだけじゃない。仲間たちのためにも戦う。その想いが男鹿を強くさせるのだ。パンチの連打のあと、それを見切ってくるりとその場で半回転、後ろ向きのまま足が飛んでくる。どこまでも教科書にない動きは実にやりづらく、男鹿はその足に軽く肘を当てることで勢いを殺して避ける。少しだけ距離があいたので後ろへ避けて一度態勢を整える。男鹿ははあ、と大きく息を吐いてから笑う。
「今ので、いっぱい?」と奈須。
「なワケ、ねーだろ」
 男鹿が悪魔の如く笑った途端、奈須の体が地面にめり込んだ。
「ああ、いいな。俺もケンカしてーよ」
 東条は男鹿と奈須のことを見つめながらぽつりといった。その気持ちは相沢にも陣野にも、はっきりいって分からない。バトルオタクはなんだか面倒くさい。それだけだ。



 チャイムは鳴っているが、男鹿たちが向かったのは保健室だった。保健室が崩れている。見ると鳳城たちが倒されていた。こちらにも刺客はいたらしい。というか、この茶番はもしかしたら鳳城たちの仕組んだこのなのかもしれない。その顔ぶれを見てそう思う。壁の崩れた保健室を見て、東条は再びガッカリしてヘコんでしまった。だったら着いてこなきゃいいのに、と思っても誰も口にはしなかった。たぶんそういう細かいこと?は忘れるのだろう。
「大丈夫か?」
「まったく……姐さんの寝込み襲うだなんて許せないやつらだよ」
「寝込みを襲う……なんてエロい響き」
「黙れクズ市」
 男鹿はベッドのほうを覗き込む。男鹿の顔は吹き飛ばされて汚れていたし、あちこち擦りむいてもいたが大きなケガなどはない。もちろん負けてもいない。奈須が相手ではやはり快勝で、力の差を見せつけるような結果となったのだった。そんな姿はあまり保健室という場所に、手当てをしにくる以外は相応しくないのだが、男鹿は見舞う側だ。葵の眠る顔が、朝と変わりがないことを確認して、溜息を一つ。
「邦枝、起きねぇんだよな」
「そりゃそーだろ。起こさなきゃな」
「起こしたっつーの。この中でも起きねぇとか人外だしよ」
「バカ。起こすっつったら、王子様のキスだろ」
 男鹿と姫川の言葉の応酬は、キスの一言であっさりと止まった。男鹿はこの手の話が苦手だ。というか、よくわからん。しかも、前にも似たようなことがヒルダが記憶喪失になったときにあっただろうが。同じネタ繰り返すとかバカかバカなのか。男鹿は無言で姫川のダサいアロハの襟首引っつかんで睨みつけた。ふんと鼻を鳴らすのは姫川だ。
「結局、お前はどうなんだよ?」
「………」
「分かってんだろ、邦枝の気持ち」
 石になる直前、確かに葵はいった。その言葉と行動と、葵の気持ちは男鹿へ変化をもたらした。男鹿の力になった。こいつのために、俺は戦うと誓った。藤とサタンに負けないと決めた。だから勝てた。葵の後押しと、身を呈してくれたから。葵だけじゃもちろんないけれど、こいつらの後押し、力添え。すべてが身に沁みる。だが、最後の一押しは、確かに邦枝葵だった。
「……俺、」
 この寝顔を見るとせつなくなる。どうして目を開けないのかと。なぜ何を言ってもいつもみたいに減らず口を叩くこともなく、おとなしいままでいるのかと。あのときみたいに、冷たい感触でも石でもないというのに。どうして。
「俺は、邦枝が起きるんなら何でもしてやりてぇって思ってる」
「だからチュー」
「だからなんでそーなんだよ!」
 サラッと、さも当然のようにいわれてはウソっぽいというか、あり得ないことこと上なしだ。実際、ベル坊とヒルダのチューの件についてはありだったのだが、それはあくまで悪魔の話ということで。男鹿も珍しく照れて顔が真っ赤だ。こういうのはまったく慣れていない。
「まあいいだろ、俺たちが邪魔者がこないか見ててやるから」
「お前たちが見てえだけじゃねえか」
「なんだバレたか」
 チッと舌打ちする葵の恋路応援派のメンバー。もはらレッドテイルも葵の恋はすでに応援している。止めたって意味がないし、男鹿と葵には恋とかじゃなくて、一緒に戦った者同士の絆が生まれているのも分かっている。これを分かつことなんてきっと他人にはできないだろう。
「この愚か者どもがいうことは、あながち間違ってはいない。この大蔵省がいうとただのゲスい話になるだけだが、人間の想いの力が現実になることはお前たちが証明済みではないか」
「今度はてめーかよ…」
 ヒルダだった。騒ぎを聞いてノコノコやってきたらしい。さも無関係そうな顔をして涼しげにいってのける。
「チューぐらいしてやれ王子様」
「あ? いい加減にしろてめーら」
「お前の想いを吹き込んでやるのだ。邦枝の中に。そうすれば、こいつは起きるぞ」
「…想い、ったってなぁ……」
「『起きろ』でいいではないか。何も私は、愛してると念じろなどといった覚えはないぞ」
 ヒルダがからかうようにいうと男鹿は出鼻を挫かれたようで頭の中のモヤモヤをどこにぶつけたらいいか分からず悪魔の形相をして睨みつけるだけ。そんな様子などここで気にするものはいない。どうせ男鹿なりの照れ隠しだ。
「ものは試しだ。やってみればいいじゃないか」
「軽っ!だいたい、邦枝だってメーワク…」
「そこは大丈夫。アタシらが保証するさ」
「だああああ!」男鹿は叫ぶ。
「アイダブ!(訳:気にせずいけよ的な)」
 話がそっちの方向にしか流れない。男鹿は頭を抱えて十数秒うずくまる。こんな展開生まれてこの方ない。というか、女っ気がない。そもそも興味もない。古市のせいかもしれないが、姉のせいもあると思われる。だから女とキスとか邦枝とキスとか女とキスとか邦枝とキスとか邦枝とかキスとかキスとかキスとか。
「分かったよ、やりゃーいいんだろ。やれば! どーせ意味ねーと思うけど! お前らしろしろうるせーんだよ! 何もなんなかったら全員殴るかんな! バカ!スケベ!アホ!見んなよ!! するから見んな!」
 子供の言い合いみたいなヒドさ。男鹿はどこまでもガキだ。もはややけくそだった。王子様のキスでお姫様が目覚めるなんてただの御伽噺だ。マンガの中の都合のいい設定だ。そんなの信じない。だけど、起きてほしいと願う気持ちは本物で、今の男鹿たちにできることが他にないのなら、それに縋ってみてもいいかもしれないとも思ったのだ。望めないだろう願いに一縷の望みを賭けて。開かない目を、閉じたままの唇を、やさしくのその頬を撫でて、髪を掻き分けてやる。顔色の悪いその顔は、これからも目覚めることがなければさらに悪化していくのだろう。少なくとも、男鹿がしっている葵はいつも健康的で、生き生きと動いていた。今のこんなじゃない。眠ったまま起きないなんてあり得ない。生きていても、これじゃ何の意味もない。石のときと変わりはない。ただ、温かでやわらかなだけだ。もちろん、唇のやわさなんてものは、これまで触れたことがないのだから分からないのだけれど。
「プギャーーー(訳:よしやった的な)」ベル坊が叫び。
「引っ張った割に勢いよくいったぁ!」と姫川。
「羨ましすぎる!! くそっ、男鹿め」古市が嘆き。
「何秒してっかな(ストップウォッチ開始)」神崎は冷静。

 奇跡なんて起こるはずがない。ヒルダがいった想いの力はなんちゃらというのも、わからないでもない。悪魔からしたらきっとそうなんだろう。悪魔は魔力を持っている代わりに、奇跡を捨ててしまったのかもしれない。だから人間と比較してしまうのかもしれない。奇跡なんて起こってほしいとただ願うだけのものだ。起こるはずがない。なかなか起こらないから奇跡と呼ぶ。起こってほしいと強く願って、葵を思う。きゅ、と下から掴まれた、気がした。気のせいかと思ったけれど、男鹿が目を開けて唇を離す。
「邦枝……お前…」
 男鹿の目に映る葵は驚いた様子で男鹿の顔が間近にあることを知って、けれど声を出せずに。その代わり周りが湧いた。奇跡はなかなか起こらないけれど、たまに起こるから奇跡と呼ばれるのだ。恥ずかしがるヒマもなく葵はもみくちゃにされながら、目を開けたことに胴上げまで始まる始末。仲間が誰一人欠けることなく、男鹿のもとに集まって、またいつもの石矢魔の生活が始まるのだ。それが何よりの喜び。
 ワァワァみんなが大喜びの中、一歩引いて神崎がストップウォッチを見ながら姫川と語らう。
「惜しい〜」
「何がだよ?」
「…14秒」
 ストップウォッチの数字は14.なんとかで止まっている。測っていたのは、
「長ぇなー」
「ああ、長ぇ」
 測っていたのは、二人のキスの時間。


*****



「まあ付き合ってるわけでしょ、恋人同士なわけでしょ。二人は。イイよなぁ…」
「その話もうやめてくんねえかな」
 古市と男鹿が帰りにコロッケを二人で買い食いしながらそんな話をしている。祝福されてしまっているし、葵も当人としては不本意な形ながら告白をしてしまったこともあり、周りからも囃されてまた男鹿に好きと告げた。初めて好きになった人。初めてキスをした人。葵にとってはそういう人で、男鹿からとってもそうでありたいと思う。いや、たぶんきっとそうなのだほうとは思うけれど、今はまだそんな慣れた話ができる状態でもなくて。この現状、男鹿は古市と一緒に帰宅している。だからこの構図なのだ。
「相変わらずベル坊はいるしよ。邦枝がどーとかそういう話じゃねんだよ」
「余裕、大人な余裕。ムカつく。彼女いる者独特の余裕腹立つ」
 古市はなんだかんだといちゃもんをつけてくるが怖くはない。ただの醜い嫉妬である。どちらかといえば葵の弟の光太が、やきもちをやいてくることのほうがどうかと思う。しかし、男鹿はこれからも変わらず、この魔王の子供を背負って魔王の親として暮らしていく。変わらない平穏。ちょっとだけ魔界に行ったりもしたけれど、また何かたのしい事件でもあったらきっと仲間たちの誰かが語り部になってくれるだろう。魔王と一緒で危険な、でもたのしい高校生活の輝かしい日々について。


14.10.29

なんかイイ感じにまとまったなぁっていうか、べるぜっぽい感じじゃないですか?w
こういうの書いてると、本当に自分べるぜ好きだなぁって思ってしまいます。…ただの自負マンです。
これができなかったのは、原作ではヒロインを絞れなかったからなんですよねー! あくまで葵ちゃんがヒロインって決まってたらこういうラストだったろうなぁって話で、無意味になすびが出る辺りもべるぜっぽいでしょ!違う?
でも藤と鷹宮は根暗だからポンポン出ないというw

ケンカもあって、葵も起きて…って勝手に思いついて書いたわけです。
イフ:ラストバブ ですわな。



いろんなキャラがちょくちょく出るようになってきたので、書いてて広がってきた感があるのは楽しいです。
このノリだとマンガのほうがいいんだけどね、小説だから書き切れたっていうのはあるんですけどね。

ちなみに、本当はガマンしきれなくなった東条も邪魔だて、というかバトル申込してやり始める…っていうのをしばらくの間考えてたんですが、さすがに長くなりすぎるし、なすとのバトルももっと長引くはずでしたが、あそこで引っ張らないでおいて、全体の流れとしては正解でしたね(レッドテイルバトルは最初から書く気はなかったです、念のため)。


こんなべるぜはべるぜらしいと思うのだが、みなさまはどうだろうか?
同人的にはたいして受けなさそうだけどね。

2014/10/29 18:48:37