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※ 昭和臭のする姫川夫妻

 行きつけの池袋バーがしばらく休んでいると思っていたら、仕事帰りにふと見てみたら同じ名前のまんま空いているらしい。カランと軽い音とともに暗い店内に顔を出してみたら、見慣れたマスターが手を振ってよこす。竜也は意外に思った。あえて連絡しなかったのは潰れたんだろうかと訝っていたからだ。元々趣味でやっているようなこぢんまりした店だったし、少し苦しくなったら畳んだくらいの気持ちだったが、そういうときに声をかけてしまうと姫川の名前をみて金を貸してほしいとか、ビジネスの話になりかねない。そうなるのもただ一時的に通ったことがある店というだけで、ぐいぐい入ってきてほしくない。そういう気持ちもあったからだ。立場込みで考えるようになったと感じることは、大人になって、それはとてもつまらないことだと思う瞬間。だが、その店はリニューアルオープンしたのだということだった。
「そっかぁ〜。内心、ヒヤッとしたんだせ? うちの事務所から近ぇんだからよ。潰れたらさすがに悲しいもんな」
 瞬間、過った思いなどおくびにも出さないでヘラッと笑えてしまう。竜也は店で一杯やりながら店の奥にあるダーツの的を見て、随分古臭いけれど洒落た店になったなと感じた。それを口に出すとマスターは喜んで、休んでいたときに家族で行ったスポーツセンターでやったダーツにハマってしまって、それをバーで取り入れたらお客が入るんじゃないかと考えて、思いきって有り金はたいてダーツの道具類を買ったのだという。そして中身はダーツ仕様も含めて大人な雰囲気で統一。軽いイメージを払拭して高級感が出るように改装したのだという。
「ふうん…、マスター、思ったより商売上手なんじゃないの」
 これは心からでた言葉だった。それはダーツやら改装だけではない。グラスの中でカラカラと揺れる氷に角がないところなども、とても心が揺り動かされると感じたからだ。丸い氷をつくる製氷機を買ったのだろうが、そんなマニアックなものは結構な金額になるはずだ。竜也はその手腕に舌を巻いていた。こんな店を見たらどう思うだろうか。竜也が思い浮かべたのは妻の姿だった。潮はこの店を見たらどう思うだろうか。パーティなどに出るのは当然だが、こういったこぢんまりしたところへの出入りは幼い頃から──性別を偽っていたこともあって──ごく少なかったはずだ。そしてこの店はこれだけ雰囲気のいい店だ。きっと気に入るだろう。竜也はおもむろに、妻に電話で連絡し始めた。もちろん内容は今竜也がいる場所を伝えて、そこに来い、だ。マスターと目があったのでいった。
「呼んだの、俺の嫁さん。余計なこというんじゃないぜ」
 この店は、竜也が独身時代に女を連れて来たりしたこともある店だ。余計な詮索をされるよりは自分からいったほうが問題はない。もちろん竜也がどこの誰で、お忍びで来ていることも知っているのだろうけれど、口に出しておかなければわざという輩もいる。念には念を押しておくに越したことはない。金があるというだけで擦り寄ってくる人もいれば、妬む人もいるのが世の中というものだ。
 待つこと1時間半、何組か客が来たものの潮は姿を見せることなくその間、竜也はケータイをクリクリと弄くりながらタバコと酒を相手にマスターとも時折話をして待っていた。待つのは元来得意ではないのだが、呼んでしまった以上仕方ない。明日の仕事は早朝ではないのだし気長に待つかとため息をついたところで、カランと安っぽい鈴の音とともに潮が現れると、池袋の隠れ家バーの雰囲気が華やいだものになった。竜也がつと目を上げるとサングラス姿のスラっとした、いつものとおり露出の少ない潮の姿だ。店内の客の一部がひそやかに話をしているが、竜也も潮も慣れっこで気にしない。
「よぉ、遅かったな。どこにいたんだ?」
「成田だ」
「まじか。言えよ」
「聞かないから言わなかっただけだ」
「遠いんならワザワザ呼ばなかったっての」
「気にするな。竜也からデートの誘いだなんて珍しいからな、嬉しいぞ私は。飛んでだって帰るよ」
「はいはい、とりあえずマスター。ストローでお洒落に飲めるのくれ」
 潮の到着時間が遅かったので、早く酔いが回った方が楽しいかと思い、わざとストローを指定する。そんな無茶ぶりにも応えてくれる。しかも、バラライカを2本のストローで飲むというラブラブ仕様。これは流石にやりすぎだろうと思わず苦い顔をしたものの、潮はそんなサプライズに喜んだ。竜也としては、雰囲気が甘すぎてお腹いっぱいだ。
「お前はいろんなことを知ってるんだな」
「この店のことか? お前がサンマルククスでケンケンやってたとき、俺は石矢魔でタラタラ遊んでたろ。経験が違うんだよ」
 バカにしたフリでふぅっと煙草の煙を吹きかけてやると、嫌そうに身をよじりながら煙から逃れようとして、だが顔は笑っていた。こんなくだらないコジャレアイで楽しめるなんて、これからの楽しみも山ほどあるのだろうなと思えばこそ、少し羨ましい気もした。ラブジュースにみたいにカクテルを飲むと、頼んだ側の竜也もさすがにストローのせいかくらっとした。飲んでいるときはいいけれど、視線をあげれば間近に目が合うし、少し動けば相手の髪が顔に触れるほどの距離なのだ。堪らず顔を離しながら竜也はいう。
「さすがにこれはねぇーんじゃねえの、マスター」
「いいじゃないですか、お似合いのカップルなんですから。若いっていいね」
「カップルっつぅか……結婚して10年近い枯れた夫婦ですけどぉ」
「私たちのことだぞ。ジジババのようにいうな」
 独身時代にもしたことのないようなデートだ。まったく気恥ずかしいったらありはしない。のせられるのが嫌で竜也は煙草に新しく火をつけた。どうにもこういう甘々ベッタベタの雰囲気は苦手である。潮にはお気に入りのようで、もはやノリノリ。最初から思いついていたことを口に出す。
「ちょっと飲んだらダーツでもやってみないか、って思って今日、声を掛けたんだが」
「ダーツ? しらないな。やったことない」
「教えてやるよ」
 竜也は口直しに別のウイスキーを頼みながら、何とかラブジュースから逃れた。潮はそんなに酒に強い方ではない。まったく飲めないというほどでもないが、ウイスキーベースのカクテルではあとから足にくるかもしれない。ストローで飲んでいる分回りは早い。もちろん覚めるのも早いのだけれど。明日の仕事があるのでサッと引くための策だった。その竜也の策にキッチリはまっている辺り、とても純粋で微笑ましいと感じるところだ。
 ダーツのルール説明をしながら、酒が入っているからかもしれないが、確かに潮の目はキラキラと輝いて生き生きしているように見えた。そんな様子を見ていると、真新しいものなんてほとんどなくなってしまった自分を思う。
「へぇ、真ん中に当てればいいというわけじゃないんだな。奥が深い」
「ああ。ど真ん中のブルに入れるより、トリプルに入れる方が点数は高くなる。基本はここの枠を狙えばいい。スコア計算はこっちに出るから」
 練習、といわれてダーツの距離感と投げ方を自分なりにやってみる。距離がつかめるまで何投かして、気を良くしてからカクテルをちびり。ズブの素人なんだから、ともう少し練習。竜也が後ろからダーツの矢を一本その手から奪って、軽く一投。久しく投げられていない上に、まともな構えもしないで潮に引っ付くようにして投げた矢は、ダブルリング内にアウトコースすれすれに刺さって、その腕の衰えを表していた。それを見て笑った。
「俺の腕も落ちてるな。じゃ、勝負する?」
「ああ、望むところだ」
 ゼロワンで勝負することにした。501点から0点になるように減らしていくゲームだ。二人で1ラウンド3回ずつ、点数の計算は自動になったので楽だが、夫婦でやるのでもなかなか楽しめるなど初めてしった。鈍った腕もそうだが、バーでダーツをやるのは初だ。暗いのもあるがアルコールのせいもある。狙いの定まりはいつもよりだいぶ甘い。そのぐらいが潮とやるのには丁度いいのかもしれないが。と思えば、ストンと30点ゾーンに入りニヤリとしたりもする。実際、勝負といっても勝ち負けなどこだわりはないのだ。ただの口実だ。ムードに飲まれるための。
 こんなことは学生時代に十分に堪能してきたことだ。それを潮は知らないという。同じように生きてきた仲間であっても、違う道を模索した竜也と、家元のレールに乗った潮ではまったく違うところを走る。感じ方も、経験する事柄もすべてが違う。財力は似たようなものだ。それなのにこんなに違う。また一本のダーツの矢がダーツボードに勢い良く突き刺さる。点数なしのところに刺さるとバカにしたような笑いが生まれる。もちろん二人の世界だ。この二人の中に入って来られる下賤の輩はここにはいない。
 白熱した試合というより、主に竜也が潮をカモにした一方的な試合。ダーツを人差し指と中指で挟んで持ち、ボードと点数を睨み付けてダブルへと狙いを定める。歯応えのいい漬物を囓ると酔いが覚めていくのがわかる。パリパリと鼓膜を震わせる小気味好い音。
「さ、チェックメイトだ」
「それはチェスだろう」
「ラストラウンドだよ。いやむしろラストスローだね、この一投でゲームセットなんだからな」
 潮のツッコミを無視して、竜也は軽く腕を振ってから気軽に投げる。ストン。耳に心地いい音と、20点が引かれて0点になる。ここでゲーム終了。10年振りくらいにプレイしたダーツはおお勝ち。それだけで気分もいいというものだ。周りからの勝負に対する拍手まで聞こえてくる始末だ。
「さて、俺の勝ちだな」
「最初から分かってたくせに」
「まぁよ。悔しがるタマでもねえだろうよお前はよ」
 ムキになって突っかかってくるほど子供ではない潮と遊ぶのは気楽で肩の力が抜け、実はとても楽しいのだ。竜也は懐から万札を数枚抜いてマスターに渡す。
「勘定だ。余ったらチップだと思って取っといてくれ。口止め料込み。他のお客さんの分含む」
 ダーツには夜の魔力があるのだと初めてしった。今夜は家まで帰るのが面倒だと思った。サッサと帰るために強めのアルコールを選んだというのに、少しだけ予定が狂う。そんな夜も悪くはない。バーじゅうの客のぶんの勘定を済ませて二人は冷え込む秋空の下、外へ出る。しとしとと秋雨が辺りを濡らしていて歩くのも億劫だ。足元ふらつく潮の肩を抱いてタクシーを停める。
「思ったより酔ったみたいだ。はは」
「飲みがストローだからな。シャワー浴びればそこそこ覚めるさ。あ、おっさんそこ曲がって300mぐらいで停めて」
「おい、家まで帰らないつもりか?」
「こっちのが会社が近ぇんだよ。どーせ寝るだけなんだからどこも同じだ」


 高級ホテルに入り、各々でシャワーを浴びる。竜也がシャワーを浴びてベッドルームへ行くと、潮がベッドの上バスローブ姿で電話をしていた。明日の待ち合わせ場所の変更がどうのと話している。急に泊まったものだから連絡は早めに、である。
「また成田?」
「地方に飛ぶんだ。モデルの件、降りる前の最後のドサ回りみたいなものさ。私なんぞよりキレイなモデルなんてうんじゃといるだろうに。それついでのPRもある」
「そうか? キレイだと思うけど。オッパイは小さめだけどな」
「余計な一言が多いんだからな」
「モデルとしての話をしてんの。好みとしては俺の手にすっぽり入るから丁度いいかなあ」
 隣に腰を下ろすなり潮の胸をバスローブの上からやわやわと、大きさを確かめるように揉む。そのふざけた態度に笑いながら潮は身をよじって逃げる格好をする。
「どっ、どうしたんだ今日は。いつもと違うぞっ」
 くつくつと肩をいからせながら笑う潮は逃げの格好の割りに楽しそうで、ちぐはぐだ。胸を触る竜也の両手を握って動きを封じるが、からだと体は密着したまま。
「まぁなんか…久々にダーツとかへんなテンションなった」
「ほんっと今日、…へん。そんな竜也も悪くないけどな」
「昔、賭けダーツとかやって遊んでたんだよ」
「おまいは何歳だ……」
 同じ学校にいたときも、行動するグループは違っていた。潮と竜也は仲が良かったけれど、つるむ仲間というそれではなくて、つるむ仲間には楽しいだけの刹那を求めていたのだろうかと潮は思ったりもした。結局、竜也とそんな話はしないままに彼は石矢魔高校に編入して行ったのだが、そのポリシーは今のように髪が濡れて落ちてでもいない限りはパリッと決まったリーゼントに表されているのだから、それでいいのだろう。
「でも気分いいぜ。負けるのは昔から嫌いでねぇ」
「よく知ってるよ」
「さっきの勝負の支払いをしてもらわねえとな」
 その前に、と竜也は部屋の冷蔵庫から酒を取り出してグラスに入れストレートでグイッと煽る。酒に強いのは知っているが今日のおかしな感じからして、かなり飲んでいるのではないだろうか。潮は心配しながらその様子を眺める。もちろん潮も酔っていたが、竜也がいったとおりシャワーを浴びたり外の風を吸ったりしているうちに浮遊感が自然に抜けてきた。量はほとんど飲んでいないはずだ。飲み方に問題があったのだろう。ストローで酒など飲んだこともないし。あれはかなり効く。そういう遊びのことならよく知っているものだと羨ましさと呆れが、潮のなかでは半々だ。
「何じっと見てる」
「飲み過ぎじゃないのか」
「バーで飲んでたときは割ってた。吐くほど飲まないから安心しろ」
 飲み干してから潮のアゴを掴んで唇を塞ぐ。離れ際にねだるように潮は竜也の唇を舌先でつつく。だが竜也はすぐに身体も離してしまう。彼の目にはもう潮ではなくて酒。
「酒の味がする」
「一緒に飲めば酒くさいのは気になんないだろ」
 カラカラと氷を鳴らして、さっきのバーみたいないい雰囲気は持って来られなかったなと薄ら笑いを浮かべる。あの可愛らしい氷のことを聞いたが潮はまったく分かっていなかった。見ろよ。と竜也は文句をいったけれど、また遊びに行けばいいだけのことだ。
「さっきお前がくる前、あの店、久々に行ったんだけどな、雰囲気すげー変わっててさ。あーいい趣味してんなぁって。ナンパするつもりはねえけど、もしかしたら俺、あのマスターと組みたいかも。とか考えてて。ま、名刺は貰ったわ一応」
「そんなこと考えてたのか。竜也もがっつり仕事人だなぁ」
「敏腕プロデューサーっしょ、佐村河内ばりの」
「悪どそう」
「少なくともクリーンだけじゃ生きてけねぇわ」
 自分が金を出してマスターに店をやらせる。暖簾分けよろしく本店と支店。流行りのレトロバーなんて悪くない。それを想像しながらふたたび酒を煽る。
「本当は今日、一人でタラタラ飲むかなって感じで行ったんだけど、あんまり店の雰囲気良かったし、久々にダーツやりたくなったってのもあって、お前を呼んだんだよ。カモりたいのも含めて」
 グラスを空にして、もう一度酒をつぐ。もちろん潮がなんやかんかいってきても飲むのはやめてやらない。どうせこれで飲み収めだ。ストレートでグイグイいけるほど早い時間でもないし、酔いはそこそこに回っている。
「私のことカモるんなら、次は私からの挑戦も受けて欲しいものだな」
「ほぉ、何で?」
「勿論、ナインボールゲットだ」
「……やってんのか」
 キューを構える格好をしながらにいうものだから、思わず竜也も笑ってしまう。
「で? 今日の勝負の支払い、とは?」
「決まってんだろ」
 ふん、と鼻で笑いながら竜也が潮へ手を伸ばす。身を委ねるのは願ってもないことだ。抱き寄せながら額に顔を寄せる。石鹸とかその他諸々のいい香りがするのは気のせいだろうか。その匂いは竜也の身体の奥から欲を呼び覚ます。
「夜のダーツだよ」
 ベッドの上に潮を貼り付けるように押し倒しながら見下ろし、ニヤリと笑う。その笑いは恐れられるものだけれど、家族になったこの女だけは恐れたりしない。笑い返すだけだ。笑い方の冷たさについては潮も竜也もおなじくらいの冷え具合である。
「でも酔ってます、そこそこには。嫌か?」
「夫婦なんだから、普通に誘えばいいのに」
「……うっせーなー」
 どちらが誘ったのかわからないような有様にすぐさま変わってしまう。竜也も潮にはかなわない。男女とか夫婦とかそういうものを超越した何かがあるのではないかと思ったのだが、それが何かも分からない。気持ちの問題というだけなのかもしれない。
 竜也は残った酒のグラスを一息に煽り飲み干した。カラン、という音はあのバーで聞いた音とさほど代わりはないが、見目を含めたすべてがバーのなかとは雲泥の差があるような気がした。気のせいで間違いないのだろうけれど。
「生理とかじゃないよな?」
「はあ?」
「俺はリアルグロは無理だし。体調悪いお前とやりたくないの」
「だから普通に誘えって………」
 竜也は強引に潮にのしかかり、軽く唇にキスをしてから耳を食んだ。それにより潮の言葉は途中で途切れさせられた。耳にかかる吐息が、これからを期待していつもよりだいぶ敏感になっているのが潮には感じられる。それと同時に、冷めつつある酔いのなかで今日の、今の竜也は何かおかしいと理性が告げている。酔いだけの問題ではない。竜也の吐息が少し身体から離れて、のしかかる重みもなくなる。と同時に竜也が見下ろしているのが目に入る。まだバスローブすら脱がされてない状態。答えを待っている竜也がそこにいる。
「生理じゃないぞ」
「あ、そ。じゃイタダキマス」
 トリコばりに返事をしたかと思えば、竜也が首筋に強く吸い付く。あ、キスマークが付く。まぁいいか。潮は繊細な感覚のなか、そんな冷静なことを思ってもいた。竜也はチュッと音立てて唇を離してから、潮を見下ろしたまま口を開いた。
「今ゴムない」
 そんなことはどうでもいい。というか、潮としては願ったり叶ったりだ。そんなことを言う必要も断る必要もないだろうと思ったが、これまで何度となく子供がほしいという話をしたというのに。避妊など望んでいないということをしって、どうして彼はそんなことをいうのだろうか。潮には理解できなかった。だからその目を見てやろうと思って合わせた視線が竜也と潮とでぶつかる。
「実は、酔ってないといえないことなんだけど、」
 こんな前置きをされたら。何がどういうタイミングで来るのかなんて予測できなくなってしまう。そして、その竜也の表情はどこか諦めたような悲しげな目の色だった。だが、その体制は女を食い物にする肉食獣のそれ。どこかちぐはぐで合わない。竜也がいえないことなど、潮に思いつくのは不倫女の存在の告白とか、そんなものだ。
「俺、ヒゲとか体毛薄いのって遺伝だけだと思ってたんだけど、どーもそれだけじゃねえらしくてさ」
 どこにも関係しないその空々しいほどの話題は、なぜか潮に焦りを生み出した。何に対する焦りなのかは分からなかったけれど。ただ、竜也が今まで見たことのないような切ない表情でいることが、どこかつらい。彼と一緒に、同じ気持ちで分かりたいと思った。
「精子、かなり少ないっつーか、ほぼ無いような状態らしいんだわ。俺の場合。ホルモンとか、そういうの足りないみたい俺。詳しく聞いてねぇけど」
 どうしてストレートで酒を煽ったのか。身体を重ねながらこれを告白する竜也のことを、潮は思った。軽々しく、子供がほしいなどと言ったのは彼への拷問だったのだろうかと。むろんそんなつもりなどなくて、それが足枷になるだなんて思わなくて、潮は竜也の身体を押しのけるようにして身体を起こした。ホルモンとか男だとか女だとか子供だとか、そんなものはナシにして気付けば上になっているのは潮の端正な顔立ち。見上げる潮は二枚目とも言えるし美女とも呼べた。それが早くも竜也の股間をサワサワとしているものだから、さすがの竜也も驚いて逃げようとする。
「久しぶりだから、私だって攻めたいんだ」
 いや、なんか違う。竜也は気持ち良くされながらも首を横に振った。だが、やめてもらえそうにない。負けの支払いが別のことになりそうな予感。不妊でもいいんだよ、と潮が言っているのは分かる。こうされることが男として傷つくことなど、きっと思ってもみないのだろうけれど。だが、途中からそんなことどうでもよくなった。快感が今を忘れさせる。ああ、きっとこれが許されたということなのだろうなあ。竜也のペニスをしゃぶる潮の艶っぽい表情が脳内に浸透してくる。避妊具がなくて子供ができてもできなくても、この夜はきっと忘れない。


14.10.22

ダーツ、という遊びから生まれた話だったりします。

実は古本屋で買ってきた爆笑問題の時事ネタ本でダーツが流行ってる!みたいな話を見てピンときました。
ただ、ダーツについては私は龍の如くでしかしたことない(桐生チャンを通して!)ので分からんので、付け焼き刃のひどい知識です。爆笑太田と桐生チャンっていうね……
まあ真に迫った勝負ごとではないのでこれくらいのサラッとした描写でいいかなってとこで逃げてますけど。


丸い氷は、私の恋の話と被せてますw
まあコンビニで売ってますけどね。でも見ると感動ってーか、驚きがありますから。なんか嬉しいような。普通じゃない感じがいいですよ!


姫川の告白については文句なく考えてたネタです。これで事情が複雑になったかとw


本当はちゃんとセクスする予定でした。せめてFくらいはする予定でしたが、文字数もあるのでここいらでw



申し訳ないけど、大人のデートとしてダーツで勝負してからの夜のダーツってのがネタだったのですが、ロマンチックに……なってない会話を入れちゃったのは分かってるよ。わかってる。でも、入れたくなるのだよ。

2014/10/22 22:34:23