恋をしている君は誰よりも美しく誰よりも僕に残酷だ 2




 力だけでは手に入らないものがある。力には限りがある。ただ、欲しいと強く願うことだけしかできなくて、どうしても追いつけない。どうしてもダメなのだろうか。ない知恵を絞って懸命に考えてみた。しかし、思いつく限りのことは、可能な範囲ではほとんどネタ切れだ。どうすれば、彼女は俺に振り向いてくれるんだろう? それがあまりに一時的なものであっても構わないとさえ思えるほどに哀場猪蔵は切羽詰まっていた。葵のことを想って。
 そんなとき妹の千代が冷静に声をかけてくる。
「あにじゃ。それでもいまは、チャンスですわ。あの男鹿がいないのですから。ベル様がいないのは寂しいですけれど。わたくしも待ちますわ」
 分かっている。最初から千代は難しいと言っていた。だからこうして行き詰まるだろうことも読んでいたからこそ、こうして落ち込む兄をみても冷静でいられるのだろう。だが、哀場猪蔵はそんなことを大人しく聞いていられるような精神状態ではなかった。転校一日目にしてノックアウト。早すぎる。
 葵に思いの丈を大声で述べてから言われたのは、断りの言葉しかなかった。言われるのはもちろん分かっていた。だが、いざ言われてみるとへこむものなのだ。ケンカは強いが恋愛ごとにはめっぽう弱い。南の子連れ番長はどこか憎めないところがあった。

「ごめんなさい」
「前にもいったけど、私、好きな人、いるから」
「あなたのこと、考えられない」
「ごめんね」
「悪いけど、そういう目で、見れない」

 謝られることがこんなに痛いだなんて、生まれて初めて知った。生まれ落ちて18年、ここまで胸が痛んだこともなかったろう。フられたのは初めてじゃない。葵じゃなく恋した別の女にもフられたことがある。初恋は早いほうではないだろうか。小学3年くらいだった。クラスメイトの子を可愛いし好きだし、ずぅっと一緒にいたいし、ぎゅってしたい。そう強く思った。早い子はもっと早く恋などをしていたが、それはどこか嘘っぽい話だと思っていた。自分で感じてみるとよくわかる。周りから認められないことであっても、現実に心の中には起こるのだ。そのとき、好きだという思いを伝えた。付き合いたい、とかそういうのはわからなかったので言わなかった。だが、相手の子は急に深く頭を下げた。
「ごめんなさい。わたし、哀場くんのこと、こわいの」
 あれもショックだったなぁ。今みたいな頭もしてなかったし、金髪にもしてなかったはずだから怖くなかったはずなんだけど……。
 悲しいことを思い出してしまい、さらに気持ちは落ち込んだ。最悪のループになりそうだ。沈んだ兄を千代は撫でてやる。こうして年の離れた妹に励まされるのは、意外に悪くなかった。幼い子はとても純粋だから、それを感じられるのはそう悪くはない。
「あにじゃ。おしてダメなら、ひいてみろ、ですわ!」


 引き方など哀場猪蔵には分からなかった。押して押して押しまくる!そんな思いしか彼には持てなかったし、駆け引きなんて難しいものがわかるはずもない。結局、転校しても葵との関係が近づくことも、もちろん遠ざかることもなかった。クラスが違うのももどかしい。レッドテイルのメンバーがガッチリとガードしていることもあり、2人きりになれるようなシチュエーションもない。電話番号もメールアドレスも分からなかった。聞けるタイミングというよりか、自分のものは一方的に押し付けたが、それを登録してくれたかどうかは哀場の側からは分かりようもない。連絡がない以上は。心待ちにしているのだけれど、強要することはできない。もとより哀場猪蔵は筆まめなほうでは、当然ない。だけど好きな人からの連絡なら待ってしまう。ほしいと思ってしまう。恋はいつだって惚れた方の負けなのだった。寝る前に、最後のケータイチェックをしてから画面ロックをした。このところの毎晩の儀式みたいなものだった。


 葵はとてもまじめな生徒のようだった。学校が終わればゴミ捨ても掃除もしているとか。放課後、試しにゴミ捨てにいってみたら、ばったりというのが正しいかどうかは別として、葵と焼却炉の近くで出くわした。久々の2人だけの空間がゴミくさいだなんて、なんという色気のなさ。だが、それも自分たちらしいではないか。哀場は笑いがこみ上げて来た。
「よぉ、久し振り。元気だった?」
「毎日顔は見てるじゃない」
「手伝おうか?」
「いい、自分でやれるから」
 久し振りの再会だというのに、どこまでもつれない葵。だが、そんなことはどうでもよかった。サラサラと流れる黒くて光沢ある長い髪と、輝きを損なわぬ葵の強い意思を宿す瞳が、手が届くほどの距離でまた見られたから。それだけで哀場猪蔵の心は踊った。恋はそれだけ活力を与えてくれている。時間がかかっても、焦らずに少しずつ自分のことを知ってもらい、葵のことも知っていきたい。その上でまた好きだと言えばきっと彼女も違うのだろう。今よりもきっと、こちらを見てくれるのだろう。そのためにはこの時間が限りあるものではなくて、無限に続けばいいのにと強く思うのだった。
「葵」
「何」
「デート、してくんねえ?」
「………」
 照れたような顔をして葵は黙々とゴミを捨て、空になったゴミ箱を来た時のように抱え持つ。それに倣って慌てながら哀場もゴミを捨てて追いかける。追いかければ逃げていくものだけれど、それでも追わずにはいられない。ほしいから。願ってしまったから。好きだから。一緒にいたいと思ったから。それはとても純粋で、まっすぐな哀場猪蔵の気持ち。これをどう伝えれば逃げられずに済むのだろう。
「待てよ」
 追いつめるつもりなんてない。けれどいつもしてきたのはケンカばかりだから、そういう意味では不器用なのだろう。正直で不器用で、ガサツ。だが女性を女性として扱ってくれて、子供の面倒もみている、やさしいかもしれない人。それは男鹿を記憶の中に呼び覚ます。葵は振り返った。そこまでむげにすることもないだろうと思えてしまうのは、彼がまっすぐなせいだ。男鹿によく似ているせいだ。
「せっかく引っ越してきたんだ。仲良くしようぜ」
「そりゃあ………、もちろん」
「だから構えんなって。とりあえず、さ。休みの日、町の案内を、お願いしたいわけよ」
 打算のつもりはなかった。が、後になれば上手いこと言えたものだと思う。渋々ながらも連絡をくれることを承諾してくれたのだから。葵の家は神社なので、それらが忙しい時期でなければ問題はないのだという。巫女姿の葵を見られるのはいつの日になるだろうか。そんなことを考えながら、その日も寝る前のメールチェックをする。まだない連絡に焦れながら、今日も明日の葵に会うために、哀場猪蔵は眠る。どこか胸が温かかった。


14.10.5

これはつまらないのを書いた、というか、書いてしまった感がすごいですねぇ〜、どうしましょうか(笑)

アイバーの前回の最後の言葉について、そのうち書きたいんですけどね。デートですら一苦労だし、まあ私的にはくっつかないと思うんですけどね。
よほど自分を洗脳してかないと、ラブラブは難しいですね。その位置関係が心地いい、みたいなね。
それでも良ければ読むのがいいんかな?とは思いますけどね。


アイバーは野球とか興味なさそう。
男鹿と古市は野球見てワアワア言ってそう。アイバーは場所的にはソフトバンクかなぁ? でも興味なさそう
この流れでいくと東条が阪神w 男鹿は中日ww 古市は巨人かなあ。あ、擬人化じゃねぇよ。応援球団。て、男鹿と東条は名前じゃんww
でも私的には男鹿は巨人じゃなくて広島かと思う。
2014/10/05 11:03:25