またまた浮気な姫川夫妻


 これは初めてではない。だが、まずいことになったと悟る。この場を乗り切るには、この女を誘った覚えはない。だが、一緒に寝ている、この起きた朝はどういうことか。しかも服も着ていない。やることはやってしまったようだ。はぁ、と重苦しいため息をつきながらベッドからゆっくりと身体を起こす。隣に寝ている女は、──欠伸を噛み殺しながら竜也はその女をみた。──数ヶ月前に入ったとかいう派遣か何かの女だったか。そんなにおバカにも見えない、まじめそうな女。もとより興味なんて無かったのにどうしてこんなことになったのだろうか。竜也は眠る女のスベスベの肌を見ながら、その肌のさわり心地が己の手の中に残っていることに愕然とした。傍らに置いてあるケータイとタバコとライターを手にして、またため息をはきだした。これは初めてではない。だが、竜也は暗い気持ちだった。
「……」
 女の息を飲む、声でない声が耳に届く。だが、それに気づかないフリをして竜也はタバコの煙を吐き出す。灰皿に灰を落として、ぼうっとしているふうを装う。かさついた衣擦れの微かな音が響くほどの静けさ。朝独特の静かさ。
「あの、…社長。え、と、おはよう、ございます……」
 弁えた発言に、おずおずとした口調。そういえばこの女は竜也を社長と呼ぶのだった。昨夜、あれの最中は何と呼ばれたのか、まったく記憶にない。ふつうに考えると、社長って呼ばれたら俺は萎えるな…。そんなろくでもないことを思った。仕方がないのでゆっくりと女のほうを見た。女は竜也の記憶の通り、取り立てて美人ではなかった。鼻筋は通っているけれど、顔立ちがいいといえない、ふつうの女と評すべきだろうか。髪は長めのボブ。いくらか色は入れていてこげ茶ぐらい。痩せ型。色白。若いせいか薄化粧。この辺りは好感は持てるけれど、セックスしたいと思う女というタイプではない。鼻は高いが他の部分は並、以下かもしれない。純日本人的な顔立ちというべきか。
「あの………」
 女のか細くて小さな声。言いかけたけれど途中で遮る。竜也はわざとそうしている。余計な言葉は聞く必要もない。
「ああ。服、着ろよ」
 ベッドの脇に散らばる服がなまなましい。だがつとめて一切私情を挟まないような形で、サラッと言い切ってしまう。そして竜也は女の顔も見ずに、服を着る女の様子をチラ見もせずにタバコを灰に還していく。竜也の考えが思い込みでなければ、深入りは禁物だ。最後の煙を吐き出して、竜也もまたいそいそと服を着始めた。サッサとここを出るのが得策だ。タバコを揉み消してサッと立ち上がる。スマートに別れるためだ。言い方は悪いが酒の勢いのワンナイトラブというやつだ。やっておいて何だが、竜也には興味がなかった。むしろ面倒に巻き込まれたくない。
「お疲れ」
 出てみればそこは、高級なシティホテルだった。遊びの女にでさえも安いラブホに誘わないところが竜也らしいというべきか。ホテルの前で「じゃ」と短くいって別れた。相手の顔は最後までほとんどまともに見なかった。後ろめたい気持ちは抑えられない。この気持ちで家に帰るのか、と思うと気は重かったが仕方ない。足取りも重いが帰路に着いた。たぶん家には使いのものしかいないだろう。



「お帰り」
 こういう時に限って、なぜか女はいる。これはよく聞く昔からの謎のようなもので、奥さんはいつもの笑顔で出迎えくれる。朝帰りの旦那を見て何も感じていないかのように、さも当たり前のことのように。だから考えていることなどまったく分からない。気づいているはずないという思いと、気づかれたんじゃないかという思いのせめぎ合い。もちろんばれたから何だというのだ、そう思う気持ちは竜也の中にある。だって、これは初めてではないから。過去にも流れで浮気の事実はあった。流れは流れだ。どちらから誘ったとかそういうことではなく、そういう色っぽい雰囲気になってしまったので、そのままホテルに流れていっただけだ。男女がホテルに行ったらやることなんて決まっている。だからやった。後腐れのない悪くない女。
「珍しいな、休みか?」
「ああ、今日は午後から会食。ご飯は食べてきた?」
「二日酔いだから食欲ねえ」
「体が資本なんだから気をつけないと」
「わかってる」
 夫婦なのにあまり会わない。仕事の大元は一緒だが牛耳る場所が違うのでそれぞれに忙しい。まともに会話するのは数日ぶりでどこか懐かしいほどだ。連絡はLINEなどのオンラインが多く、同じ家に住む家族とは到底感じられない。どちらかといえばビジネスパートナーという感じしかしない。だからといって夫婦であることが嫌だというわけではない。もはや結婚して数年経っているし、家族であるからこそそう感じないものなのかもしれない。
「おい、仕事の話していいか?」
「…ああ、構わんよ」
 竜也はリビングのソファに寄りかかり座ってタバコを咥える。灰皿は手繰り寄せる。潮はタバコを吸わないが、周囲に喫煙者は多いため特にどうこういうわけでもない。
「お前、ソシャゲのプロジェクトやってみろよ」
「?! この前、ノウハウ勉強してからやれって…」
 スマホIT産業には彼らの会社もすでに手を出している。スタンプ販売を含め、ソフトウェア面と、ハードは出資もしている。姫川の好みで過去からApple社の株はそこそこ保有している。株の話は昔から潮としたものだが、近頃はゲーム制作なども課金で儲けられると話をしていた矢先だった。だが今までの経歴から潮は完璧主義なのでソーシャルゲームには合わないだろうと思い、それを堰き止めていたのだ。
「そりゃ変わらない。まず俺に計画書持ってこい、見てやるよ。そこでGOサイン出せりゃやってみればいい。ただ、俺はシビアだかんな?」
「どういう風の吹き回しだ?」
「なんとなく、見てみたくなってな」
 潮の顔を見たら本当に「なんとなく」そう思ったのだ。理由なんて竜也にも分かりはしない。ただ、潮が任されると聞いたときに凛々しく、昔のように笑ったことに安堵した。



 平和な日々を送っていた。潮とはソシャゲの話はまだ進んでいない。竜也がいるときは彼女は仕事の話はしたがらない。夫婦でいるときにはあまりしたくないようだ。なので、計画書ができるまで話はしないつもりだ。そちらは止まったまま、お互いの仕事の日々は続いていた。社長もなかなか忙しいものなのだ。日本にいられないときもある。竜也は、車での移動中にメールチェックをしていた。欠伸で涙目になる。しかし、大口を開けたまま時が止まる。潮からの連絡。
【おかしな女から連絡が来た】
 …テンサイは忘れた頃にやってくる。そんな言葉が頭の中を駆け巡った。本当にすっかりと忘れていた。派遣の女であるし、会うこともなかった。個人アドレスとかそういった連絡先など、調べようと思えばできたが、そうする理由もなかった。そもそもあの女のことだって、潮からの連絡を見るまですっかりと頭から抜け落ちていた。そのくらい気のないことだったのだ。だが、竜也が感じていた違和感のようなものは確かだったのか。だからこそ忘れたかったのかもしれない。だから忘れていたのかもしれない。うまく頭から押し出してしまって。
「帰りのタクシー、早めに回しておいてくれるか。今日は仕事終わったら家に帰る」
 運転手にそれだけいった。素早く右手では潮に返信を打ち込んでいた。面倒は早めに摘んでしまおう。



「おーい、帰ったけど」
 闘うことになるのか泣かれるのか、考えてみたけれど竜也にはよくわからなかった。ただ、必要だと思うのは真摯な態度だ。あとは今日何があったのか、それを聞くことも。初めてではないことが逆に気を重くしていた。あの時、失敗したと思ったのだ。そしてそれは間違いではなかった。思っていたより人を見る目は、いろんな人に会う中で磨かれているようだった。
「竜也、お帰り」
 潮はシャワーを浴びて上がってきたところだ。まだドライヤーを当てていないので髪が濡れてシャンプー、リンスの香りをぷんぷんと振りまいている。普通ならこんな妻がいれば喜ぶのだろうなぁ。竜也はぼんやりとそんなことを思った。我ながらダメ男である。
「寿司、買ってきた」
「ではそれを頂こうか」
 二人きりの食事は久しい。夜などと言えば数ヶ月は一緒に摂っていない。懐かしい夜というのはいいすぎだろうが、そんな言葉が二人の間にはぴったりだった。竜也はすぐにテーブルに、帰りに握ってもらったテイクアウトの寿司をそこに広げた。すでにテーブルには二人が好む白ワインが用意してあった。寿司とワインって組み合わせとしてはどうなんだろう? 一瞬迷ったが飲んでしまえばあまり関係ないことは竜也がよく知っている。手だけ洗ってから腰を下ろした。
「頂きます」
 他人と摂る食事はどちらも珍しくない。会食などでは摂るからだ。上の立場にいれば他人と食事をすることが増え、それに反比例して家族との時間も食事も減っていく。寿司を咀嚼しながら、二人の目が合う。どことなく居心地が悪いと思ったのは、今日わざわざ帰宅した理由が理由だからか。気持ち悪いくらい潮は責め立てるような質問をしてこない。
「時期だし、サーモン脂のってるわ」
 高級食材なんて食べ飽きてる。けれど旬のものは美味い。四季は食事の楽しみを倍にしてくれる。この時期じゃないと味が落ちると思えばこそ、余計に旨味を感じるようになるのだ。子供の頃では感じられなかった気持ちだ。少しは大人になったのだろうか。二人は思い思いに他愛ない会話をしながら軽い食事を済ませた。どちらも大食感というわけではないので、寿司の盛りももとより少なめである。それすら残して彼らは、二人でソファに寄りかかっていた。腹が膨れると、気力も失せる。様々な意味で。食後のタバコを吹かしながら竜也は潮をみた。どう切り出すか、そればかり考えていたというのに頭の中は言葉にも形にもならない。だが言葉を発さないわけにもいかない。
「女から連絡がきたっつー話のことだが………どんな内容だったんだ?」
 触れたくないことに一生触れずに生きていけるのなら、人間はきっと楽で優しくてギスギスしない。けれど、そんなことがどれだけ甘いことなのかということは分かっているから。それは逃げでしかないということが現実だから。背は背けるものじゃなくて、ついていきたいと思わせるためにあるのだ。
「私のオフィスに電話が入った。女の声だった。名を、カドカワと名乗ったっけな…。離婚してほしい、と」
「………まじかよ…」
 竜也は額を押さえて、深く溜息を吐き出した。間違いなくあの時の派遣の女。静かそうなのにとても粘着質。
「竜也。お前は約束したそうだな? その人と一緒になると」
「してません」
 すんなりと口をついて出てきたのは即答。これは予想よりももっと面倒な何かになってしまいそうだ。潮の様子がいつもと違う。冷たい空気が辺りを凍りつかせるみたいに、辺りは張り詰めてきている。これは怒っているということだろうか。過去にないことなので判別すら難しい。
「私のことはどうするつもりだ?」
「どう、って…どういう意味だ」
「別れたいと、思っているのか?」
 まっすぐに見てそれを聞くのはどう考えても男が苦手なシチュエーションだ。照れくさくて気恥ずかしい。答えなんて考えるまでもなく、Noなのだから。分かっていてきっと潮はまっすぐに見つめてくるのだ。竜也は静かに首を横に振ってその話は間違っているという意思を示す。
「だが、手を付けたのは事実なんだな?」
「………多分」
「たぶん?! なんだそれは!」
「飲んでたから。次の日二日酔いだったし……泊まったけど、記憶はねえ」
 触れた覚えはあるけれど、酩酊していれば混同していたかもしれない。というか、そうであってほしいというのが本当のところで。実際にセックスにまつわる面倒な話なんて遊びでやらかしたことをホイホイ語るやつはいないだろう。そもそも覚えてもいないことを語れるやつはただの妄想族である。
「お、お前…、もし何かあったら……どうするつもりだ!?」
 初めて見たかもしれない。潮が取り乱すところを。もう目が真っ赤で、今にも涙がこぼれそうで、身体は震えていた。見ていて痛々しいほどに弱い生き物に映る。こういうふうにしてしまったのは竜也自身で、胸を突く思いに駆られる。そんなつもりはなかったが、そうしてしまった。手を差し伸べて抱きしめてやるべきかどうか、一瞬迷ってしまうと何もしてやれなくなってしまう。
「すまない。俺が悪かった…」
 心の底から出た謝罪の言葉だった。謝ったからどうなるのか、とてもじゃないが想像もできない。潮が言っているのはそういうことではない。
『もしもその女と竜也の間に子供ができていたらどうするつもりだ?(その時は、潮はどうなるのか)』
 こう聞いているのだ。質問の意味も、それが竜也を責める言葉だということも、すべて分かっていた。けれど、謝ることしかできないのは自分がちっぽけな証拠だと竜也は思った。潮は俯いて、頬には透明で哀しい雫が垂れてゆく。そこには哀しさも悔しさもやるせなさも、いろんな負の感情が入り混じったものがあった。
「白黒だけは、ハッキリさせねぇとな」
 竜也がそんなことを言うので、泣きながらも潮は顔を上げた。
「その女の連絡先教えてくれねぇか。俺は知らないんだ。話をつけにいく」
「話、ってどういう………」
「テメーは黙って見てろ。俺がそんな連絡先も聞かないような女なんか選ぶかよ」
 泣く妻を慰めもしないで竜也という男は、いつものようにワンマンぶりを発揮しだす。少しだけ疲れの浮いた顔をしていたが、口元にはいつものような何か企みを隠したかのような笑みに似せた歪みが浮かんでいる。こんな表情をする時は、実はあまり余裕がないということも潮には分かっている。幼い頃からいつもよきパートナーだったからだ。知らないことはほとんどない。どうしてだろう、夫婦になってからのほうが二人は遠い。
「私は竜也とあの女を軽々しく会わせたくはない」
「じゃあお前も一緒に来たらいいじゃねぇか。俺は引っ掻き回すなと言ってやるだけだ。聞きたきゃこいよ」
 結婚して5年も経ってから初めて感じる嫉妬心に、正直いうと潮自身がとても驚いていた。これまでこんな当たり前のことを感じることもなかっただなんて、どこまで自分たちは普通の夫婦とか恋人とか、好きとか嫌いとか、そういうものからかけ離れていたのだろうかと改めて驚く。


 女を呼び出してから小一時間後、竜也と潮は二人で六本木のバーにいた。その女を待つためだった。二人が席についてそんなに時間を置かずに女はやって来た。さすがに潮の姿を見ると、顔色を変え迷った挙句に席の前に立ち深くお辞儀をしてから向かいに座った。さっきまでタジタジだったはずなのに、向かいにくるなりそんな態度はなりを潜め、潮に対する殺気にも似た気迫をヒシヒシと感じる。これだから女は怖い。長居は無用だ。竜也はすぐに口を開く。女どもがギャーギャーと喚くかもしれない。いろいろなことを想定しておくべきである。
「うちの奥さんのとこに電話よこしたそうだな?」
「もちろんです。だって……社長、メールしてもまったく、返ってこないし…社にもいないみたいでしたし」
「メール? 知らんし」
 そもそも教えていないだろうとケータイを弄る。やはり来ていない。そしてふと思い当たる。社内メールかもしれない。
「社内便…か? それなら俺はタッチしない。秘書が見て必要ないから消してるか、もしくは迷惑フォルダに自動で入ったか、のどっちかだろ。まったく読んでもねえな」
 要らぬメールのチェックほど時間のロスはない。フィルタをかけているし社内便はほとんど秘書が確認作業をしていて、必要なものだけ連絡がくるように手筈は整っているのだ。どこまでもビジネスチックで冷淡で事務的な竜也の言葉に女はショックを受けて顔色を変えた。それはそうだろう。自分が思いをしたためたメールは、当人に届いてすらいないのだ。
「ところで、俺を担ごうだなんてとんだ女だな。テメーはよ」
「どうして、そんなひどいことをいうんです……」
「俺は、お前と寝てなんていない。俺は手を出そうとしてもいない。テメーの電話は狂言だ。訴えても構わないんだぜ」
 女の顔色も、潮の顔色も変わった。竜也の言葉は確かな響きを持っていて、それが事実であることを示しているようだった。さっきまでの余裕のない様子はなんだったのか。役者になったものだと潮は内心かなり驚いていた。
「ホテルに問い合わせた。俺がキーを借りた部屋は二つ。ダブルの部屋をわざわざ二つ借りたんだそうだ。ま、俺は狭いベッドじゃ寝たくないんでな。そしてフロントの人はそのキーを、俺とお前に渡したことを覚えていた」
 竜也は一人であってもダブルベッドに寝る。キングサイズがあればそちらに寝る。そういう暮らししかしていないのでシングルベッドはベッドではないと思っているだけなのだ。女とニャンニャンしたいからダブルベッドにいくわけではないのだ。つまり、最初から女に手を出すつもりなどなかった。そして、竜也は部屋で眠っていた。そこに女が行ったというわけだ。ひと部屋は空っぽだったというわけ。もちろんオートロックなのだからどうやって入ったのかという謎は残る。しかし答えは簡単だ。ひどく酩酊状態の竜也を部屋に送り届け、そのキーを持ったままもう一つの部屋にいく。部屋に行ったり来たりできるのは女だけだ。女は姫川竜也と寝たという既成事実を作ることは簡単にできたのである。それを指して竜也は「俺を担ごうだなんて…」と揶揄したのである。
「大して飲んでもねえのにあれだけ記憶が飛んでる辺りがとてつもなく怪しい…。んな状態で勃つとも思えねえが、それは何とも言えねぇわな。俺は医者に調べてもらう必要があると考えてる。時間が経ってはいるが事件性があるとなりゃ、連中は躍起になってやるだろうよ。眠剤でも出てくりゃお前逃げらんないぜ」
 どこまでも冷たく、突き放すような言い方をして竜也はその場で立ち上がる。女は真っ青な顔をして震えている。汗をたくさんかいている。今までの言葉には思い当たる節があるのだろう。心理戦ではどこまでも強いポーカーフェイスの竜也。
「どうしてこんなことをした。事情次第では警察に突き出してやる。俺に落ち度はねえ。出るとこ出たって恥も照らいもねえんだ」
「…っ、うぅっ、ごめ…、ごめんなさい……」
 女がその場で泣き崩れた。降伏宣言だった、何もこんなくだらないことで死刑宣告を食らう必要などないのだ。何よりこんな派遣社員のちっぽけな女が、かの姫川財閥の御曹司をどうこうできるはずなどないのだ。だからといって甘く接することは竜也のポリシーに反する。刃向かうものはすべて全力で相手をしろ。これもポリシーの一つだからだ。負けた女は泣きながら謝った。どちらにせよ姫川の息のかかった会社にはいられなくなるだろう。
「あの時の、飲み会で…私は、社長のこと、すごく素敵で、いいなって…。奥様のことだって、有名だし分かってました…。でも、気持ちが抑えられなくて、それで私…」
 竜也が周りを見回すと、周りからの好機の視線が自分たちの席に突き刺さっていた。しかも竜也と潮は顔が売れているのである。またやってしまった。マスコミの格好の的。明日の一面はほぼ決まりである。それでもなお女は泣きながら続ける。これはある程度吐き出すまで止まりそうにない。待ち合わせ場所のチョイスをミスした竜也の失敗である。そこまで人がいないのがわずかながら救いではあるものの。
「社長…! 私、社長のこと、好きになってしまいましたっ…。ご迷惑は、おかけしません。でも、好きでいて、…いいですか…?」
 マスコミよ、頼むから間に合うな。竜也はそう願いながら冷たく女をあしらった。片手は潮の手を握って。
「既に迷惑だ。俺はコイツ一筋なんで。コイツにも迷惑かけるなよ。ま、一生そんなこと、させねぇけど」


愛囚ネオン



▼ちょっとだけおまけ▼

 その瞬間、周りから拍手喝采だったとか。潮が喜びのあまりその場で抱きついて泣いちゃったとか。そこでキスコールがかかって、ノリでチューしちゃったのを見て、女は泣きながら走り去ったとかなんとか。
 次の日のマスコミのなんちゃらで、昨今のイケナイ不倫ブームは最低だというトレンド風が吹いたとか。姫川竜也がまさに若いお姉ちゃんらのハートを射止めちゃったとか。
 これこそおおごとになったとかならないとか。それはまた別のお話し。


14.09.25

流れが途中で変わってしまった、あんまり面白くない(笑)姫川夫妻の話です。
なんかスンマセン…(おいも謝っとく)


深海にてでも浮気の話を盛り込んでいて、たまたま時期被ったので変えたのもあるんですけど。

で、割と我が家の姫川夫妻シリーズ(って勝手に呼んでる姫川と久我山が夫婦な話)についてはコメント頂くんで、その中で多いのが久我山さん幸せにしてあげてーってやつ。まぁ分かるけどさw
ただ、我が家の久我山さんは(いろいろと)欲しがりなんでたいへんなのよ。子供だけ欲しがってるわけじゃないからねw
まあ最後の言葉の意味に込められてることを理解すれば久我山は幸せなハズ!
あと、手前勝手な話ですが振られるんならこれくらいこっぴどくしてほしいなっていう勝手な考えもありまして…。姫川には男になってもらいました。
ちょっとだけ私の恋愛感も踏まえているかと思います…。

最後の解決にいくまでかなりグダグダしてしまったのは申し訳ないです。ここいらないんじゃね?みたいな場面もあるかと思いますが、結局は最後の姫川の言葉にかかってくるのかなぁと。
本当はもっと直接的に言う予定だったんですが、場面的にも合わないもんで、あのくらいにしました。が、嫁としては十分だよね…??(だめ?足りない?)


姫川夫妻はまた何かあるかと思います。まだ子どもどうこうでももだもだする話もあるかもしれません。てきとーによろしくです。

title:if07
2014/09/25 14:21:45