鼻歌を歌いながらいつものようにだらしなく落ちたまま濡れた髪をワシワシと拭く。朝はいつも寝癖でボンバってるので、それを洗面所で濡らしてまっすぐにしてから、髪型を整えることから彼の朝は始まる。あくびはまだおさまらないが、これもいつものことだ。あくびをしながら濡れた髪を軽く拭って、櫛を通す。これでまっすぐにする。俺はワイルド系が似合う男なので、というより、そう言いたいだけなんだが、ワイルドになりたいわけ。高校生で、しかも子連れ番長だなんて言われてる俺だ。とは言っても年の離れた妹の面倒を見ているというだけのことだ。べつに俺の子供じゃないというのに、子連れとは恥ずかしいあだ名がついたもんだ。学校のことを思いながら溜息がもれる。だが今日目指すのは学校じゃない。だから髪の手入れはいつもよりうんと時間をかけて気合を入れなきゃな。俺は髪に櫛を十分に通してからドライヤーを片手に、スイッチを入れた。轟音と淡い熱風が髪を、俺の顔を吹き付ける。これは毎朝の儀式みたいなものだ。妹の千代はこの音は嫌だと文句を言う。寝ている時にこの音が鳴ると、悪い夢を見るのだとか。俺はそんなこと言われるのは嫌だから、ドライヤーをかける前に必ず千代を起こすことにしている。櫛を入れながら形を整えていく。今日は流れるようなソフトな感じに仕上げたい。風を髪に当てながら、左右が対称になるようにうまく湿気を飛ばしていく。流れはなるべく同じように自然な流れにするように、鏡で流し具合を確認しながら、何度か見直す。気に食わないところがあれば湿っている今のうちに直してしまう。前髪も軽い感じで上げる。だが、今日は少しワイルドに前髪は少し多めに残すようにする。あとはワックスで固めて落ちないようにしてしまう。仕上げは後ろ髪も含めてケープを吹き付けて、全体の様子を鏡でチェックして完了。気に入ったその形になるまできっちり乾かすのはよしておく。形に不満がなくなってから、最後に全体にドライヤーをあてて仕上げ。今日の髪型は決まったな。
「ふふっ…、兄さま。ずいぶん気合が入ってらっしゃるのね、千代が見ても丸わかりですわ」
 俺は声のほうへ目を向けた。そこには顔を洗いに来た千代がいた。ませた笑みを浮かべて、今日のイベントを楽しみにしていると言わんばかりにしている。もちろん千代は知っている。どうして俺がこんなおめかししているのかということを。女っていうのは、子供も大人も関係ない。本当に色恋の話にはすっげぇ敏感だよな。俺は千代のそういうところには本気で叶わないとしか言いようがない。
「当たり前だろ。俺の大好きな邦枝葵と、デートの約束を何とか取り付けたんだからなあっ!」
 向こうとしたら渋々という感じだったのは、俺だって分かっている。でも来てくれないよりはずっといい。あとは会ってくれた時に男を見せるしかないだろ。だから俺はできる限りかっこ良くしたいってわけだ。さあ、待ち合わせのカフェに行こうじゃねぇか。男らしく、な…!

14.09.14

哀場猪蔵はアイパー(髪型)じゃないですが、あのソフトリーゼントをつくる様子を書きたかっただけです。
特に意味はありません。

最近ひどいかなww

2014/09/14 19:55:37