金は天下の回りもの、とはよくいったものだ。姫川はその言葉を聞くたび笑ってしまう。それならば、俺たちが天下を回してるんじゃねぇかよ。笑えてしょうがない。ただの高校生のガキだ。まだ、一人では銀行と契約もできない、ただのガキだ。親の署名とかそんなものが必要な。だったら、この金は何なのだろう、バカバカしい。姫川は預金の金額をぼやっと見ながら溜息を一つ。ATMで下ろせるのはどこかのバカヤローのせいで50万円までに減らされてしまった。先ほど下ろしたばかりのその金額は、今は姫川の尻ポケットに何の躊躇いもなくゴシャッと入れられている。今から姫川と久我山の二人でやる「祭り」にはとても邪魔だったが仕方ない。Suicaのカードを手持ち無沙汰にクルクルと回して弄ぶ。通帳をしまってからスマホをいつものように操作した。フリック操作もお手の物。以下、久我山とのやりとり。

どこでやる?
>渋谷の109辺りでいいんじゃないか?
なんでそこ?
>人が集まるから
ガキかw
>お前がな
じゃ向かう
現地集合1時間後、OK?
>了解

 石矢魔なんて片田舎にいるのは、姫川の趣味を満たしたいからである。一方、久我山は23区在住なので渋谷からは目と鼻の先に住んでいたはずだ。首尾は上々、あとは「祭り」を起こすのは彼らの行動だけだ。憂さが溜まったらそれを何とかしたくて、ガキどもは何かを起こしたくて堪らなくなる。この世を支配なんてしてしまっても、きっとこの気持ちがなくなることはないだろう。だから、めちゃくちゃにしたいとか、めちゃくちゃになりたいとか、そういう暴動の衝動を抑えきれない時がある。それは子供なせいだろうか。姫川はその衝動に勝つことなどできはしない。ただの「祭り」だ。してはいけないことをするわけではない。暴れたい気持ちに、金を乗せたら人はどうなるのだろう。ただ、姫川は見てみたかった、それだけだ。そのために、日にちをかけて金を1億ほど下ろした。無造作にそれはカバンの中に入れられていて、姫川は渋谷へ向けて電車に乗った。この短い旅はきっと心に残るものになるだろう。久々に心が踊った。自分たちが咎められる可能性があることも分かっていた。けれど、そんなことはどうでもよかった。


*****

「よう、久しぶりだな」
 久しい友人との再会。それは先のやりとりでも分かるように渋谷の109の屋上であった。二人は大荷物を持っていて、それは姫川と一緒に集めた大金だった。幼いうちに手に入れてしまった富。だから金がないものの気持ちなど分からない。そういった意味で二人は同調し、分かり合っていた。だが、久我山にはきっと姫川の感じている衝動はないだろう。それでも、一緒に行動してくれる、その友人としての好意は嬉しいものだった。持つべきものは最高のパートナーや友達だ。もちろん小っ恥ずかしいので言わないけれど。
 姫川はカバンを少しだけ開いて中身を見せた。久我山はちらと見えたお札たちを見て眉をしかめた。声も「うあ」と少し不快そうなものもでていた。やはりあまりに無造作に詰め込まれていたせいか。姫川のほうが久我山に比べズボラだ。だからゲームを作るにしてもデバッガは久我山の役目になる。プログラムは大丈夫なくせに、整理されていないと落ち着かないのだとか。まったく面倒なやつである。久我山がちらと見せたバッグの中はきっちりしたものだった。そんなことなど意味がないというのに。
「さて、やるか」
 姫川は屋上から下を眺める。高所恐怖症のやつは倒れてしまうだろうが、姫川たちは慣れたものだ。高層マンションに住んでもいるし、高いところから見る眺めは好きだ。人が人でなく、アリや虫のように見えるサマは実に爽快だからだ。その光景を変えてやるには、札を投げ込んでやればいいじゃない。姫川はぐしゃりとカバンの中の札を引っ掴んで、それを道へぶん投げた。
 天下がなんだ。金がなんだ。群がる虫が騒ぎだす。胸がスッと落ち着く。金をばら撒きながら、混乱していく眼下の世界は実に混沌としていて、こんな世界など要らないと思った。笑えて仕方ない。群がる虫が騒ぎだす。久我山の横顔が、どこか曇っていた気がした。


14.09.08

久々に、姫川と久我山コンビの、カップルじゃない話

109が出たのは、たぶんカオへのせいですごめんなさい又やってます。あとはトゥルーのみ(やっぱり七海たんとチュッチュしたいよう!)


金を投げるなんて、人間一度はやってみたいよね!胸もスッとなるだろうな!それより金無いからむりなんだけどね!みたいな思いで書きました。ただの願いですw

こんな感じの単発をしばらく書いて行きたいなぁ…。みなさまいかがですか?

2014/09/08 09:12:50