※デュオデシム設定X


 捕まるなどと思っていなかった。だが、予測はできていたという態度だ。男は、息子に殺されるためにここに来た。彷徨える息子の魂は、ただひたすらにゆうらゆうらと漂っていて、その様があまりに痛ましかったから、黙ってなどいられなかった。それだけのことだ。きっとあいつらは笑うんだろうけど。その「あいつら」はここにはいない。

「待って!」
 行く前に呼び止められたけれど、止めてもムダだと笑ってやった。からからと、できる限り明るく。同じ過去を憶えている、そして数少ない共有できている仲間だ。だから、時代は違えど同じ痛みを伴っている。勿論だからこそ止めるのだろうけれど。その言葉だけは聞けない。
「ジェクトさん!」
 ユウナがジェクトを呼ぶ。ジェクトの向かう先は、黒い想いを抱えた息子、ユウナが初めて想い、その想いを通じ合ったティーダ、その人の元だったから。彼らが会ってしまえば黒い想いは増幅して、きっとどちらも無事では済まされないだろうから。
「カオスに支配されている今のまま行ったら、ジェクトさん、貴方の身が……」
 ユウナが止める理由はわかる。だが、父親というのはうまういかないものだ。ユウナの父親であるブラスカの姿がジェクトの脳裏に浮かぶ。素直で、やさしい父親としての理想像。あんな父が自分の元にいてくれたなら、きっとティーダに対してもう少し素直になれたのかもしれないが、もはや時は戻すことなんてできやしない。
「カオスに堕ちやがったのは、俺のせいでもあんだよ。気にすんなユウナちゃん」
「ダメ!行っては…」
「俺が止めねぇで、誰が止めるよ? じゃあな」
 きっとこれから息子に殺されるだろう。ジェクトは今から自分の身に起こるであろうことを思案していた。けれど、死を嘆くわけでなく、ただ息子を連れ出しに、助けにいくだけなのだと心の中でしつこいほどに何度も何度も言い聞かせて。恐怖がないわけじゃない。だが、トドメを与えてくれるのがそのへんの馬の骨じゃないだけ、この世界で転生してよかったと思えるのではないだろうか。きっとこのために短い時をコスモスの側で過ごすことになったのだから。息子を思う気持ちは、きっとクリスタルになる。

「来たな!アンタを倒す」
 その憎悪をすべて父ジェクトへと向けて。母の泣き顔、笑い顔、それが自分へと向けられなかったことをすべて父の存在のせいと呼んで。それはあまりに悲しい親子の再会。手にした水滴を浮かべた剣は、すぐにジェクトに向けられた。
「はっ」
 ジェクトは鼻で笑いながら、そんな成長してもまだ子供のようなあどけなさの残る息子の様子を見つつも、相手から身を離し距離をとった。ジェクトも体制を整えながら自分の赤黒い剣を抜いて、それを宙に向けて投げた。まさかそんなことをするとは思っていなかったので、ティーダは驚いた表情も隠さず動きを止めた。ジェクトは宙で停止した剣の上に飛び乗って高笑いした。いつかの懐かしい光景に似ている。遠い記憶。ジェクトが究極召喚だった頃、息子はその剣の上でジェクトを殺してくれた。それをジェクトが願ったから。
「剣が足場ってなァ、面白れぇだろ?」
 すぐにその足場を蹴って猛スピードでティーダへ向け突進した。咄嗟のことでティーダはジェクトのことを避けられなかった。頭をしたたかに打ちつけながら地面を背にして転ぶ。ティーダの体の上にはジェクトが馬乗りになっていて、思うように身動きが取れない。剣と剣とのチャンバラを予測していたティーダはすべてが読めなかった。これではただの喧嘩ではないか。握り拳をつくってジェクトは構えている。余裕の表情が苛立たしさに花を添えるかのようだった。ティーダはもがいた。暴れた。子供みたいだと分かっていたが、これは真剣勝負なのだ。ティーダの心の中では。
「そんなんじゃあ、ジェクト様には勝てねえよ。なんたって俺は強いんだからな」
「っざけんな…!俺はあんたを倒したくて」
「あーそうかい、残念だったな坊ちゃんよ」
「るせっ…!」
「まだまだヒヨッコだあな」
 手を出そうとしないジェクトに焦れて、手放さなかった剣は憎悪の掃き溜めと化した。黒く濁った想いがティーダの負けたくない、勝ちたいという思いにさらに一石投じることとなる。コスモスの力が辺りに宿った。コスモスの神なる慈悲の心。それが仇となってジェクトの動きを止め、ティーダへと力を与えた。それは一筋の光となってティーダの咆哮となる。
「うああああああああ!」
 ティーダの剣が、ジェクトの脇腹に深々と突き刺さった。きっと、こういうことなのだろう。慈悲は一方的に負けた方にのみ与えられる。実力は運に負けることもある。ティーダが深く剣の切っ先をねじ込むと、やがてジェクトの体からは力が抜けて、馬乗りになったままくたりとその場で崩れ落ちるようにへたり込んだ。ここからは簡単だった。ティーダは剣から手を離してジェクトを押しやり体を起こす。そうしてから血に染まった剣をジェクトの体内からずるりと引き抜いた。大量に噴き出す赤黒い水分は、まるでティーダの怨念のようだ。
「おめぇ……そこまで」
 口からも血を吐きながら、悲しい目を向けるのは弱々しくなったティーダの父の姿だった。もう『シン』ではないけれど、もはや憎むべき何者でもないけれど。それでもここまでカオスに身を堕とした息子の姿は心に痛い。どうすればよかったのだろう。目の前でぼやけるティーダは悪魔のように笑っている。何度、父に怒りを覚え、何度父を殺せばいいのだろう。この死の螺旋は親では解けないのだろうか。ジェクトは冷えゆく体を横たえながら、悲しみにくれていた。
 息子は笑っている。親が先に死ぬのは道理で、だが、誰がこの彷徨える魂を導いてくれるのか。ジェクトは命絶える直前に血の涙を零した。それが地面に落ちる前に、一つの結晶となって、ティーダの前に転がり落ちた。赤く、悲しいクリスタル。
「ざけんな! こんなもの! お前ばっかり! どうして!」
 ティーダの怒りは産まれたばかりのジェクトのクリスタルを割った。血ではティーダは救えないのだろう。駒は一つ消え去った。コスモスもまた涙した。早くこの螺旋を。ユウナも泣いた。


14.08.27

久々にFFアップ
しかも何故だよDDFF(笑)イミフだしww

ジェクトは私の中では悲劇のヒーロー初代ですから。二代目はもちろんティーダくん。
DDFFの話は覚えてないんで、特に12回目の戦いのつもりもないんだけど、ティーダがカオスサイドにいたのは結構当時ショックだったんですよ。で、アクションシーン書きたいのもあって短いのチャラチャラっと打った感じです。
そしたら思ったよりアクションシーン書けてなかった……!(それじゃだめじゃん

べるぜばっかりで飽きられそうだったしw
FFXは相変わらず好きなんですよ〜


また親子もの書きたいのう


くせのない息子とくせ者のオヤジなコンビ大好きすぎる件について。

2014/08/07 11:46:54