深海にて15

※ ぬるえろde激甘(めさ頭悪いです)


 どうしてこんなことを急に思いついたのか。ひたすら一点だけを緩く責め続ける男鹿の、今まで見たことのない欲望に葵は圧倒されていた。そして溺れてもいた。もうどうしようもないくらいに嬲られて、くにゃくにゃになっているけれどもそれ以上もそれ以下もなく、ただ与えられるものを甘受するしかできない。だってもう、言葉だって赤子のようにままならない。言わせてくれないくらいにすっかりはまり込んでいた。身体は逃げようとうねるけれど、それをさせてくれない今日の男鹿はひどくいやらしい男だ。これまでに感じたことのないくらい。

 恋人になってしばらく経つ。けっこう長いことプラトニックというか、イチャイチャするようなこともなく、一回くっついてしまったらどちらとも離れられなくなってしまって、もう何度身体を重ねたか数えるのも馬鹿らしいのでしていない。そうしたいからしているのだし、それについては特に異論もない。好きなもの同士がそういう関係になればきっと当たり前のことなのだろうし、もちろん子供の問題とかそういう危険が孕んでいることも知っている。それについてはちゃんと、男鹿も葵も分かっているし感じている。子育て的なことを互いにしているから感じないはずもない。時間を作ってそういう話をしたことはないが、考えていないはずはない。予防はちゃんとしているのも確認済みだ。
 特に確かめる必要もなかったが、いつか聞いてみたいとも思っていた。そんな暇は与えられず、孕むような行為に至るまでの気の長い時を過ごす。言葉なんて出させてくれない。男鹿はただ、ひたすらに葵を追い詰めて、追い詰めてくる。思考がまた失われた。

 別段、変わった日でもなかった。体調がいいとか悪いとか、そういう話もしていなかった。いつもみたいに学校の帰りに、男鹿が葵の家に寄った。隣の部屋でベル坊と光太が遊んでいて、そのまま寝てしまったという保育所状態で、男鹿はベル坊と17m以上は離れられないのでそうせざるを得なくて、大体こんなことをする機会も時間もかなり限られたものなのだった。だから健康優良児の高校男子として欲求不満になるのは分かる。だが、急にどうして。葵は啜り泣くような喘ぎをなんとかかんとか押し殺そうとしながら、でもできなくて、快感と呼ぶにはいつもよりもあまりに苦しいほどの気持ち良さで、それに酔うのが怖くて。
「やだ…っ、ゆ、るして…」
「なにを」
 男鹿の責めは一行に止まず、葵は声を抑えようと躍起になっているだけだ。しかも男鹿の声色は実に冷たい。身体は熱を持ってあついのに、どうして冷たい声で葵のことを責め立てるのだろう。だからといって怒りなどの感情は見えず、押し殺した感情があるようにも思えない。男鹿だけを見つめていても、男鹿のことが理解できないことばかりだった葵はもどかしくてたまらなかった。
 男鹿は責めに使っていた手を離し、愛液に塗れた指を舐める。もう太腿まで濡れてテラテラ光っている。葵がハッとして足を閉じようとしたけれど、それをさせてくれる男鹿ではない。指を味わいながら濡れて開いた足の付け根を凝視している。目が興奮で輝いている。男鹿の今の表情は獣に似ている。葵はいつも思う。喧嘩する時の表情と、葵を抱き締める時の表情は違うけれど、それでも目の奥に輝く野性味だけは一緒だった。捕食される。そんなゾクリとする危機感。男鹿の鋭い視線に、陥落する。今度はあたたかくてしっとりとしたものが葵の弱いところを突ついてきた。それが何であるかを葵は見なくとも知っている。だが、見て確認してしまう。男鹿の舌先が葵のことを緩く責め始めた。その度に、葵の思考はどろどろに蕩けていく。絶頂は何度も訪れそうになっては、男鹿の手が止まる。
 こんな秘め事が始まってからというもの、一時間以上経っているだろう。明るく冴え渡る空の色は低く暗くなりつつある。焦らされ続けて気が狂いそうになっていた。
「はぁっ…、もう、っお願い。男鹿…」
「なにがだよ」
 どんなにいやらしい身体になってきていようと、葵は葵だった。どこまでも少女のような、うぶで恥ずかしがり屋なところがある。露骨なことばなど口にできない。これまで「セックス」ということばを発したことはないのではなかろうか。少なくとも、誰かの目の前では。うぶなところはずぅっと変わらない。
「…男鹿。……して」
 男鹿の股間は興奮のため既にカチカチに盛り上がっている。ズボンはベルトを外して前を寛がせていたが、トランクスは履いたままである。窮屈そうに布を押し上げて、気持ち良くなりたいと震えている。そこを、珍しく葵の手が緩く掠める。そして、掴むようにした。葵の潤んだ目が男鹿の顔に近づく。もう一度同じことばを、男鹿の耳元で囁いた。これ以上のことはまだ恥じらいが邪魔をする。男鹿はふと小さく笑う。
「だめだね」
 冷たくいった。元来持っている男鹿のサディスティックな面がどうして今日でてきたのだろうか。葵は泣きそうになる。早く気持ち良くなりたい。いつもみたいに男鹿を感じたいと願うだけなのに。
「もっと、うんと焦らしてからだ」
 男鹿の手が葵の胸を揉みだした。気が狂いそうなほどの快感の中で、葵は幸せな反面、不安だった。いつもより乱暴で、そして自分勝手な男鹿。何かを感じているのだろうか、と思ったからだ。葵にはとくに変わったことなど何もないというのに。男鹿に触れられると思考が溶けていく。触れ合うそこから、相手のことを感じている。感じる内容は、好き、とか大事、とかもっと、とか一緒に、とか思っていることは単語の波のように溢れてくるのだけど、その単語の一つですらうまく言葉にならない。すべて脳内で溶けて、喘ぎという名の言葉にならないものに変わっていく。うんと焦らされてから、ようやく男鹿のそそり立ったものが葵に晒される。男鹿は常に余裕ぶっていたけれど、そこはまったく余裕がないと言わんばかりに硬く熱くなって、先走りで濡れ光っている。
「葵」
 触れられながら呼ばれると、思われてることが伝わる。身体と心が、ああ同じ自分だったり、相手だったりするんだということがようやく分かる。存在しているのに、会話しているのに、どうしてこんなに人はふたしかなのだろうか。葵は男鹿の先端から滲む液を舐めてみた。すこししょっぱい、と葵は思う。男鹿はそのまま横になる。
「上になって、入れて」
「え、っ。でも…」
「いつも俺がやってるみたいに、お前がやるんだよ」
 言い方は冷たいものではなかったが、そんなことをしろと言われたことは今までなかったので葵はびっくりしてしまった。やはり今日の男鹿の様子はどこか違う。もちろん無理やりにしようというわけではないし、痛いことをするわけでもない。だがどこかいつもより攻撃的だ。もちろん大事に扱われている感じもするが、すこし威圧的とでもいうべきだろうか。葵は戸惑いを隠せない。
「自分で広げてあてがって、そのまま座れば入るだろ。してほしいんなら入れろよ」
「…っ、ずかしい。なんでそんなこと、言うの…」
「見てぇの。俺が」
 葵にとってその行動はひどく抵抗があったけれど、獣の瞳に射抜かれて、そして何より葵自身もまた理性なんてものは残りカス程度にしか残っていなくて、ただそれにしがみついているだけのことだったので、男鹿に跨って、そこを広げると、男鹿の眼はさらに妖しく光り、嬉しげな息が耳に届く。濡れて男鹿を欲しがるソコは、ちゃんと受け入れるためにいやらしく口を開けているのに、擦り付けただけで気持ち良くてなかなか入らない。ぬるぬると逃げていくサカナみたいに。何度も行ったその行為のお陰で、男鹿を受け止めることなど問題ないと思っていたけれど、それも一人ではかなわない。元より、こんなやらしいこと自体一人ではできやしないのだ。
「おっと、こんなこといつまでもしてたら、イッちまうかもな。分かった、手伝ってやる。葵、入れるぞ……」
 男鹿が腰を使って、下から突き上げるように葵の中に押し入ってくる。圧迫感と幸福感に充足感。葵は男鹿にしがみついてその感覚に身を任せた。ゆるゆると腰を使って長く遊ぶつもりなのかと思ったら、すぐに男鹿は激しく葵のナカを突いた。焦らす側も欲望を抑えるので必死だ。我慢も時間が経てばやがて限界を迎える。葵に身も心も包まれてしまえば素直に子供のように従うしかない。葵が気持ちよさに鳴くのを、満たされた気持ちで見つめて穿った。
「…っ、いきそう」
 汗で長い髪が顔に張り付いている葵の髪を掻き分けてやる。葵は、どこか夢の国にでもいるかのような焦点の合わない目を向けて、薄く口を開く。男鹿はそんな葵の手を握って、唇を塞きながら吸う。何故そんなことを思うのか分からないが、葵とのキスはいつも甘くて、くせになるようだ。こんなに気持ちがフワッとして、嬉しくて、ほっこりして、和んで、気持ちの良いことなら毎日だって構いやしない。
「いっしょにいけ、よ…!」
 そのためにこれだけ我慢したし、我慢させたんだから。フィニッシュにガツガツ腰を使って、気持ちよさの波がピークになると、そのままナカで爆ぜる。葵の締め付けは一層強くなって、それで達したのが分かる。泣くみたいな声を出しながら、それでも離れたくないと男鹿にしがみついて。そんな葵は額に触れるだけのキスを送る。



 くたりとした身体はもう少し休息が必要だった。汗だくで抱き合うにはもう少し涼しい時期が望ましい。だが、それでも離れるのは、この肌が気持ちいいと吸い付くみたいに離れてくれないせいだからと、勝手に都合いいように解釈して触り合っていた。窓から見える空は暗くなっていた。
「ねぇ…、男鹿。なんかあったの?」
「は? なんもねえけど」
「嘘。私の知ってる男鹿とは、違ってたわよ」
「………」
「何で黙るのよ」
「………スゲーな、お前はよ」
「えっ?」
「…………親戚が死んだ」
「はぁ? じゃあこんなことしてる場合じゃないじゃない! 早く家戻って…」
 葵は男鹿の唐突すぎる言葉にならない慌てて起き上がる。布団の中でいちゃつくのは、名残惜しいけれど今でなくてもしかたない。それが葵の思いだったが、男鹿はごろ寝のまま起き上がるそぶりを見せない。何より男鹿の目には悲しみやらの表情すら浮かんでいない。感情の起伏のすこしも見当たらない。まったく動じない男鹿は、どこまでも男鹿なのだと葵は思うばかりだ。
「いいんだ、遠い親戚だし。一回か二回ぐれえしか会ったことねえし」
「だからって……」
「ただ……」
 ゆっくりと身を起こしながら、男鹿はまっすぐに葵を見つめた。部屋も暗くて相手の表情は読みづらくなっている。
「その人家族とかいなくて。で、うちが一番近ぇから、葬式の準備とか、家の片付け?とか、なんかそーいうやつで、5日ぐらい学校休む。と思う」
「あ、そうなんだ」
 葵は、素直に大変そうだなぁと思ったのだが、その答えが面白くないというように男鹿は不服そうな色を浮かべ、眉間には皺を寄せた。
「…アホ」
「な、何よ?!」
「察しろよ」
 不意打ちみたいに男鹿は唇を重ねてきて、そのまま細くしなやかな、だが抱き慣れたその身体を抱き締めた。心がフワッとなって、ドキドキして、気持ち良くて、嬉しくて、和んでしまう、そんなキスをして。
「しゃあねぇけど、分かってるけど。…でも、5日でも、俺はやだ」
 男鹿は口べただ。ハッキリ言うと古市という親友がいなければ、相当に言葉足らずで通訳が必要としか言いようがない。その役目が古市だったのでよかったが、古市がいないこの状況ではちんぷんかんぷんである。だが、そんな男鹿のことでも葵は分かってきた。付き合っているうちに、そして何より好きな人のことは見てしまうものだし、分かってきてしまうものなのだ。どこまでもその一途な思いで。
 5日だけでも離れたくない気持ちが、今日の変化につながったのだと。それは、直接言わなくても分かる、最強の口説き文句だ。言葉足らずなくらいのほうが胸にぐっとくることもある。葵はそんな、隠れた甘えん坊の男鹿を抱き締め返した。


14.07.08

久々に深海にてを更新しました〜!
年末前はせっせと更新してたと思うんですがね…

今回はただの甘いだけの話
エロさは控えました。本当は入れるシーンとかもやめようかと思ったんですが、あまりエロくない感じにまとめてみました。

最初はエロいだけの、ただやってるだけのやつを書こうと思ったんですが、精神論みたいなものが入ってきてエロさが抑えめになってきたので、潔くエロ路線じゃなくて男鹿が甘えるところを書こう!ってチェンジしました。
甘える男鹿って見たことないので、いかに自然に、そして男鹿らしく甘えるか、ってことを頭において、女々しいんじゃなくてただの駄々っ子みたいなイメージで書きましたね。
書けてるかなぁ…。



何度か言ってるかと思いますが、深海にては順番通りの話じゃないので、これは付き合い出して結構時間が経ってる感じだと思います。だいぶ葵ちゃんも開発されちゃってる感じだし。

ただ、自分として「いっしょにいく」とかはまぁねぇだろ、って思ってはいるんですけどねw
あとは、それこそが男側の愛情表現なんだけど、どうにも女側にはいまいち伝わってないというか、ちょっと気持ちよさばっかり追求してるんじゃ?みたいな印象があったりはするんですけど、細かいとこ言えば愛情表現はうまくしてると思うんですよね。この男鹿は。
どことは言わないので、ここかな!と思ってもらえれば。

できるだけ男性本位にも女性本位にも偏らないように書いたつもりです。


深海にては書きたいことの半分くらいはもう書いてしまいましたが、それでもあと半分くらいはまだ書き足りないので、まだ続いてしまいます。
今まで読んでくださってる方たちは、まだ末長くおつきあいください。べるぜは終わったけれどね。

2014/07/08 12:54:43