※ルッカとクロノ&マール
※ラスダン手前設定
※古いゲームですがネタバレ


 関わってみると分かることというものがたくさんある。ルッカはそれを痛感していた。科学はもちろん必要だ。特に、ルッカにとってはそれが生きる理由になっている。父タバンと同じように研究者の道を歩み、そしてタイムトラベルなどというあり得ない代物を作り出すことに成功し、機械の生命ともいえる、いわゆる鉄腕アトム的なロボットであるロボに会い、さらに科学への探究心を強めたルッカは、より人や社会に近い形で科学とどう関わっていこうかと考えあぐねいていた。特に女の身で科学論をそらんじることは周りから批判の的になりやすい。これを常々不満に思ってきたのであったが、致し方ないといえよう。過去はやはり力が支配する男社会によって発展して来たのだから。もちろんこれを痛切に感じるようになったのは幼なじみのクロノたちとの冒険の日々があったからに他ならない。過去をこの目で見る機会など、それはきっとどんな科学をもってしても不可能なことなのだ。そう、タイムトラベルマシンを作ってしまった身でそれを思うのはおかしなことかもしれないが、やはり、過去は改変してよいものではない。だが、未来がある以上それを守りたいと思うのが人情というものなのだということをルッカたちは知った。
 千年祭でルッカが作った機械で、事故としか呼べぬ状況下で過去に飛んだクロノたちは、タイムトラベルの旅にいくことになった。まさか世界は滅びに向かっており、それは過去に遡って少しずつ改変していくことにより、なんとか回避できるかもしれない未来だと信じて、それを大義名分として過去へ、未来へと翼を広げてきた。もちろん翼というのは比喩的な表現ではあるが、時をかける翼を手に入れたからだ。
 だが、まさかこんなことになるなんて思わなかった。ルッカは悔しさに口を真一文字に結んだまま、なにも言わなかった。否、言えなかったのだ。ただ、隣でマールが泣き叫び、ロボが機械音のような声で告げた。クロノの生体反応が消えた事実を。そしてカエルが目を伏せ、エイラがその場で怒り狂った。ルッカは、ただ目を見開いて震えていた。
 世界を崩壊させるものの存在はラヴォス。ラヴォスが世界崩壊させるのはA.D.1999年。クロノたちが生きる世界の約千年後のことだ。そんな未来のことならべつに構わないと笑う人もいるのかもしれない。でも、その千年先にも私たちの血を受け継いだ誰か。結婚していないという可能性も、悲しいかな否定はできないルッカは幼なじみのクロノの家族や、王族の血を継ぐマールの玄孫よりももっともっと遠い親類のことだって救いたいと願った。それはもちろんルッカだけではないのだけれど。それだけを求めて、魔王と戦ったり、古代の人たちと力を合わせたり、恐竜人たちとサルと呼ばれながら語り合ったりしたのに。
 稲妻が近くに落ちたようだ。光る直前にゴロゴロと唸りのような音がした。それにびっくりしているのはマールだけのようだったが、それ以外に誰の言葉もなかった。ひどく強い雨が降っている。ねぇ、クロノ。ルッカは心の中でそっと幼なじみの名を呼んだ。ついさっき、サラがテレポートしてくれる直前に見た光景が頭から離れない。
 クロノは、ラヴォスによって存在を消されてしまった。クロノは死んでしまった。過去だけを置き去りにして。なぜなら、ルッカたちの想いからは消えてはいない。それがなによりの証拠だ。クロノは確かに存在し、そして消えた。それを知っているのはルッカたちだけ、時をともに飛び越えたものたちだけの秘密だ。

 ルッカは、消えてしまったクロノのことを思った。はじめてこんな気持ちになった。今さら遅いかもしれないが、どうして自分が転送マシーンなどというものを作っていたのか。それが、頭の中に流れ込んできた。もちろん研究者として発明家として名を残したいと願っているのもある。けれど、ほんとうにこころの奥底にしまっていた思いがあったことを思い出した。忘れていたわけじゃなかったのだけれど、きっと大事すぎてしまいこんでしまっていたのだ。
 幼なじみのクロノという少年は、体は利くけれど持ち前の性格はお人好しで、いつも嫌と断れずにいるような子だった。家が近いので歳がまだ学校に通う前からよく知っていた。両親はそれより前に知っていたはずだ。だから単純にご近所さんという関係だったので、その流れで一緒に遊ぶようになった。自然な流れだと言えるだろう。先に触れたように、クロノは体を動かして遊ぶことを好む性質で、ルッカは当然お分かりかと思うが、まるっきりインドアなことを好む性質だった。そして自分の世界をなにより大切にした。気性は荒いところもある。クロノとは正反対と形容されることが多い。
 だから良かったんだろう。きっとそれだから良かったんだろう。クロノがどう思っているのか、彼は言葉にも表情にもそれを表さないからルッカには分からなかったけれど、でも、彼はきっと嫌だなんて思っていなかったに違いない。そう確信めいた気持ちがある。ルッカは、どこまでもルッカだ。みんなが言うには、「ルッカがクロノを振り回してる」。そんなことを言っていた。それは間違いではない、きっと本質をついている言葉だったろう。だが、それを認めることができるのはきっと大人になった今だからに他ならない。ルッカはそんな拙い思い出を、とても懐かしく思う。
 それも、クロノが生きていたから、味わえる感覚なのだ。ルッカは寒気を覚えた。ぞくり。急激な寒気。叫び出したい衝動。どうすれば、この衝動を抑えられるのだろうか。必死で喉を、口を押さえて。あの時の光景を思い出すと体の震えが止まらない。涙はなんとか抑えることができた。ルッカは、誰の前でも泣かないと決めている。そう、母のためにも。泣く娘のことを案じる、両親のためにも。



 科学者にはあるまじき態度だったろう。なにも見えない(見る気もない)、なにも聞こえない(聞く気もない)、なにも分からない(嫌なことは知りたくもない!)。それが逃げだということなんてルッカは分かっていた。もちろんマールとは違い、泣くこともない。ただ、ここにあるだけのなにをも感じない存在になっていた。仲間たちが気にかけてくれていることは分かっている。知らないふりをして、肌で感じるものを完全にシャットアウトできるほど人間は器用ではない。わからない・知らない・どうでもいい、そんなことを思うのは愚かではない。決して愚かだからということではない。弱っている、ただの人間だ。科学的根拠などない、ただの人間の感情としての、ルッカの気持ちがそれを語る。

 近くの墓場に連れて行かれた。カエルとロボの二人に。二人は気持ちの上では別として、ぱっと見人間ではない。言葉どおりロボットとカエルだ。一般的には着ぐるみ、もしくは、あり得ないと認識されるだろう。きっとルッカたちが生きるA.D.1000年では。だが、ここは違う。そして、その二人以外にはルッカしかいない。ルッカは認めている。カエルもロボも、一人の人間だということを。
 墓の前で、佇む男の背中はとても冷たい。いつしか見た、冷たい背中。すべてのものを拒むような背中。なびく髪。魔王だ。岬の風は強い。魔王の髪はむだになびいている。
「クロノとかいう少年、…ヤツが鍵だというなら蘇らせない手が、ないわけではない………!」
 魔王は、何かに迷いながらも手を差し伸べるような言葉を吐いて。ルッカは初めて涙を流した。魔王だからといって、それについて物怖じなどしなかった。できる状態でも、怖いとも思わなかった。魔王と呼ばれる彼もまた、何かに縋りたいだけの、ただの人なのだと分かったからだ。魔王のマントを引っ掴み、泣きながらおしえてと叫んだ。泣いた。縋った。喚いた。とっても、情けないくらいに。クロノが生き返るのなら、クロノと同じ時を生きられるのなら。一度死んだものをまた、生きているものとして認識してもよいのなら。それが、過去の改変だとしても、許されるのかどうかは分からないけれど。
 ほんとうは、前から惹かれていた。でも、近すぎて分からなかった。そして、発明や研究が側にありすぎて、そちらに気を向けていた。タバンの血もあるのだろうが、クロノと一緒にいる時間はとても、かけがえのない楽しくて、手放したくない時間だとルッカは、ほんとうは思っていた。でも、それを口にすることなどできるはずもなく、ただ、ただ、想いだけが。


 そう。ほんとうは、マールが女王と知った時は本気でどういう状況か分からなかった。慌てたし、実のところ嫉妬もしていた。ルッカには、クロノが喜ぶなにかなんてきっとない。今の所。なぜなら、今までクロノが驚いた顔を見たことがないから。ただ、クロノは「ルッカの発明は、すごいな!」ってさわやかに笑うだけだったから。



 汚い想いも含めてすべて、きっとクロノは笑って許してくれるのだろう。それは確信。許して欲しいわけじゃない。クロノはそういう男だと分かっているだけ。責められない苦しさを味わうことはあるのかもしれないが、それを恐れていてはなにもならないことをルッカは知っている。だから、魔王の言葉に付き従うように立ち上がる。そう、クロノを死なせるわけにはいかない。クロノが生き返るためだったら、それを一目みられるためだったら、何でもする!
 好きとか嫌いとか、そんな俗な気持ちを胸に抱えながらも、崇高なる発明者は前を向く。それは、きっと彼が望んでいるから。未来が崩壊に向かっていても、それでも諦めたくない未来があるから。
 ねぇ…お願い、クロノ、死なないで!


14.06.30

初クロノ文でしたー。

や、今ねDSでクロノやってるんですが、SFCでクリアできなかったことに納得がいきます!
いちいちボスがむずかしいです。
ちなみに、今日の段階ではクリアは遠いです。あ、レベル的にはそうでもないけど(笑)


や、クロノ死亡イベ〜復活を見て思うことがあったわけです。
クロノもてもてやんww と。
それを、あんまり直接的でなく語れると嬉しい気持ちです。
2014/06/30 23:41:32