ラスト・イヴ バブ
勝手に原作に足りなかった、別れのシーンを書いてみる(笑)


※ある意味ではリハビリ文ですすみません…


 眉を釣り上げた女が二人。否、これは一人と、一人というべきか。まっすぐに向き合うとビリビリと痛むほどの気が注ぎ込まれている。殺気ではない、本気だ。心配しているのだ、本気で。ならばどうして、と男鹿は思う。どう見ても怒っているようにしか見えない。泣くでも笑うでも、心配そうに眉を顰めるでもなく。彼女らは怒りを押し殺そうとしているようにしか見えない。ヒシヒシと伝わるのは本気だけだ。読む力が足りないと言われればそれまでだが、男鹿はまだしがない高校生男子なのだし、心配してくれる女子の気持ちなどわかるはずもない。
 彼女たちは張り詰めた様子でただ、男鹿の様子を睨み付けているだけだ。彼が進む方向を見るという気持ちは、どちらも同じだ。そんなことは口にせずともわかる。そして、男鹿の答えも決まっている。背中のベル坊がぐ、と男鹿の伸びた髪を引っ張った。どちらに進めという答えではない。いつものじゃれ合いである。ぐ、ぐ、と少しいつもより長めに引っ張る。まるで、早く決めろよと言っているみたいに。分かってる、そう答える前に男鹿はまず一方を見る。
 金髪に眩しいフリル付きの身体にフィットしたゴスロリファッション。青い目が男鹿の視線をいとも簡単に射抜く。冷たい目と目はぶつかっても音も立てない。男鹿は低く彼女を呼ぶ。
「ヒルダ」
 瞬間、隣の女がピクリと反応した。張り詰めたままの空気は、さらに冷たさを増した、ような気がしたのは男鹿だけだったか。男鹿の髪を掴むベル坊の力が増したので、どうやら気のせいだけではないらしい。ヒルダは黙ったままで男鹿を見つめ返すのみ。そんなヒルダを呼んでおいて、男鹿は目を離してもう一方の彼女に目をやる。僅かに彼女は怯む。
「邦枝」
 今度は邦枝を呼ぶ。今度は、分かりやすいほどに反応する。少し驚いたような顔。男鹿の視線はまっすぐと邦枝に向いている。男鹿を挟むような視線の三角形は、男鹿にしてみればとても居心地が悪く、しかしそれを作り出したのも男鹿自身のわけで。その視線を避けるように男鹿は好戦的に笑う。声を出さずに鼻で笑う。どちらの視線にも男鹿は応えない。ただ、自分の信じた道をいく。
 空間がぐにゃりと歪む。魔界への門は開いている。邦枝の顔がとたんに歪んだ。いかないで、邦枝は態度でそういったけれど男鹿はそれをなかったことのようにして、見ずに、後ろを振り返らずに、歪みへと歩を進める。ヒルダも邦枝も、そんな男鹿の後ろ姿を見つめていた。男鹿と共に魔王ベル坊もまた、魔界への扉をくぐって消えた。

 男鹿は邦枝もヒルダも、どちらをも選ばずにいなくなってしまった。もちろん、ヒルダは後から魔界へ向かうのだが。邦枝は泣きそうな顔で笑った。男鹿らしいと、本気で思ったから。
 そんな一部始終を古市は、複雑な気持ちで見ていた。気配こそ消えていたものの、確かに古市は存在していた。気持ちは違うが男鹿を待つのは古市も同じことだった。古市は、邦枝を慰めるつもりで近付いて、軽く肩に触れた。意外だ。古市はかわされる、そう思っていたけれど、邦枝はそんな古市の手をかわさずに、そのまま触れていられた。古市が、邦枝の身体がわずかに震えていると感じたのは、気のせいではない。邦枝の気持ちは痛いほどよく分かる。
「先輩。戻ってきますよ、すぐに。あいつは」
 だからそれまで、待ちましょう。と言葉を続ける必要はなかった。やがて、男鹿の消えたその空間で、邦枝が泣き崩れるまで数秒の時を要した。ヒルダは理解できずに複雑な表情を貼り付けたまま、邦枝を見下ろしていた。死んだわけでもあるまいに。もう会えないわけでもないだろうに。そう思っているのに、どうしてだろうか。ヒルダはそんなしおらしい邦枝を見てベルゼバブ4世の母を思い出さずにはいられなかった。
 そう、今回男鹿が魔界へ向かったのはそのためだ。少し前のことだ。男鹿は辛そうな顔をしながら、それでもこう言った。
「母ちゃんが必要なんだよ。ベル坊にはよ、だから……話つけてくる。そのために行く。魔王がどうとか魔界がどうとか、知らねえ。みんな何回も俺にベル坊を置いてきたことに対して言ってきたけどよ、単に、ガキにゃ母ちゃんが必要ってことで…。そういう意味で後悔なんかしてねぇんだ」
 その時の男鹿の後ろに広がる、石矢魔の空の色は赤く燃えていた。それが何故か物悲しいと思った。初めて、人間界で見た時は懐かしく心落ち着く色だとさえ思ったのに。どうしてこんなにも人間のように心が揺らぐのだろうか。無表情なまま、ヒルダは男鹿を見据えたままそこにあったのだった。
 ヒルダは泣き顔の邦枝にツカツカと歩み寄り、強引に古市から引き剥がした。ちなみに、この行動に特に悪気も他意もない。ただ「邪魔。モブ市」と思っただけのことである。口にしなくとも、行動とは時に本音を語るものなのである。
「安心しろ。あいつには黙っておったが、軽く修行をしてもらうだけだ。ベルゼ様が認めた以上、ドブ男であろうとも、親は親なのだ。私もそれは認めるしかあるまい」
「うん………そうね、男鹿は、いつもそうだったもんね…」

 邦枝が涙を拭いながら前を向こうとした、その時古市がヒルダに声をかける。片手を挙手して。
「いやっ……それは、いいんですけど。どちらかというと俺は…男鹿が『男』になって帰ってきちゃうような気がして、心配なんですけど」
「……うん? くだらぬ話だったら容赦せぬが?」
「いや、男鹿はベル坊のお母さんのとこ行ったんだから、そのまま夫婦に……ってことは? 魔王はいるけどさ、魔界だし。不倫とかってないんじゃないの?」
「……………」
 しばらく時間を要した。言葉の意味にヒルダも邦枝も、戸惑っている。人間から女を取られる魔王? そんなの居るのか? というか、男鹿が本当の意味で父親になるということ。邦枝の顔色が変わって、ヒルダは眉を寄せながら冷静に答える。
「あのバトルおたくにそんな色気のある話があるとは思えんが、まあもしそんなことになれば、魔界と人間界が共存する術は統一しかなくなるだろうな」
「スケールのデカすぎる修羅場っすかぁ〜!!!」
 古市の言動は、ひどく邦枝を落ち込ませ、それをなだめるために自業自得とも言えるが彼はひどく苦労したという。そのお陰で、へんな意味合いではないが古市と邦枝はお近づきになることができたのであったが。



「ところで、先輩。あの時、俺……本気で可愛いなって思ったんです」
 古市の言葉は唐突だった。学年が一つ下の彼は、いつも邦枝を始めとしたレッドテイルメンバーに懐いてくる。数ヶ月前までは隣に男鹿と、その背中にはベル坊がいた。その代わりみたいに古市はいつも邦枝の近くにいる。
「何の話よ」
「男鹿に、告ったじゃないっすか。ねぇ、あの時!」
 顔から火が出そうだ。腹が立つやら恥ずかしいやらで。照れ隠しの意味も含めて邦枝は古市に裏拳を放ったが、彼はもう昔の彼ではない。常人には不可能なほどの強靭な精神を持つ、契約者だ。彼は紙一重で邦枝の拳をいとも簡単に避けてしまう。
「男鹿だって、満更でもないっつーか…。そういう話自体苦手みたいで、俺ともしないんですけど。でも。」
 古市の銀の髪は光に透けて、金色に輝いているように映る。男鹿の漆黒の髪とは正反対のうつくしい髪がサラリと靡く。その前髪の奥で目が野性の色を帯びて光る。このたまに見せる古市の表情は、どこか男鹿を思い起こさせる。
「でも、邦枝先輩のことは、…やっぱり。初めて、家族以外で、護りたいって思った、特別な女性なんじゃないかな。俺、そう思うんです。だから、へんな虫がつかないよーに、弱くて頼りない俺が、先輩のこと見守ってますから」
 それだけ言うと、古市はいつものように腑抜けた笑みを浮かべて視線を離した。
 信じられなかった。男鹿は、そんなふうに邦枝のことを思ってくれたことがあるだなんて。もちろん、今の話は古市の思い込みが入っている。だが、これだけきっぱりと言い切るのだ。言葉にできない確信が、きっと彼の心にはあるのだろう。邦枝は恥ずかしくて古市の顔も見られなかった。次に男鹿に会ったら、聞きたいことがまた増えてしまった。でも、顔を見てしまったらきっと、それもできなくなってしまうだろう。胸が疼くばかりで。
「おお、お二人さん、ラブラブで歩いてんねぇ? 褒めてやるからさ、お金くれない?」
 いつものように訪れる、平穏を破る声。これを打破するために、邦枝は顔を上げるのだった。石矢魔のケンカ色の日々は、男鹿がいない代わりに誰かが引き継ぐ。それは続いていく。


14.06.13

久々にお疲れ様です〜〜!

27巻見る前に書いてたんですが、原作とちょっと色合わせをした感じにしました。
「男鹿を待つ二人の話」ですかね。

その割りに、男鹿はどうでもいい役どころに落ち着いてしまったようで。なぜ?


更新自体もほんとうに久しくて申し訳ない。
続きものは話を忘れて書けないしで(笑)それじゃダメじゃん。



結構ベルぜの最後は私的に悪くないなぁって感じです。
つまらん魔界なんちゃらとソロモンやるより終わらしてしまったほうがいいやって感じもありましたからね(笑)


氣志團の喧嘩上等でも聞きながら話し考えてみよっかなーw
極悪がんぼですけど、ノリを活かしたいですね。不良系で。

本編は終わってしまったので、このサイトのベルぜ熱もいつまで続くか分からんのですが、熱しにくく冷めにくいのでチンタラちんたらはやっとると思います。
男鹿はどちらも選ばなかったし、零さんでなかったし、姫川も潮氏と結婚しなかったので、あとは勝手にこっちでやりますぜダンナ!

2014/06/13 12:53:36