恋の話をしよう。
 これを読んでいる女子どもにはきっと、とびっきりの刺激的な話だ。だが、当人からすればそれは、あたたかな恋はあたたかなままで持っていたいものと思うものかもしれない。
 ちなみに、まだ愛というものがよくわからない。結婚だって。

 昔、惚れた女がいた。
 いつの間にか隣にいて、いっしょにバカやってダベって。それだけだ。周りの野郎どもと一緒にバカなことをくっちゃべってただけ。それを恋と呼ぶにはあまりに幼い。
 でも、ただそれだけで良かった。それだけでしあわせだった。

 気づいたのは卒業して、会えなくなってからだ。
 胸のなかに穴が空いたような…なんて陳腐なセリフしか出てこないのが笑えない。いつの時代だって取り戻せない時を悔やんで、きっと人はこうなるんだろう。
 それも時とともに癒えていく。新しい恋の芽はでそうにないが、なんとか日々は過ぎていくし、女のことも思い出す時間が減っていく。そうしてようやく気づく。好きだったんだ、と。
 その頃にはもう心は別れを告げていて、べつにどうでもよかった。同窓会やらで会うこともあるだろう。ただ、まだそういった場は設けられてないが。

 卒業から数年経ち、その時が訪れた。
 まだ、こんな思いが自分のなかにあるだなんて、誰が思うだろう。
 バカばっかりの飲み会は仲間うちの大騒ぎパーティーだった。懐かしい面々と、ちょくちょく顔を合わせていたメンツ。どっちと会っても楽しいのが醍醐味。そこにアイツもいた。昔と変わったのはどこかやわらいだ雰囲気。
 見ただけでせつない気持ちが蘇ってくる。当たり前に話していた学生時代が嘘みたいで、バカみたいに心拍数が上がっている。だが、よくよく話を聞いてみると冷静になれた。
「子どもが」
 なんてことば、もちろん聞きたくなかった。当たり前なんだけど、ハタチをこえれば結婚しててもなにもおかしくないし、そうだと思うべきだった。雰囲気が変わったと気づいていた時点で。それはきっと、母性とかいうやつの滲みでた結果なんだろう。

 で。どうしてオレはこんなとこにいるんだろうか。
 ラブホの部屋のなかで女がシャワーを浴びる音だけが聞こえる。
 逃げてしまおうか。
 それじゃ詐欺師か美人局の女側じゃねぇか。でも、と自分に問いかける。すきだと思ったけど、それで望んだ結果がこうなったんだろうか。学校の勉強なんてわからないが、人としてやっちゃいけないことがあるってことは、仲間が多ければ多いほどよくわかってるつもりだ。
 筋の通らない男に誰がついていくかってんだ。人のものを盗むやつが誰に尊敬されるというのか。
 ぐだぐだと考えていたら、シャワー室を開けてバスタオル姿の彼女と目があった。視界が歪む。どうしてこんなことになったのか、どうしてもわからない。
 彼女は体ごとぶつかってきた。くちびるも。体温に包まれた。シャワーの熱気だけじゃない、熱いくらいだ。

 淫靡。
 そう称するに相応しい。女豹みたいになったと感じた。任せっきりだった。どうしても、動けなかった。男としては死んでるかもしれないが(そんなことはないか? モノは勃った)、漢としては間違って無いと思う(だが、『ちゃぁんと』断るのが漢?)。
 根元まで咥え込んでこちらを見る様子なんて、なんでアダルト動画の女優だ。だがゲンナリしないのがオレの弱いところだろう。上にのしかかられても逃げられない。どこまでも弱いオレ。
 こんなことまでしてしまうのかと我が目を疑い続ける、ただ目と下半身だけになったオレ。と女だけがここにいた。
 オレのその夜の記憶は、快感と女の赤い舌ばかりが脳裏に焼き付いて離れない。どうしてだろう、泣けてくる。


 これがオレの恋の顛末だ。
 花の名前を冠のように背負った彼女は、いつだってオレの周りで髪を振り乱して前を見やっていた。だが、それは過去で、今はヒトの妻で、そして、ただのスケベェな女なのだった。

 ホテルに行く前に話をしていた。
 二人で抜け出した時点で、仲間うちのやつらはみんな感づいていたろう。少なくとも、オレ以外は。なかには超がつくニブチンもいるが、そいつのことは例外としておく。
「久しぶりだよな。子どもがいるなんてビックリしたぜ」
 女はどうしてそんなことをいわれるのかわからないといった風情だ。
「大ショック」
 わざとおちゃらけた。胸の痛みは心にしまって。ネオンの明かりだけがオレたちの会話に不釣り合いだ、とガキの頃に戻った気持ちで思った。
「すきだったんだよ」
 目が大きく開かれる。
 そして、笑う。
 わたしも、と彼女はいう。
 過去形が現在形になってしまう。
 すきだった、が、すきだ、に変わってしまう予感が、たしかにあった。だが、それに抗えない自分がいた。
 帰り道、ひどく悔やみながら、どうすればよかったのか反芻する。無意味なことと知りながら。過去のすきを引きずりながら。


2021.6.11

なんか前に似たような話を書いた気がするのでショートにしてみました。
彼は似たような話が多すぎます。
もっとえろかったはずなんだが、いろいろとゴッソリ削りましたw

昼休みちょっとと帰りの電車でポチポチしたわりには長い感じもしますが、まあショートショートでしょう。

毎日ポチれるかしらん?
(似たような話ばっかりになりそうでいやだね)

2021/06/11 18:58:33