「好きですっ!おれの想い、受け取ってください」
 大きな声で。誰にも届くように。心にためておいた、だいじな想いを貴女へ。
 古市は目の前にいる、黒いゴシックスタイルの金髪女性──侍女悪魔であるヒルデガルダ、通称ヒルダ──は冷たい表情を崩すことなく、「ふん」と鼻で笑うように声を発しただけだった。古市のいうことになど、なんの興味もないとでもいうように。
 古市はこうべを垂れたまま、ヒルダにすがりつくかのように頭を下げ続けている。まるで下僕のようだ。誰かがその姿を見ればそう感じたであろう。
「おれは、ずっと………好きなんです」
 なにかに懇願するような響き。それにこころを動かされることなど、悪魔にはきっとない。わかっていても、それでも。春の日差しが燦々と降り注ぐ、春の放課後の学校で、古市はヒルダに想いを伝えたかった。反面、ヒルダは古市のことを見ようともせず、窓の外に目をやった。日差しが眩しい。堪らず目を細める。
「だから、なんだというのだ」
 吐き出される言葉はこれまでかというほどそっけない。ヒルダを、侍女悪魔を想う。それがどれだけ人間にとって意味のあることなのか、ヒルダには分からない。理解などできるはずもない。愛だの恋だということを知ったことすら、ヒルダはこの世界に降りてから初めてのことなのだ。だが、昼ドラによって、愛とか恋とかいうものを生まれ落ち初めて知った。こんな想いをしてみたい、とも。だが、
「おれは、ありのままのヒルダさんが好きです」
 ヒルダの冷え切った視線は熱を帯びることはない。古市の言葉も霞んでいくようだ。だが、たしかに彼女の耳へとそれは届いている。
「男鹿と、ベル坊といっしょにいる、貴女が好きです」
 冷たい視線と、顔を上げた古市の視線とが会話をするように繋がり合う。ふと、ヒルダが唇を歪めた。笑っている。
どちらかといえばそれは、嘲笑の笑み。
「ふん、…そうか」
 それだけだった。否定も肯定もしない。ヒルダは長い髪をなびかせ古市に背を向けた。絡まった視線はすぐにほどけてしまった。だがそれでも、古市は構わないだろうと思う。
 この気持ちを、貴女へ伝えることができた。ただ、それだけで古市の胸は、もう、張り裂けんばかりにいっぱいだった。


2019.03.13

ちょっと早いけど、、
ふと浮かんだから。
2019/03/13 20:07:31