一年目、九月

 私ときみは、きっと、運命で結ばれていない。
 出逢ったのは、出会ってから半年だったから。
 私ときみが出逢う場所、地元の寂れたCDショップ。
 大きなTシャツとジーンズと、薄汚れたハイカットの赤いスニーカー。それから、iPodから流れる洋楽。それがその日の私のすべて。
 Simple planが途切れる。
 後ろに立ったクラスメイトのきみを見て、私は、驚く。イヤホンを勝手に抜かれたことにおこることもなく。
 大宮くん。私は呼ぶ。
 俺、大橋だよ、ときみが言う。ごめん。
 首にかけたきみのヘッドホンからそっと流れる英語の歌詞。
 洋楽すきなの。私、ええ、すきよ。きみはどんなのがすきなの。
 私のイヤホンが、ひとつ、きみに攫われる。
 もうひとつと、ひとつが、私ときみと繋ぐ。間を流れるのは、ブリトニースピアーズのスリー。
 CDショップを出たとき、ぶつりと、イヤホンがとんだ。
 気まずそうにきみが私のイヤホンの片割れを返してくる。
 それじゃあ、と歩いていくそのジーンズのポケットに、白い携帯電話。イヤホンが帰ってきてしまったいま、私はそこに縋るべきなのだろうと、思う。
 その日の夜はずっとスリーが流れていた。なんて、いやらしい曲。
 いやらしい曲を聞きながら、私は次の日も、学校へ行く。
 相良。
 教室へ入る。きみが私を呼んだ。
 これ、貸すよ。たぶん、相良のすきなかんじだと思う。
 きみが私のために厳選してくれたたくさんのCDたちが、私の前に積み重なっていく。その向こう側で、きみは。
 重なるCDの間に、白い紙があった。
 メールアドレスと電話番号。なんて、いやらしい。
 そのいやらしい紙を嬉しそうに仕舞う私も、大概いやらしい。
 イヤホンが結んでくれた私ときみ。
 いやらしい文字列が、これからの私たちを繋ぐ。
 そんなふうにして、私たちは出逢った。

「今度一緒にCDショップ巡らない?」
 二年目、二月

 吹奏楽部から出て行く音が、寒気と埃にまみれていた。
 どうしたの、ときみの声。心地の良い、きみの声。
 私は泣いていた。きみは困っていた。
 ただただ、ただただ、悔しかった。
 だから、あいつはやめとけって、友達に言われてただろ。と、きみ。
 ねぇ、そうじゃないよ。
 きみに言われてたら付き合ったりしなかったきみの言うことならなんだって信じてただけどきみは私になにも言ってはくれなかった。
 薄暗い学校の階段。私は叫ぶように言う。
 死にそうに喘ぐ私を、あたたかなものが塞いだ。
 間近にあるきみの双眸。
 ごめん。
 そう言ったきみの吐息が、私の唇にぶつかる。
 泣きそうな顔。
 きみがくるしいと、私もくるしいよ。
 泣かないで。
 そう言うと、きみが笑ってくれる。お前が言うなよ、って。だから私も笑える。
 ねぇ。
 うん。
 すきよ。
 うん。
 ずっと前から用意されていたように、するりと言葉が落ちた。
 きみも、わかっていたように、笑って頷いた。
 短いスカートから伸びる私の太腿へ、きみが触れる。いやらしさはなかった。
 セーターの中、スカートの内側、に、きみの手。
 いま思っても、あまりにも自然だった。それくらい、そうなることは、普通だった。
 私ときみははじめてセックスをした。
 ただぬくもりを求めるだけ。
 そういうふうにして、やっと、私ときみの手が触れ合ったのだ。

「めちゃめちゃ寒いわ」
 三年目、四月

 私たちは制服から卒業した。
 それでも私たちはなにひとつかわらない。髪の毛の色も、関係性も。
 一人暮らしをはじめたきみから、なんのキーホルダーもついていない鍵をひとつ、もらった。きみとお揃いの入学祝い。
 いつでもきていいよ。
 きみは相手を無防備にさせる顔でそう言って笑った。
 私はほんとうにいつでもきみの部屋に行った。
 学校へ行く前、学校へ行ったあと、休みの日。朝も昼も夜も関係なく、きみがいなくたって、その部屋にいた。
 おかえり、と言う私。ただいま、というきみ。
 ここは誰のお部屋だったかしら。
 サークルに入る気はなかったけれど、新歓には誘われるがまま顔を出した。
 帰りに、きみが迎えにきてくれること。それが嬉しいという理由だけで。
 新歓にすらあまり参加しないきみは、見慣れない新入生や先輩たちへ申し訳なさそうな顔をする。ぐずぐずになった私の代わりに頭を下げる。
 いま思えばなんてばかなこと。
 でもそのときの私は、酔っぱらった頭の中で、確かに優越感を覚えた。
 ばか。
 私を背負ったきみが、夜道の中でちいさく言う。
 ごめんね。
 浮かれた声で私が言う。
 宵闇の中できらきら、街が揺れている。なんて、きれい。
 ねぇ、すきよ。
 ばかみたいに、きみがすきよ。
 私はとろけてそう言う。
 ばか。
 きみはそれだけを言って、自分のアパートに私を運んでくれた。
 きみの香りの中に、私が入り込む。何度か遊びに来ただけの部屋。私の帰るべき家はここじゃない。ママがいる家。
 ねぇ。
 私、ここにいたい。
 ベッドの上で私はそう駄々を捏ねた。
 きみはわかっていたような顔で、すこしだけ私にキスをして、おやすみ、と言った。

「頭が割れそうに痛い」
「自業自得」
 四年目、八月

 自分の部屋よりも、きみの部屋に置くワンピースが増えてきたころ。
 すらりと、きみの部屋に私が住むことが決まった。
 週の六日以上をきみの部屋で過ごしていた私を見かねて、ママときみがそれを勧めてくれた。
 運ぶ荷物はボストンひとつぽっち。
 一年前にきみがくれた鍵。慣れた手つきで鍵穴に入れる。ストラップは、赤い目をした銀色の兎。
 鍵を閉めないきみの部屋は、鍵を差し込んでも大抵空ぶる。
 今日もまた空振り。
 ただいま、と言って私はその部屋に入った。
 ごく小さなボリュームで流れている、いつもの洋楽。きみのにおい。
 おかえり。きみがなんでもない顔で言う。
 テーブルの上に、ペペロンチーノとサイダーが用意されている。夏の日差しに、きみの好きな炭酸が輝いていた。
 きみは料理がとてもうまい。私はきみといる限り料理を覚えない。
 私ときみの生活はいつもなんでもないことの連なり。
 出逢ったときも、付き合ったときも、鍵を渡されたときも、一緒に住むことになったいまも、私たちはごく当たり前のような顔をしている。
 ぎゅっ、と冷えたサイダーが、喉の奥で小爆発。
 あまりの冷たさに、私は驚いた。同棲が決まったときよりも。
 私たちが一緒に暮らすことなんて、冷たいサイダー以下。
 フォークを持っていないきみの左手が、フォークを持っていない私の右手を掴んだ。私が左利きなのは、こうして、きみと手をつなぐためだと思う。
 サイダー以下の手たちが、なんでもないように触れ合った。
 あついよ、と私。あついね、ときみ。
 食べにくいよ。

「ちゃんと戸締まり、しなよ」
「今日からはお前がしてよ」
 五年目、五月

 俺ってお前のこと大事にしてるの。
 学校から帰ってくるなり、きみが真顔でそう言った。
 私はベッドでうつぶせになって文庫本を広げたまま、うん、となにも考えずにうなずく。
 少し足を持ち上げると、緩いデニムの裾がずり下がる。貧弱なふくらはぎ。
 きみのハーゲンダッツ食べたこと、怒ってる?
 少し間があって、きみがベッド脇に置かれたカップに気づく。言わなきゃ、気づかなかったのに。ばかだな、お前。きみが言う。
 すう、はあ。
 いち、にの、さん。
 意を決して振り返ると、いつものなんでもない顔をしたきみ。
 ほっとして、どうしたの、って私は訊く。
 出逢ってから五年という月日が経って、私たちはなにも変わらなかった。
 掠れたような、叫ぶような、そんな洋楽を聴きながらただ生きている。
 私は揺るがない。きみも揺るがない。私ときみは、変わらない。
 なにも変わらないことを、マンネリ、と言うらしかった。
 きみは友達に吹き込まれたことを真に受けて、そんなことを言う。
 私は、あまりの愛おしさに、このまま抱きついてキスをしそうだった。
 ばかなきみ。
 なんでもないようなことこそが、私ときみの愛のかたちだというのに。
 きょうの夜は、外に食べにいこうか。
 私が笑ってそう言うと、きみはなんの答えを得たわけでもないのに、ほっとしたような顔をして、焼き肉が食べたい、と言った。
 その日に食べたタン塩は、いつもより、ちょっとだけ違ってみえた。

「今日は奮発して上タン塩なの」
「じゃあ、俺、ライス大盛り」
 六年目、三月

 その年の夏、私ときみは旅をした。
 二泊三日の長野旅行。
 ホテルだけは取って、けれど、なんの計画もない旅行だった。
 家にいるときとなにも変わらないような、穏やかでなにもない。
 観光客だらけの商店街を、肩を触れ合わせたまま歩いた。
 手は、つながなかった。
 それが私たちらしいと思った。
 商店街で私は、ヘアピンと、ジャムを買った。
 ジャムはアールグレイのものがひとつと、バニラの小瓶がみっつ。アールグレイはおうち用。バニラはお土産用。
 夜、眠れない私はそっとホテルを出た。
 ホールを従業員の方たちが掃除していたけれど、外へ繋がる自動ドアの電源は落とされていなかったので、外へ出た。
 夜の長野はおそろしく寒くて、ノースリーブのワンピース一枚では凍えるようだった。
 街頭なんてないホテルの周りは自分の足先すら見えない。
 静かに、虫がうるさく鳴いていた。
 なつき。
 小さな子供のような声で、私を呼ぶ。
 少しの先もないような暗がりの中にも、きみが立っているのがわかった。
 きみが持ってきてくれたカーディガンに袖を通す。
 ごめんね、ありがとう。
 きみはただ、眠そうな顔をして、暗いな、と言った。
 私が部屋を出たことに気づいて、追いかけてきてくれたきみは、寝間着の半袖シャツのまま。
 そっときみの腕を抱く。ぷつぷつしていた。
 意味もなく暗闇の中を歩く。
 もしかしたら、ぐるりと小さくその場で回っていただけかもしれない。
 虫の鳴き声は一定だ。
 結婚したら、なにか変わるかな。
 きみが、寝言のように言った。
 俺たちは、なにか、変わるのかな。
 そうも言った。
 いいえ。
 私は唄うように答える。
 なにも変わらない。この先ずっと、なにをしても。私たちは、きっと、ずっと、こういうふうに生きていく。
 私が死んでも、きみは変わらない。
 きみが死んでも、私は変わらない。
 どちらも死んでも、世界はなにも変わらない。
 なにも変わらないなら、なにもしなくていいんじゃない。
 虫が一瞬死んだように鳴き止んで。
 部屋に戻るか、ときみが寝起きのような声で言った。
 私は頷く。
 ねぇ。
 旅行、来てよかったね。
 そう言うと、きみが小さく笑った。

「明日は、どこ行こうか」
 七年目、十一月

 大学を卒業しても、私たちに大きな波は訪れなかった。
 私は就職を蹴って近くのカフェでアルバイトを始めた。
 どうして、ときみが訊く。
 働きたくないからよ。
 そう言い切った私に、きみは笑った。
 きみはといえば、ガソリンスタンドでアルバイトを始めた。
 どうして、と私が訊く。
 きみはすこし困って、時給がよかったんだよ、と言い訳のように言った。
 私はしばらく呼吸が苦しくなるほど笑った。
 ガソリンのにおいって、すてきじゃん。
 きみが不服そうにそう付け足す。
 私はもっと笑って、あぶないひと、と言った。あぶないにおいのすきな、あぶないひと。私のすきなひと。
 働くのがいやだったんでしょう。私とおなじように。
 私たちは学生時代のままのアパートに留まっていたし、お互いに大した贅沢も望まなかったから、それくらいでいいと思った。
 いつまでも、ふよふよ、不安定なことが安定している。
 私たちにとっての変化とは、外にごはんを食べに行くこと、家でお酒をのむこと、ふたりですこし遠くにでかけること。それくらいだった。
 弱いのにたくさんお酒をのむのが私。強いのにあまりのまないのがきみ。
 一度、たくさんのんでしまったとき、俺たちこれでいいのかな、ときみは鳴きそうな顔で言った。
 それを見て私が泣いてしまったから、きみはお酒をあまりのまない。
 たまにふたりの休みが重なると、近所の土手を散歩した。
 そうすると、きみは決まって、犬が欲しい、と言う。
 けれど、飼おうか、と言うと、首を振る。
 どうして。
 だって、犬にお前を取られそう。
 川の向こう側の夕陽、子供みたいに濡れたきみの眼球。
 そっと肩を寄せて、手をつないだ。
 きみに代わるひとは、きっと、いないわ。
 愛のことば、ではなく、ただの、ほんとうのことだった。
 代わるひとはいなくたって、代わる犬はいるかもしれない。
 きみがそんなことを言うから、私はたまらなくなって、キスをした。
 外でキスをするというのは、私たちにとって、大事件。
 でも、きっと。
 きみが悲しそうな目をしている。
 きっと、俺がいても、いなくても、お前は、なにも変わらない。
 太陽が水面に引っ掛かっている。
 答えを急くように、私たちを見ている。
 私は、あわてて、しっかりと、答えた。
 もちろん。
 きみがいてもいなくても、私は変わらないわ。
 私がいてもいなくても、きみも、変わらない。
 きみ以外のひとと一緒にいたら、なにかが変わるわ。
 私以外のひとと一緒にいたら、きみも、私も、変わる。
 私たちは、なんにも、変わらない。
 言葉も、掌の温度も、キスも、セックスも。
 一緒にいても、いなくても、変わらないのよ。
 そうか、と、満足した太陽が川の底に消えてゆく。
 私たちは手をつないで、ならんだまま、じっと暗くなってゆく空を見た。
 落ち着いたら。
 もう少し、落ち着いたら、犬を飼おうか。
 言いながら、私は、これ以上落ち着くということがどういうことなのか、わからなかった。
 きっと、なにも変わらないのに。
 それでもきみは、私の顔を見て、とても嬉しそうに笑った。

「俺、チワワがいい」
 八年目、一月

 目覚ましのない朝を終えて、怠惰の朝に起床する。
 隣で眠るきみを置いてベッドを抜けだし、顔も洗わずキッチンへ立つ。
 ぼこり。コーヒーが湧く。私はコーヒーが嫌いだった。
 生きることは、面倒くさい。
 なにしてるの。
 寝ぼけた顔のきみ。コーヒーのにおい。
 コーヒーを飲むのよ。
 ごはんは食べないの。
 食べないわ。
 そう、とだけきみは言った。
 ストーブをつけて、椅子に座って、爪先をあたためるのが、冬の朝のきみ。
 真っ白い足の先がとてつもなくきれいだった。
 寒そうな色、と、きみが言う。
 私の足の爪は、マニキュアに塗られて、サックスブルー色だった。
 冬の色よ。
 この前のオレンジ色は、ときみが珍しく食いついたから、あれは、あたたかい色よ、と私は答えてあげる。
 いやな女。
 面白そうにきみが言う。
 まさか。コーヒーにヨーグルトを入れていないわ。とてもいい恋人よ。
 嫌いなコーヒーを、俺に合わせて、無理に飲んでくれる。いい恋人だな。
 ちいさく笑って、きみの隣に椅子を引っ張ってきた。並んでストーブに爪先をかざす。ブルーとクリアの爪先、よっつ。
 どうして、今日は、コーヒーを飲んでいるの。
 きみが真っ黒い夜を飲みながら訊く。
 今日は、コーヒーを飲むべき日だと思ったから。
 夜は死にそうに苦かった。
 砂糖かミルクを入れたら、ときみが言う。
 やだ。
 そう、と、きみは、ふたつめ。
 変わらないわ。
 きみの荷物がまとまっても、この部屋は、なにも、変わらない。
 コーヒーを飲み終えたきみが、スウェットパンツからジーンズに履き替えて、顔を洗う。私はただそれを、中身のないマグカップをくわえて見ていた。
 顔くらい洗ったら、ときみが言う。
 私が顔を洗ったかどうか、きみがわからなくなったら、洗うわ。
 早く出て行けって、言ってる?
 いいえ。私は永遠に顔を洗わなくたっていいの。
 それでもお前は、そのまんまの顔なんだろうな、ときみが楽しそうに言う。
 きっときみだってそうよ。
 いつまで経っても、ガソリンのにおいをさせているんだわ、きっと。
 出て行く、ときみが言ったのは、たった三日前だった。
 私はただ、いつもバイトへ行くきみを見送るように、風邪には気をつけて、と言った。
 それが私ときみだった。
 荷物を持って、きみが扉の向こうへ踏み出す。
 ぴん、と張りつめた空。
 私たちの間へ割り込む、青い空気。
 眩みそうに白い朝日がきみを照らす。
 それじゃあね、ときみが言う。
 私はちいさく、やさしく、わらって。
 いってらっしゃい。
 そう言った。
 扉の向こうにきみが消えて、私がひとり、残される。
 どうしようにもどうにもならなかったので、泣きそうに冷たい水で顔を洗ってみたけれど、鏡にはいつもとなにも変わらない私の顔。
 どうして。
 自分に訊いてみる。

「嫌いなコーヒーまで飲んだのに、どうして、泣けないのよ」
 九年目

「特になし」
 十年目、七月

 ただいま、と言って、きみは帰ってきた。
 バイトへ行こうとして化粧を終えたところだった私は、一度だけまばたきをして、おかえりなさい、と言った。
 そのままきみはなにも言わずにコーヒーをぼこりといわせる。
 私はバイト先に電話をかけて、はじめて、当日欠勤をした。
 きみはごめんともなんとも言わなかった。
 私も言ってほしいとは思わなかった。
 向かい合って机に座って、きみはコーヒーを、私はホットミルクをのむ。
 なにもなかったように。
 小さなボリュームで洋楽を流して、ふたり、並んで。
 車を買った。
 やがてきみが言ったのは、そんなことだった。
 小さいし、中古だけど、ふたりで乗れるくらいは、あるから。
 まるで小さな子供が言い訳するように、きみは言う。
 これから一緒に、出かけてほしい。
 いいよ。
 私はすぐに答えた。
 わかっていて、訊く。どこへ?
 犬を飼おう、と、きみが言う。
 うん。
 ねぇ。
 すきよ。
 うん。
 なぁ。
 泣かないで。
 私、泣いているの?
 泣いてる。
 そう。
 じゃあ、きっと、きみのことを愛しているのよ。
 俺は、ずっと、愛してたけど。
 でも出て行ったわ。
 どんなふうになるのか、わからなかったから。
 私とはなれて、どうなふうに、なった?
 夏には、サイダー。冬には、コーヒー。味が変わった。まずくなった。
 きみは苦しそうな顔で、それを、大変なことのように言った。
 ばかなひと。
 そうして、私ときみは、なんでもないように、元に戻った。

「いてもいなくても一緒なら、そばにいたいわ」

 十年間綴り続けた、彼女と彼の日記を、彼女は、そっと閉じた。
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