目覚ましのない朝を終えて、怠惰の昼に起床する。隣を見ると、彼女がまだ眠っていた。
起こさないようにそっとベッドを抜け出し、顔も洗わずにキッチンへ立つ。
どれだけ眠くても腹は減るし、腹が減れば飯を作らなければいけない。人間は面倒だ。生きることは、面倒くさい。
「わたしもたべる」
寝ぼけた顔の彼女がキッチンに顔を出した。返事もせずに、トースターにパンを二枚突っ込む。
それから、コーヒーをつくる。食べなくても飲まなくても死ぬなんて、人間はなんて生きにくいんだろうか。
シャツ一枚の彼女の爪先を見ながらご飯を食べた。なにも塗っていない真っ白の爪が綺麗だと思った。
会話どころか、目が合うことすらないまま、パンを食べ終わった。そうして彼女が、パン屑にまみれた手を払いながら、
「このままじゃ、いけないね」
眠そうな目のままで、言った。
返事をする暇なんてなかった。即座に立ち上がった彼女が一瞬で僕を蹴り倒して、まばたきひとつを終える頃には、もう僕は彼女に跨がられていた。
「痛いよ」
受け身をとれずにぶつけた後頭部が痛い。
「凄く、痛い」
「じゃあ、死ねば?」
彼女らしい言い分だった。相変わらず意味がわからない。
「生きるのが面倒くさいなら、もうやめたら?」
「死ぬのも面倒くさいよ」
「どうするの?」
「殺してよ」
「いいよ」
彼女の人より冷たい手が僕の首にかかる。一切の躊躇なく、締め付けられた。
どこかずれてるような、半音下がりの日々が終わる。
喜ぶべきはずなのに、どうして、
「どうして泣いてるの?」
きっと君にはわからない。そして僕もわからなかった。
死ぬことよりも、君と離れることのが怖いなんて。