死んで、綺麗な少女と出逢った。
 40人の裁判員と、裁判官オシリス、中央に置かれた天秤。世界史の授業を真面目に受けたことのある人間ならば誰でもわかる。古代エジプトの死者の書に描かれる裁判所だ。
 僕の前に並んでいた人は、嘘をついた。さっき僕には『自殺』と言っていたのに、場では『事故死』と言い張っている。彼がそうするのは、自殺は殺人と同じくらい同じ罪だからだ。なにしろ自分を殺しているのだ。
 でも、馬鹿だと思った。地獄に怯えて嘘をついたところで、天秤は傾くのに。
 天秤が真実の羽根のほうへ傾く。心臓が跳ね上がった。ああ、彼、終わったな。
 綺麗な少女が彼の心臓を喰い散らかす。生々しい音が、彼の唯一の臓器を駄目にする。彼の心臓が死んでいく。彼は、もう生き返れない。
 天秤が傾いてしまった死者は、心臓を喰う怪物、アメミトによって大事な大事な心臓を喰われるのだ。喰われてしまった死者は二度と生まれ変われない。輪廻転生もできずにさまよい続ける。永遠の死者として、怪物のように。
 綺麗な少女、アメミトは口の周りを心臓のかけらと血液で汚し、顔を上げた。目があった。僕は微笑む。
 僕の番だった。僕は嘘をつかない。首を吊って死んだことを正直に話す。きっと地獄行きだけど、怪物よりはましだ。オシリスがトゥルーと宣言する。そして、
 僕の心臓が、喰われた。
 傾いてもない天秤の前に駆けたアメミトが、判決に関係なく僕の心臓を喰ったのだ。痛みはない。ただ、僕の中からなにかが失われていく。
「な、んで――」
 心臓を喰い終えたアメミトが、恍惚と笑う。飛びついてきたアメミトは、僕にキスをした。自分の心臓の味を、初めて知った。
「わたし、お前に惚れた。永遠にわたしと一緒にいてくれ」
 アメミトが可愛らしく笑顔をつくる。ない心臓が、ときめいた。
「お前の心は、もうわたしのものだ」
 なるほど、その通りだと思った。
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